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126 着こなし

 あれ以来春はみんなに教えてもらったメイクを一生懸命覚えて自分でできるようになり、その周りには友達も増えて性格も明るくなっていった。

校内で優奈に会うと声をかけてもらえるようになって夢のような高校生活を送り始める。


そして海も、勝也にヘッドロックを食らう仲間として耕平とも親しくなり今までとは全く違う毎日になっていった。


さらに2人の実家である団子屋にも変化が起こる。


たまに寄るようになった勝也と優奈が店内にあったカバン置き用の長椅子に腰かけて団子を食べている姿が人目に付き、真似して店内で食べたいという生徒が増え始めた。

それに対応しようと椅子を増やしたところ人気となって、いつしかお団子カフェのような盛況ぶりになっていたのだった。


自分達がそんなところにまで影響を与えていたとは全く知らない2人は、今日も平穏な日々を送っていた。


 ある日の昼休み。


相変わらず勝也は机に突っ伏して寝ており、その横に椅子をくっつけた優奈が後ろ向けに勝也にもたれかかってスマホをイジっている。

イチャイチャしている感じではないが、最近よく見かける勝也を背もたれ代わりにしたこの体勢は周りから羨ましそうな目で見られていた。


昼休みが終わる寸前ムクッと体を起こした勝也。

椅子に体を預けて腕を組み、髪には少し寝ぐせがついている。

それを横から黙って手ぐしで直す優奈に目を閉じてされるがまま。

イメチェンの時に優奈が切った勝也の髪はまた伸びてきてくくろうと思えばくくれるほどの長さになっていた。


「トイレ行ってくるわ」

「うん」


そのあと優奈が自分の椅子を席に戻そうとしていると


「ねー、勝也のあの制服って1年の最初から来てたヤツ?」


「そーだよ?」

「ふーん……」


「なんで?」

「いや…もう見慣れちゃったけどさ、今じゃあんなにカッコ良く着てる感じするのに最初のイメージってもっとヨレヨレっていうか…あんまカッコいい感じじゃなかったじゃん?」


「あー、なっつかしー(笑)」


「そういえばそうだね。なんかもう思い出そうとしてもハッキリとは…」

「今更だけど何をどうすればあんなにイメージ変わるのかなぁと思ってさ」


「ん~…あたしもドコをどうしたのかわかんないなぁ。最初は完全に違う服にしか見えなかったもんね」


「そりゃぁお前らの見る目が変わったからなんじゃないの?」

「あぁ…それまではただの暗いヤツってしか見てなかったけどどんなヤツなのか知っちゃったら急に服まで違って見えるみたいな」


「でも優奈はその前から勝也にホレちゃってたんだからブランカとか関係なかったじゃん」


「それもそーだ」


みんなの話を聞いて思い返してみると…まだ付き合ってもいない頃、勝也の私服を初めて見た時は普段の学校でのあのヨレヨレ制服からは想像もつかないほどカッコよく見えた。それは勝也を探して島村の店に辿り着いたみさ達も同じ想いだった。


今でこそ当たり前のように見ている勝也の着こなしだが何がどう違うのか…。

そんな時に勝也がトイレから戻ってきた。

なぜか周りからジッと見つめられるその視線に


「…な…なに?」


しばらく沈黙のまま見つめられていると


「勝也って最初の頃どんな着方してたの?」


「着方?…なんの?」

「その制服」


「……は?」


「ブランカのメンバーだってバレる前だよ」

「あー……別に大して変わんねぇだろ」


「いや、全然違うんですけど…」


そう言いながら席に座ろうとすると


「今でもあのカッコって出来る?」


「は?…なんでそんな事…」

「見たいっ!!」


「あたしも見てみたい」


「なんだよメンドくせぇ…」


周りにやいのやいの言われて仕方なく下ろしかけた腰をまた上げると…


ベルトを緩めズボンを少し上げてベルト穴を一つ縮め、3つほど開けていたシャツのボタンを留めて一つだけにし、上着を普通に着なおす。

すると


「…そ…それだけ?!」


「でもなんかなっつかしーーーーー!!!!!」


みんなの脳裏にハッキリとあの頃の勝也が思い出された。

そして最後に


「そんでこれか?」


結んでいたゴムをほどき髪をクシャクシャッとしてボサボサ頭にする。


「それだぁ!!すっげぇ、1年の時の勝也だ……」


そこには紛れもなく優奈が追いかけていた頃の勝也が立っていた。


あまりにも一瞬の出来事に唖然としながらも、優奈の頭の中には懐かしいあの頃の思い出が一気に甦る。

毎日学校帰りに追いかけては隣を歩き、めんどくさそうに扱われても突き放されてもそれでも必死に追いかけていたあの頃。


みんなが騒いでいる中優奈だけはポカンと口を開けたまま涙目になっていた。


「あー優奈がなんか思い出してる」


「…えへ…へ…」


「なっつかしいなぁ~、優奈が必死に追いかけてる頃だもんな?」

「……うん」


「ねー!写メ撮っていい??」

「は?ヤだよバカ」


そう言いながらパパッといつも通りの勝也に戻してしまった。


「あー!撮りたかったのにぃ」


「そんなモンただの笑いのネタにされるだけじゃねぇかよ」

「そんな事しないってぇ~」


「…ふん!優奈、髪!」

「あ……うん」


ドカッと椅子に座った勝也の後ろに立つと手櫛でいつも通りの髪型へと戻していく。


「髪も優奈にやってもらってんの?」

「だってこいつが切ってんだもん」


「普段の私服だって優奈が買ってくるヤツを黙って着てんでしょ?」

「そうだけど」


「え…なのに何であんなにカッコよく着れるの?」

「別にカッコよくはねぇよ」


ホンの2年前の話だがあまりにもたくさんの出来事がありすぎてもう懐かしい気さえする。


実際勝也はそうたくさん服を持っているわけではない。

いつもその組み合わせや着方で違う風に見え、そしてそれは優奈にとってお洒落でカッコいいモノだったが


「ホントに勝也って自分で服買ったりしないよねぇ」

「別に着れる服あんだから、わざわざ買わなくても…」


 帰り道での会話だった。


「最初の頃は節約とかの意味もあったんでしょ?」

「ほぼそれが理由だけどな」


「ステージ衣装もあのエナメルだけだもんね」

「インナーは変えてるじゃん。それにあの服は叔母さんが『入学祝いに』って買ってくれた服だしな」


「でも今なら服ぐらい買えるよ?」

「なんだよ、今のカッコは飽きたか」


「そういう訳じゃないよ、あたしは勝也のカッコ好きだし。でも…いつもあたしが買ってくる服しか着ないからさ、自分で選ぶとしたらどんなの選ぶのかなぁって」


「お前が選んでるんだからそれが俺の好みじゃん」


「…え?」


「服ってさぁ、一緒に歩いてるお前が恥ずかしい思いしなきゃそれでよくねぇか?俺は別に人に見られてるとかどういう風に見られたいとかそういうの全然思わないんだ。ただ一緒にいるお前が気に入ってるんならそれが一番いいと思うし…逆にお前がイヤがるカッコをするつもりもない。お前にさえ見せれりゃそれでいいもん」


「……あ……」


「それにお前だって俺が好きだって言ったから脚見せるカッコに変えてくれたじゃん。それまでほとんど履いた事無いって言ってたのに」


そうだった。

それまでは周りからの見た目やその時の流行りを追いかけて常にアンテナを張り巡らせていたが、勝也という彼氏が出来てからは勝也好みの服装が自分のするべき服装だと自然に考えが変わっていた事に気づいた。


「他のヤツからなんてどー見られたっていいよ」


幸せな気分だった。


優奈が前に言った『勝也の服装が好き』という言葉で今の勝也の着こなしは決まっていたのだ。

妙に嬉しくなり


「ねーねー、買わなくていいから一緒に洋服屋さん行こ!」


「なんだよ、買わないなら…」

「違うの、一回だけでいいから勝也の本気のコーディネート見てみたい!」


「本気って……わざわざ試着だけしに行くのかよ、メンドくせぇ」

「いーじゃん!せっかくバイト無い日なんだから…ね?デート連れてって」


「……はあぁぁぁ…‥‥」


手を引かれ街へ連れていかれる。

ZARAなどたくさんの服屋が入ったデパートへ行くと


「ホントに買わねぇからな」

「うんうん」


そう念を押してから観念したかのように服を見始める。

勝也が服を選んでいる姿など優奈にとっても新鮮で、本当なら自分も『これなんかどぉ?』とか『これ似合いそう!』とか色々口を挟みたい所だがここは好みを知るために必死で堪えたのだった。


やはり選ぶのは黒がほとんどで、そこは優奈も間違っていなかった。

そして予想より大幅に短い時間で


「…こんなモンじゃねぇの」


「着てみよ着てみよ」


勝也が選んだ服を荷物持ちしていた優奈が試着室へ向かう。

メンドくさそうにダラダラ着いてくる勝也だが


「お前自分のとか見なくていいの?」

「そんな事してるヒマないの」


ワクワクした表情の優奈に


「…ったくよぉ」


ブツブツ言いながらカーテンを閉める。

それから少ししてそのカーテンがシャッ!と開いた。


「こんな感じかなぁ」


その服装を見た優奈は少しギョッとした目で上から下まで何度も視線を往復させる。


「ヘンか?」


少しの沈黙の後


「なにコレ……恐ろしくカッコいいんですけど……」


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