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132 復活 ②

「音源は?」


「あ、あぁ…俺の携帯に全曲入ってる」

「優奈ぁ」


「はぁい!」


涙を拭きながら勝也のスマホを受け取り、勇太のスマホから転送を始めた。


「誰かイヤホンかなんか持ってない?」


「あ、あたしAirPodsある!」

「貸してくんない?」


「うんっ!」


勝也のスマホへ音源の移植が終わると今度はみさのAirPodsを同期させた。

そして


「セットリスト通りに順番入れ替えてくれ」


 そこから周りの人間は本物のミュージシャンの凄さを思い知らされる事になる。


優奈に曲の再生の仕方を教わりメサイアの音源を聞き始めた勝也。

椅子の背もたれに体を預け、腕を組んで目を閉じる。

体のどこかでリズムをとる事もなくただ黙って聞いているだけ。

なぜか教室内はシーンとした状態になりその姿を見守っている。


しばらく経った頃、勝也がスマホの画面を触り始めた。

頭まで戻し、今度は小刻みに止めては戻しを繰り返している。

緊張感の漂う教室へ教師が入ってきても全く気付く様子もなかった。


1時間目が終わっても2時間目が終わっても勝也の体勢は変わらず、結局音源を聞き続けた状態で午前中の授業が終わる。


 そして昼休み。

優奈が弁当のフタを開け、ソッと静かに机の上に置いてみたもののそれにも気づかない。

それほど集中しているのがヒシヒシと伝わる中、優奈も自分の弁当を持ってみさ達の席へやってきた。


「さすがにあの隣では食べられないか」

「うん、近寄れない」


「すっごい集中力だね」


「本気だよ、あの顔は…」


誰もが勝也に近寄れないままの昼休み。


「知らない曲8曲ってどれぐらいで覚えられるモンなの?」


「カラオケの歌詞覚えるだけでも大変じゃん…」

「覚えられたにしたってライブに出るほど煮詰められるのかな」

「俺なら無理だ」


「覚えきるだけで2週間以上使っちまうよなぁ?」


「でもやるって言ったら必ずやる人だから…」


みんなが遠巻きに見守る中、腕を組んだままの勝也の左手がかすかに運指を始めた。


「ウソ…あいつ頭の中でベース弾いてんの?」


「信じらんねぇ…」


結局手を付けることのなかった弁当を優奈が静かに片づけて昼休みは終わった。


そして午後からの2時間もずっと目を閉じたままだった勝也がようやく目を開ける。


「充電切れた…」


前を見るとみんながこっちを見ている。


「あ、もう休み時間か」

「え…いや、一日終わったけど…」


「は?昼休みは?」

「それも終わった」


「…俺のメシは?」


これほどの集中力だとは…みんなが呆気に取られている中で勇太が


「あの、勝也…リハっていつ頃なら…」


「いつでもいいぞ」

「…え?」


「全部覚えたから。今日でも明日でも」


「……ウソ…でしょ」

「…8曲全部?」


「完コピでいーんだろ?」

「え?…あ、うん」


「とりあえず出来るだけ回数入れてくれ」

「わ…わかった」


「優奈ぁ、ハラ減った」


「あ…はい」


放課後の教室で弁当を食べ始める勝也をみんなでみつめながら


「ホントに覚えちゃったの?」

「たった半日で?」


「…やっぱバケモノじゃん…」


 その日の帰り道、不思議そうな表情の蘭が


「どうやったらあんだけの時間で覚えられるの?」


「ん?メロディライン覚えちまったらキーは分かる。あとはブレイクとか決め時とかを覚えれば曲として成り立つだろ?それにイチから作るんじゃなくて元々のラインがあるんだからただのコピーじゃん」


「いや、口で言うのは簡単だけど…」


呆気にとられる友人達と違い、今日は一日上機嫌で今も笑顔が途切れない優奈に


「優奈ぁ、お前のkiller弦張り替えていい?」


「え、いいよ」


「いつものアーニーだとちょっとカタいからエリクサーぐらいに…」

「わかった」


「…もう音色まで決めてんだ……」


そこから友人たちと別れ、弦を買いに島村の店へ2人で向かう。

その道中


「なにニヤニヤしてんだ?」


「えーだってぇ…えへへ♪」

「気持ち悪りぃヤツだな」


「あー…また気持ち悪いって言ったぁ……」


「悪いな、ちょっと2週間だけ本気でやらせてくれ」


「なんで謝んの?」

「いや、ちょっとだけ忙しくなっから」


「な~んにも気にしないで。…あ、でも2つだけ約束してほしい」

「ん?」


「一つはちゃんとご飯食べる事。もう一つは夜ちゃんと寝る事」


「わかった」


島村の店で弦を買う。

いつもと違う弦を買った勝也に島村が理由を聞くと


「ほぉ、メサイアねぇ」


「なんかわかんねぇけどやる事になっちゃった」

「良かったなぁ優奈ちゃん」


「はいっ!!」


アパートに戻るとそのまま勝也は寝室に籠る。

本来なら今日は2人ともバイトが無い日でゆっくりと夕飯を作って食べノンビリ過ごしていただろう。

だが一人寝室に閉じこもって出て来ない勝也にも不満はなくどちらかと言えば上機嫌なまま夕飯の準備をする。


すると優奈のスマホが鳴った。


「もしもし?勇太だけど。勝也にかけても繋がらなくて…」


「あ~もうヘッドホンしちゃってるから。呼んで来ようか?」

「いーよいーよ。あのさ、スタジオ明日の7時で取れたって伝えてくれない?」


「わかった。……あ…勇太ぁ」

「ん?」


「ホントにありがとね。勝也を動かしてくれて」


「なぁに言ってんだよ、優奈がkiller出してくれたから勝也が弾く気になったんだ。まさか俺も弾いてもらえるとは思ってなかったから…こっちこそありがとな」


「あたしなんかがあの人のベースに影響するわけないじゃん」


「…優奈ってそういうトコだけはいつまでたっても鈍感だよな」


「なんでよ。あ、ブランカのみんなにも声かけていーんだよね?」

「恐ろしく緊張するけど言わなかったら殺されそうだもんな」


「じゃあえっと…あたし入れて9人とかになるけどチケット大丈夫?」


「あぁ、さっきハコに電話して勝也が入ってくれるから予定通り出るって言ったら、椅子とテーブル全部取っ払ってオールスタンディングにするって言ってたから大丈夫だよ」


「うわぁ…本気じゃん」

「たぶん前売りだけでウチの今までの最高動員超えてくるだろ。ウチの奴らもテンション上がり過ぎちゃってヤバい事になってるし…みんな勝也を待ってたんだよ」


「うん…そうだね」


勇太の言葉を聞いてまた涙ぐむ。


「一番待ってたのは優奈だろうけどな。んじゃ勝也に伝えといてね」


そういって電話を切った勇太。

勝也が復活するという噂はもう早くも広まり始めているようだ。

 

するとまたすぐに電話が鳴った。


今度は涼子の大きな声で


「優奈っ?!島村さんに聞いたんだけど勝也がメサイアに入ったってホント?!」


「早っっ!!(笑)…でも入ったんじゃないよ。ベースの人がケガしちゃったとかで1回だけヘルプで…」


「そんなのどうだっていーよ!いつやるの?!チケット取れるの?!」

「一応みんなの分も確保はしといたけど…」


「よし!でかした!!」


その直後、今度はみぃ。


「優奈っ?!涼子に聞いたんだけど勝也がメサイアに入ったってホント?!」


「ありゃ~…こりゃホントに大騒ぎだ…」


その後も紗季やJunなど何本も同じ内容の電話を受けるハメになったのだった。


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