127 休みの日
「なぁ、優奈ぁ」
「ん~」
「ちょっと聞きたい事あんだけど」
週明けの休み時間の廊下で康太に捕まった。
その表情は少し真剣で…
「またデートしてくれとかいうんじゃないでしょうねぇ(笑)」
「バーカ、いつの話持ち出してんだよ(笑)」
もうあの出来事も今では笑い話に出来るほどになっていた。
「あのさぁ、お前らって休みの日とかどうやって過ごしてんの?」
「休みの日?」
「うん、土日ってほとんどずっと一緒にいるんだろ?」
「あ~、たしかにずっと一緒だけど…」
以前ありさにも同じ事を聞かれた。
その時は自分もみんなと同じように外で待ち合わせをしてみたいという気になり、半ば無理矢理勝也と会わずに夜を過ごして思いっきり後悔した記憶がある。
ありさに同じことを聞かれたことは伏せつつ
「別に何にもしてないよぉ。部屋でゴロゴロしてるか思いついたらなんか買い物行ったりとかはするけど」
「それって時間持て余したりとかしない?」
「ぜーんぜん。会話なんてそんなにたくさんするわけでもないし…ほっといたら一日中ベース弾こうとするから邪魔したりはする」
「遊びに出かけたりとかは?」
「遊びにって…ほとんど行ってないなぁ」
「そっかぁ…やっぱ優奈んトコは勝也が一人暮らしだから部屋にいるだけでも2人っきりだもんなぁ」
「なに、デートのネタが無いって?」
「うん…俺んトコは家でゴロゴロとか出来ねぇし会うのは外だけど、そうなったらもうあんま行くとことか無くなって来ちゃって」
「一緒にいるだけじゃダメなの?」
「それはお前んトコがそうやってゆっくり出来る部屋があるから言えるんだよ」
ありさに聞かれた時も『勝也が一人暮らしだから…』という言葉をいわれた。
確かにもし勝也が実家住みだったら今のように二人で住んでいるような気分にはなれていないだろう。
合い鍵を使って勝手に部屋に入ったり勝也がいない時でも一人で過ごしたりなど出来るはずがない。
だが実際2人で会話もなく部屋でテレビを見ているだけでも勝也がベースを弾いている横で優奈が雑誌を読んだりしているだけでもそれをヒマだとか退屈だとか感じたことは一度もなかった。
同じ空間に一緒にいて手を伸ばせば届くところにいるという安心感だけで満足だった。
「そういえばこの土日って何してたっけ…」
アパートに泊まるのはほとんどが土曜日で特別な理由でもない限り2連泊は出来ない。
金曜日に泊まる事がある場合は土曜の夜は家に帰る事になっている。
この週末も金曜の夜にはアパートで過ごしていたもののほぼ寝るためだけだが一旦実家に戻った。
そして優奈の記憶は土曜の朝に遡る。
【朝、平日より少しだけ遅めに目覚めそのまま顔を洗い歯を磨く。
化粧水だけを顔につけてパジャマを脱いで本当にラフな服装に着替え、スッピンの顔にマスクだけしてそのまま一人でコンビニへ行き、朝食用のパンなどを買ってそのままアパートへ向かう。
優奈の朝はそこから始まる。
学校がある日とは違い静かにカギを開けて静かに入る。
昨日脱いだ服やタオルなどを洗濯機に入れて回すと少し掃除や片づけなどをしてから化粧を始める。
特に出かける予定はないが毎日の日課であるのと、もし出かけるとなっても勝也を待たせないようにいつでも出られるための準備だ。
テレビを見ながらノンビリと化粧を続けていると寝ぼけ眼の勝也が起きてきた。
「…おあよぉ~…」
「おはよ、パン買ってきたから顔洗ってきて」
「…ん~…」
ヨタヨタと顔を洗いに行って戻ってきた勝也。
模様替えによって2人の座る位置はテレビを正面にして横並びになったため、その定位置に座るとそのままもたれかかるように体を預けてきた。
「ちょっとぉ、失敗したらどーすんのよ」
勝也の体をそのまま寝転がらせて太ももに頭を乗せさせる。
ヒザ枕の状態でまたウトウトし始める勝也の顔と鏡を交互に見ながらいつもよりゆっくりめに化粧を終えた。
「終わったよ、食べよ~」
「…ん~…」
重そうにムクッと体を起こす勝也。
そして買ってきたパンを机に置き、後は卵やハムなどを簡単に焼いて並べた。
開いているのかいないのかわからない目のままモグモグとパンを食べる様子を見て
「昨日あれからまたベース弾いたでしょ」
「……ん……ちょっとだけ……」
おそらく夜中までだろう。
朝食が終わった頃洗濯も終わった。
それを出してきて干し、完了した頃にようやく勝也の目がパッチリと開く。
これで朝のルーティンは終わりだ。
ソファに座る勝也の隣にようやく腰を下ろすと今度は優奈が体を預ける。
そしてピッタリくっついたまま2人でテレビを眺めた。
『今日はどうする?』とか『どっか行きたいトコある?』といった会話は全く無い。
最近はテレビを見ていても笑ったりするぐらいであまり会話は無いが
「あー!これ食べてみたーい!」
グルメ番組を見ていると時折優奈が言う事がある。
今日もその発言が出ると
「これぐらいなら作れんじゃない?」
「だよねぇ…調べてみよ」
スマホで優奈がレシピを調べ、その材料や調理器具が賄えるモノだと確認すると
「よし着替えろ!」
「おー!」
これが最近の2人の流行りだった。
買い物に出かけ、出たついでに色々見て回ったりする。
寄り道してたこ焼きを食べてみたり思いつきで行動し、おかげでお昼ご飯は入らないという結果になった。
ブラブラ歩きながらまたアパートに戻ると2人でスマホを覗き込みながらあーでもないこーでもないと騒ぎつつ料理を始める。
勝也が切り物をしている間に優奈が味付けをしたりその味見で大騒ぎしたり…
出来上がったのはもう夕方で結局それが夕飯となる。
その出来栄えにご満悦な表情になった2人。
しばらくマッタリした後、一緒に風呂に入りそして一緒に布団に入った。
翌朝、先に目覚めたのは優奈。
いつものようにしばらく寝顔を眺め、いつものようにちょっかいを出して起こし、そしてそのちょっかいがあらぬ方向に向きだすとそのまま始まってしまう。
結局起きだしたのはもうお昼前。
まずはシャワーを浴びる。
最近は気温が上がってきた事もあって勝也はハーパンのみ、優奈も裸に勝也のTシャツという格好でリビングに落ち着く。
日曜日はいつもどちらかがお腹減ったと言い出してからの行動開始なのだが
「こんなパンケーキって家で作れんのかなぁ」
テレビを見るとふわふわで相当背の高いパンケーキが映っていた。
「どーだろうね。失敗確率はかなり高いと思うよ(笑)…っていうか勝也の口からパンケーキなんてどうしたの?」
「めっちゃ甘いのかなぁ」
「メイプルかけなかったらそこまででもないよ」
「食ったことあんの?」
「島村さんトコの一本手前の道にパンケーキのお店あるじゃん」
「早く化粧しろ」
「ホントに食べれんの~?」
優奈の化粧を待って出かける。
まっすぐにその店を目指してたどり着くと一組並んでいただけですぐ入れた。
いつもなら並ぶのをイヤがる勝也も自分が言い出した手前素直に待った。
結局勝也は残りもう少しと言うところで甘さの為完食を断念。
残りを優奈に押し付け、食べ終わってその店を出る。
「食いきれなかったけどウマかった」
「勝也があれだけ食べたんだから上出来じゃん」
「ソースとかかけたらお好み焼きみたいになるんじゃない?」
「…気持ち悪いからヤメて……」
ところがその一言から2人の頭にはお好み焼きが浮かんで離れなくなってしまった。
結局自然に夕飯はお好み焼きにしようという事になり、家電屋に寄って二人用の小さなホットプレートを買う。
いつもの駅前のスーパーで材料を買ってアパートに戻ると、昨日に引き続き予想以上の出来栄えにご満悦な夕飯となった。
いつもなら夜は一旦布団に潜り込むこともあるが、今日は異常にお腹が一杯なためグッと堪える優奈。
それから片づけをしてアパートを出た。
優奈が帰るときは必ず勝也が家まで送ってくれる。
そして手を振って別れ、この週末を終えた】
「ん~…やっぱ思いつきでしか行動してないや(笑)」
「でもなんか満喫してるって感じだよな」
「そぉ?」
「今度の休みにどこそこ行こー!とかにはあんまならないんだろ?」
「そーだね、滅多にない」
「結局お前らの休みって『何かをするため』じゃなくて『一緒にいるため』にあるんだな」
「あ、それはそうかも」
「そっか、わかった。なんかいい事教えてもらった気がするよ♪サンキュー!」
笑顔で去っていった康太。
「こんなんで役にたったのかなぁ…」




