129 祭り ②
祭り当日の朝、早くから浴衣を2つとカバンなどの大きな荷物を持って
「おっはよ~!」
「ん~……」
まだまだ準備するには早すぎる時間だが、今日は着付けなどをしなければいけない為朝のルーティンを早く終わらせなければならない。
早速昨日自分が脱ぎすてた服やその他の洗濯物をまとめると洗濯機を回し掃除機をかけ始める。
普段の休みの日よりドタバタと騒がしい物音にさすがの勝也も起きてきて
「なんでこんなに早いんだよ…」
ブツブツ文句を言う勝也を掃除機で追い回しながら
「慌てて着付けの時間無くなったらイヤだもん!」
忙しく家事を続けながらもずっと笑顔の優奈を見てよほど今日を楽しみにしていたことがわかる。
これほど喜んでいるなら…と優奈が家事をしている間に朝食の準備を始める勝也。
ようやく落ち着いて2人でパンを食べると
「何時に待ち合わせ?」
「6時に駅前」
「んじゃ5時半に出れば充分間に合うじゃんか」
「だって早く目が覚めちゃったんだもん」
食後にマッタリとコーヒーを飲みながらソファでくっつく時間もしっかり取る優奈だった。
結局ダラダラといつもの休みを過ごし、2時を過ぎた頃
「さ、着替えるよ」
「もう?」
強引に服を脱がされ浴衣を着せられる。
優奈は自分で着れるが勝也の着付けに時間がかかると予想した。
そして色々着丈を合わせて何度かやり直し、ついに
「うわ…やっぱ似合う…」
「おだてたってなんにも出ねぇぞ」
「なぁんだ、なんにも出ないのかぁ」
そんな冗談を返しながらも、気を抜くとジッと見とれてしまいそうになる。
それからパパッと服を脱いで浴衣を着始めると
「おっと、あやうく襲いそうになるトコだった」
「ちょっと!決心揺らぐからヤメて!!」
真顔で怒られた。
その後、和装用に少し薄めの化粧をした後
「ちょっとちょっと、記念写真」
自撮りのため全身は入らなかったものの上半身をくっつけた浴衣写メを数枚撮る。
浴衣姿の優奈は勝也から見てもため息が出てしまうほど美しく、そして満面の笑顔だ。
5時半頃アパートを出る。
洋服の時より少し歩くペースも遅くなりつつ
「この下駄ってのがちょっと歩きづらいな」
「元々早く歩くためのモノじゃないもんね。ゆっくり行こ」
勝也と浴衣で出掛けるという時点で目的の半分は達成できている優奈。
特に急ぐ事も無く駅へ着いたのだがもう既に浴衣姿の人も多くいて祭りの盛大さを感じる。
だがそんな中やはり優奈の浴衣姿は群を抜いて可愛く相当注目を集めていた。
「やっぱ浴衣の人多いね」
「ん?でもやっぱお前が一番似合ってる」
滅多に聞くことのない言葉を言われて頬を赤く染めるつつ電車に揺られて2駅。
神社のある駅前に到着するともうほとんどみんな揃っていて
「うわ…この2人めっちゃ目立つ」
「え~、そぉ?」
「勝也ってすっごく浴衣似合うじゃん!」
「でしょぉ?!ほらぁ言ったじゃんか!」
「バーカ、お世辞に決まってんだろ」
「いやホントに似合ってる…」
それから岳達も合流し、残るは蘭だけとなったのだが
「まさか来ないとか」
「来るって言ってたもん。蘭はウソつかないよ」
「けど最後まで浴衣イヤがってたもんなぁ」
みんなの頭に少し不安が襲いかけたその時
「ごめーん、着るのに手間取ったぁ」
「うわ……」
いつもは下ろしている髪をアップにし黒の浴衣を着て現れた蘭を見て全員固まった。
勝也も含めた男達はポカンと口を開け女子は放心状態で見とれる。
「…なんか…ヘン??」
「いや、あの…」
「なによ」
「…後で写真撮らせてくんない?」
「は?」
この人がハードロッカーであることが信じられないほどの似合い様だった。
「蘭、綺麗…ヤッバ~」
「だからあんたが言うなって」
ようやく全員揃うと祭りへ繰り出す。
この集団、特に優奈と蘭は異常なほど注目を集めている。
徐々に周りに人が増え始めると自然と手を繋ぐ勝也と優奈。
それから祭りを満喫する。
見るモノ全てを食べたがる康太や千夏、代わる代わるいろんな人と手を繋いで歩くミキなど本当に楽しい祭りだった。
気づけば勝也と洋司が紙コップのビールを飲みながら歩いている。
「いつの間にビールなんか」
「ん?さっき洋司が買ってきてくれた」
「…信じらんない」
かなりの行列が出来ている屋台を見つける。
そこは色とりどりのカラフルなわたがしの店らしく、女子ばかりが長蛇の列を作っていた。
「可愛ぃー!!あれ食べたーい!」
「並んじゃう?」
「なかなか時間かかりそうだけど大丈夫?」
「あと2~3本ビール渡しときゃ大丈夫でしょ」
蘭を除いた女子全員と男数名でその行列に並ぶ。
やはりなかなかの時間がかかったもののようやくゲットして勝也達のいる場所に戻っていくと、フッと優奈が立ち止まった。
「どしたの?」
優奈の視線の先へとみさが目を向けると、他の男達はおらず勝也と蘭だけが待っていた。
少し微笑みを浮かべた勝也と楽しそうな笑顔の蘭が話している。
お揃いのような黒の浴衣の2人は相当雰囲気も良く、まるで2人っきりで祭りに来たかのようなお似合いな様子だ。
「…いや…友達だもん、話したりぐらいしたって…」
「そ、そぉそぉ!別にそんな気にする事…」
周りが急に弁解し始めてしまうほど誰が見てもいい雰囲気のカップルに見える。
「ほ、ほら!早く行こ!」
「なんか…」
「え?」
ジッとその2人を見つめながら
「浴衣の蘭と並んでても見劣りしないって、やっぱ勝也もスッゴイ似合ってるって事だよね」
「……は?」
ヤキモチを妬いていたのではなく、勝也に見とれていたようだ。
「…心配して損した」
2人の元に戻るとちょうど他の男子も戻ってきた。
手にはまたしてもビールを数本持っていて
「まだ飲むのぉ??」
「だってみんなで飲んだら一瞬だったんだもん」
「ホントこいつらの将来が不安」
見れば蘭も普通に缶ビールを受け取っている。
それからまた進んでいくが、道中カラフルなわたがしを顔の前に出してくる優奈。
「食べる?」
「は?甘さのカタマリだろーが。不機嫌になるぞ」
「だよね」
そんな会話を交わしながら楽しそうな集団が歩いていると、ふいに勝也の体が知らない男とぶつかった。
どう見ても向こうがよそ見をしていたのだが
「おう、痛ぇな!」
突然大きめの声で絡んできた。
「…あ?」
「ぶつかっといて挨拶無しかよ!」
「そっちがぶつかってきたんじゃん」
「ああっ?!?!」
威勢の良さそうな兄ちゃんの絡みに、みんな勝也がキレる事を覚悟した。
ところが
「おぉそうか。そりゃ悪かったな」
「え?」
なんと勝也が謝った。
みんなが驚きの表情で見つめる中、謝った途端勝てると思ったのか
「そんなモンじゃ足りねぇなぁ」
調子に乗り始める男。
康太達が前に出ようとすると体の後ろで勝也が『待て』と手で合図を送る。
「女連れなんだよ、勘弁してくんねぇか」
「出来ねぇな。そんだけ女連れてんなら2~3人寄こせよ、なら勘弁してやらぁ」
その言葉で勝也がピクッと反応する。
(もうダメだ…終わった)
誰もがそう覚悟した瞬間、後ろから声がする。
「はは、ヤメとけヤメとけ。お前らなんか一瞬でボロ雑巾にされるぞ」
「えっ?…あっ!…ひ…緋咲さんっ!」
「そいつがキレる前に謝って消えた方がいいぞ。なぁ『勝也』」
「え!…か…勝也って……」
「なんだよ、こんな一番似合わねぇトコ来ちゃってよ」
「お前にだけは言われたくねーよ」
「あ…あの……」
「お前ら神崎のトコにいるヤツらだな。帰って神崎に言ってみな?『元ブランカのKATSUYA』にエラそうに絡んじまったって。多分半殺しにされると思うけどよ」
「…ブラン……あ、あの!すいませんでしたぁ!!!!」
猛ダッシュで逃げるように走り去っていった。
「何おとなしく謝ってんだよ、なんか企んでたのか?」
「浴衣汚したくなかっただけだよ」
「…え?」
「なるほどな。んじゃ一コ貸しとくわ」
「別に助けてくれなんて頼んでねーけど」
あの緋咲と対等に会話する姿は同級生から見ても別次元の人間だった。
それからまた祭りをブラブラする。
そしてそこそこの時間になってみんな駅の方へと向かい始めた。
「しかし勝也も大人になったねぇ」
「ん?」
「女寄こせって言われた時は『終わった…』って思ったけどな」
「あたしも思ったぁ」
みんな同じことが頭をよぎったようだったが
「これ優奈のオヤジさんの浴衣なんだよ。汚したり破いたりとか絶対できねぇし、それに…」
「…それに?」
すると優奈の頭をポンポンと撫でて
「こいつがあんなに楽しみにしてた祭りだからさ、イヤな想い出にしてやりたくなかったんだ」
「……え……」
自分の為に堪えてくれたと聞いて目に涙を溜める優奈。
「はぁ…そこまで優奈が大事かねぇ」
「ホンットムカつく」




