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128 祭り ①

「ねー、今年はお祭りどーする?」

「もうそんな時期かぁ」


 休み時間にみんながワイワイ話している時だった。


「祭り?」

「あ、勝也は行った事ないと思う」


「そんなのあったんだ。毎年やってんの?」

「やってるよ、確か去年はちょうどライブの日だったから。1年の時はまだ付き合ってなかった頃だし知らないって事は行ってないでしょ」


「ふーん…お前は?」


「だから去年はライブだったってば。1年の時はみさ達と行った」


「そーなんだ、どんな祭り?」

「普通にいっぱい屋台とか出て、昼間は御神輿とかも出てるんじゃない?どっちにしても勝也の大嫌いな『人混み』だよ」


「お前は行かないの?」


「勝也が行かないのに行く訳ないじゃん」


今頃になって初めてこの街に祭りがある事を知った勝也。

確かに優奈が言う通り人混みは苦手だが、先日の温泉旅行の時も屋台を見て嬉しそうにはしゃいでいたのを思い出すと本当は行きたいのではないかとふと疑問に思った。


「ウチは康太と一緒に合流するよ」


「芽衣ちゃんトコは~?」

「ミキちゃん連れて行こうって話してるからアッチで会えるかも」


「蘭は~?」

「別に行く予定は無いけど一人でなんてさすがにねぇ」


「一緒にいこーよ」

「俺らも一人ぼっちだけど?」


「こうなったら一人とか二人とか言ってないでみんなで行かない?」


だんだん話が盛り上がってきたものの誰も優奈には声を掛けない。

チラッと横目で見ると普通に話を聞いているようには見えるが、その時陽平が


「勝也んトコは~?」

「ん?」


「バイトか」

「い~や」


「あ~、でも人混みだもんねぇ…」


スッと横を見ると優奈が小さく両手を合わせてみさに『ごめん、ムリ…』といった合図を送っている。

それを見て


「いーよ」


「……えっ??」


全員が驚く。

いや、一番驚いているのは優奈だった。


「ちょ…ちょっと…お祭りって知ってる?人いっぱいなんだよ?すっごく騒がしいんだよ?」

「そんぐらい知ってるよ」


「店とかすっごい出ててたくさん人が並んでてほとんどのモンが並ばないと買えないんだぞ?」

「ゴチャゴチャの人混みで座るトコなんてほとんど無いんだぞ?」

「なかなか前に進めなかったりとか知らない人とぶつかったりとかするんだよ?」


「てめぇら俺をバカにしてんのか」


「ケンカとかしちゃダメなんだよ?人に文句言ったり不機嫌になったりしちゃダメなんだよ?」


「うるせぇな!行きたいのか行きたくないのかどっちなんだよ!」


「そりゃ優奈はお祭り大好きだもんねぇ」

「じゃあいーよ、付き合ってやる」


「ホ…ホントに?…ホントにいーの?」

「行きたいんだろ?」


「やったあああぁぁぁぁぁぁ!!!!はーい!あたしも行くー!!!」


やはり本心は行きたくて行きたくてたまらなかったようだ。

そこからみんなとの会話に参加するようになった優奈。

その表情からよほど嬉しかったことがわかる。


「勝也が祭りに行くとはねぇ、変わったもんだ」


「別に…優奈が行きたそうだったからだよ」

「愛だね」


「あぁ」


「うわ、認めちゃうんだ」


勝也と蘭の会話はもう優奈の耳には届いていなかった。


「浴衣着れる~♪♪」


帰り道の途中も笑顔が止まらない様子の優奈。

嬉しそうにチョロチョロ跳ね歩いている。


「みんな浴衣着んの?」

「うん、蘭は最後までゴネてたけど(笑)」


「ヤローどもは服でいいんだよな?」


「康太は浴衣着るって言ってたけど、勝也は…持ってないよね」

「もちろん!」


「威張るトコじゃないんですけど」


今日は2人ともバイトが無い日だ。

元々勝也ほど毎日バイトに入っていた訳ではない優奈だが、勝也が頻度を落としてくれたおかげでこうして2人で帰れる日が増えていた。


「あ、お母さんだ。もしもーしなぁにー?」


突然鳴った電話にも機嫌よく出る。


「ねー、今日カレーだって」

「行く!」


夕飯がカレーの時に呼ばれると絶対断らないのを知ってから優奈の家では夕飯がカレーになる事が増えた。


夕方になり優奈の家に到着して父の帰りを待つ間に、優奈は早くも浴衣を出してきて服の上から羽織って見たりカバンや下駄などを引っ張り出して準備を始めていた。

すると


「ただいまー。お?どうした浴衣なんか」


「今年はお祭りに行けるんだって」

「へー、ついこの前もう着る事ないかもって言ってたのに良かったじゃないか」


「え?」


「今年は勝也が連れてってくれるって。雪降るかも」

「良かったな、高校最後のお祭りだもんな」


どうやら優奈はもう二度と浴衣を着て祭りに行けることなど無いと思っていたらしい。

こういうところも今までガマンさせていたのだと少し反省した。


「勝也君は浴衣着ないのか」


「あ、僕は普通の服でいきます」

「さすがに浴衣は持ってないよ(笑)」


「俺のがあるじゃないか」


「…え?」


「母さん浴衣出してやれよ。どうせ行くなら2人とも浴衣の方が」

「いや!いやいやいや!それはちょっと…あの…」


「そーだぁ!お父さんの浴衣なら着れるじゃんっ!!」


「いや、だから…あの…」


「ちょっと持ってくるからサイズ合わせてみよ」


親子3人で盛り上がってしまい勝也の遠慮は聞き入れてもらえない。

そして母が出してきたのは黒の浴衣で、仕方なく羽織ってみると


「カ…カッコい~~」


「やっぱりいつも黒着てるだけあって似合うじゃない」

「うんうん、俺が着るより全然似合ってる」


「いや…あの…浴衣とか、その…」


「なんで~?こないだ温泉行った時も思ってたの。和装スッゴイ似合うなぁって」

「ウソつけ」

「ホントだってばぁ!」


「ま、せっかく優奈を連れてってくれる気になったんだ。この際諦めて浴衣デートしてやってくれ」


「えっと…あ、じゃあ…お借りします…」


「ヤッバ~!ますます楽しみになってきたぁ」


夕飯が終わって少しゆっくりした後一人アパートに戻った勝也。

寝る前ぐらいにかかってきた電話に出ると


「ホントにあの浴衣着んのかよぉ」


「なんで?ダサかった?」

「いや、浴衣自体は黒だしカッコ良かったけど…」


「ホントに似合ってたってば。温泉行った時は普通に着てたじゃん」

「そりゃお前と2人っきりだったから」


「…え?」


「お前にだけに見せるんならいーけどよ、みんなの前で浴衣とかこっ恥ずかしいよ」


優奈にしか見せたくないという勝也の何気ない一言が余計にワクワクを盛り上げてしまった。


「あたしがみんなに見せたいの!」


「は?」

「勝也が浴衣着たらこんなにカッコいいんだよって自慢したい」


「なんだそりゃ、自慢になんかなんねーよ」

「いーの!あたしが気に入ったの!」


「はぁ……そーですか…」


優奈が気に入ったのならと渋々了解した勝也だった。


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