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131 復活 ①

 涼子に貰った過去の写真は、勝也がいない時の優奈の至福のアイテムとなった。


夕飯の支度を済ませると起業への勉強もそこそこにそのフォルダを開き、うっとりとした目で何度も何度も繰り返し写真を見つめる。

他のメンバーのフォルダもやはりカッコいい写真ばかりで何時間見続けても飽きない宝物だ。


「あ、この人が奈美さんかな」


オフショットの中には今は亡くなってしまったJunの最愛の彼女らしき女性も写っていて


「スッゴイ綺麗……会ってみたかったなぁ」


楽屋での風景やライブ翌日のJun宅でのバーベキュー、飲み会などの写真もおびただしい量である。


写真の後半の方に進んでいくと、優奈の顔も登場し始めた。


「え、これっていつのだっけ。あ~こっちは仙台の打ち上げだぁ」


カメラ目線のモノもあれば隠し撮りっぽいモノもある。

あの泥酔した時の優奈までも証拠として収められていて


「ぎゃ~!恥ずかし~(笑)」


だがこんなに居心地の良かった世界に自分がいられたのだという実感も改めて湧いてきた。


「ただいま~」

「えっ?!…もうそんな時間…おっ、おかえり~!!」


慌ててノートパソコンを閉じる。

そんな事が頻繁にあった日々だった。



 ある日の朝、2人が学校に到着して教室に入ると


「お、来たぞ」

「とりあえず聞いてみろよ」


「…うん……」


何やら深刻な表情の勇太。

重そうな足取りで近寄ってくると


「…か…勝也ぁ……」

「ん~?」


モジモジと言いにくそうにしている。


「なんだよ気持ち悪りぃな」


「あのさ…えっと、その……ヘルプなんて無理だよなぁ」


「ヘルプ?」

「…うん…あの…えっと…」


なかなかはっきり言えない勇太の後ろから蘭がキレ気味に


「あー!もうイライラする!!なんでアンタはもっとハキハキ物が言えないのよっ!!!」


「だって…蘭がこの立場だったら言えんのかよっ!!」

「言いにくいのはわかるけどちゃんと話さないと意味が伝わんないでしょ!!」


「待て待て!!ケンカする前にとりあえず説明しろって」


勇太と蘭の口ゲンカに発展しそうな雰囲気を遮ると


「あのさ…昨日の夜連絡が来て、ウチのベースが腕骨折したって…」


「…え?」


「けど2週間後にライブ決まっちゃってて…今回は2バンドだからキャンセルしたら相手がワンマンになっちまうから…」


その話の内容に周りが注目し始めた。


「で、あの…1回だけライブ頼めないかなぁなんて…」


優奈の鼓動が一気に早くなる。


もちろんメンバーとしての勧誘なら即座に勝也は断るだろう。

だが事情が事情な1回だけのヘルプ…しかも声を掛けてきたのは見ず知らずの相手ではない。

 

勝也の返事に教室中が注目する中


「…ん~……」


眉間に皺を寄せて考え込む。

即答は無かった、という事はまだ可能性はあるという事だ。


JUNCTIONのような仲間だけのお祭りの為のセッションバンドではないため優奈も自分の想いを言う訳にはいかない。

しかも勇太のメサイアと言えばそこそこ名前も通っているバンドである。


「1回だけっつっても……」

「図に乗ったりしねぇから!『また次も』とかそんな事は絶対…」


「2週間後って合わせる時間もあんまねぇだろ」

「MCとかで繋いで少し曲減らす!」


「何曲やるつもりなんだよ」

「8の予定だったけど、なんとか7か6には…」


(…頑張れ!…頑張れ!)


みんな心の中で勇太を応援し始めた。

ここを押しきれれば勝也がまたステージに…


「あ、でもベースがねぇわ。悪いけど俺のはちょっと…」

「なんならウチのベースの…」


すると隣で小さくスッと優奈が手を上げ


「…あ…あの!……同じ仕様のkillerならありますけども…」


怒られるかもと思い下を向いてビクビクしながら小さな声で提案する。

なぜなら優奈も勇太を応援していたからだった。


「なんだよお前まで……ったく…」


それからしばらく、周りの友人達にとってはとてつもなく長い時間に感じる沈黙の後



「しょうがねぇなぁ」



「……えっ??」


「ホントに今回だけだぞ」


静寂が辺りを包んだ。

そしてその勝也の返事の意味を理解した途端にクラス中が


「やぁったああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」


信じられないといった表情でポカンと口を開けたまま固まる勇太に友人達が群がる。


「すっげぇじゃんかよ勇太ぁ!!」

「よくやったぁぁ!!」


お祭り騒ぎのような盛り上がりの中、優奈は両手で目から下を覆い隠したままうつむいて涙をこぼしていた。


その優奈に蘭がスッと近づき


「良かったね、優奈」


その声を聞くともう我慢できず蘭の胸に飛び込む。

そしてギュッと抱きしめられると後は号泣だった。



『KATSUYA』が復活する。



たった1回きりのヘルプとはいえライブハウスのステージに上がる。


どれだけ待ち焦がれただろう…

どれだけ夢見ただろう…


あの去年のお祭りユニットではなく、やっとこの男がベーシストとして動いた。


「そんなに騒がなくても……」


なぜかポツンと一人ぼっちにされた勝也本人をヨソに勇太の周りには友人が群がり、蘭に抱きしめられて大泣きする優奈の周りに涙目になったみさ達も集まってきた。


「勇太ぁ!わかってるよねぇ」

「…あ…あぁ、チケット何枚いる?」


「はぁぁい!!!」


ほとんどのクラスメイトの手が上がった。


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