124 信頼
「ぎゃっはっはっはっは!!!!」
金曜日の夜、アパートに女子4人の大きな笑い声が響いていた。
「しっかしまたこの部屋に入れるとは思わなかったぁ」
「あんときは荷造りまで手伝わせちゃったもんね」
「でもよく『出てけ』って言われて素直に出てく気になったもんだね」
「出てく気になんてなってないでしょ。ホントに夢遊病みたいな目ぇして呆然とカバンに服詰めてってさ」
「正直、記憶は…無い(笑)」
「その勝也が一発で壊したっていう看板はどーなったの?」
「もっと頑丈なヤツに変わってた」
大笑いしながら話は盛り上がっていく。
それは過去の康太事件や勝也失踪事件にまでさかのぼり
「いつも思うけどみんながいてくれなかったらとっくにフラれちゃってただろうなぁ」
「そぉかなぁ、勝也が本気でキレちゃってたら周りが何言おうが通用しないんじゃない?」
「確かに」
「ま、結局は勝也だって優奈がいないとダメって事でしょ」
勝也がバイトから帰ってくる前に帰るという約束で遊びに来ていたみさ達。
「蘭と芽衣ちゃんも来れたら良かったのにね」
「蘭はスタジオだし芽衣ちゃんはバイトでしょぉ?よく考えたら6人で集まれることって滅多にないよね」
「いつもヒマなのはウチら3人だけって事か」
「ヒッドーーー!!!当たってるけど(笑)」
ガチャッ!
大笑いの続く中、いきなり玄関が開く音がした。
「…えっ?」
「デッケェ声だな。千夏の笑い声、駅まで聞こえてたぞ」
まだバイトが終わるはずのない時間に勝也が帰って来た。
「どうしたの?今日は通しだって…」
「そのはずだったんだけどさ、店長のシフトミスで遅番に2人多く来ちゃって人間余ったから『んじゃ俺が帰る』っつって帰って来た」
「…ご…ごめん、勝也が帰ってくるまでには帰るつもりで…」
「なんで謝んだよ」
「えっと…じゃあそろそろウチらは…」
「なんだよ顔見た途端に。俺、嫌われてんの?」
「だってお邪魔だし…」
「今更気ぃ使うなよ、気持ち悪ぃ顔して」
「ちょ…顔は関係ないでしょぉぉぉぉ!!!!!!」
また大爆笑が起きた。
「まだいてもいいの?」
「優奈んチに遊びに来たんだろ?俺に聞くなよ」
みんなが優奈を見ると嬉しそうな満面の笑みだった。
「なんか俺が食うモンあんの?」
「あ、準備してある。すぐ作るね」
スッと立ち上がり勝也の夕飯を作り始める。
恐ろしいほど綺麗な顔をしながらエプロン姿で料理する優奈を見て
「女同士だけどたまにホレちゃいそうになる時あんだよね」
「それわかる」
「前はずっと優奈の事が羨ましかったけど最近は勝也の事が羨ましくなる時ある」
「欲しいっつってもやらねぇぞ」
ビールを開けながら答える勝也だった。
酒盛りのようになっていたテーブルだがそこにあるアテも優奈がパパッと作ったもので、料理の腕は相当なモノだとみんな思っていたのだが
「はい、お待たせ」
勝也の前に出てきたのは鶏肉を焼いてトマトソースに絡めたような見栄えの良い皿で
「…あ…あんたこれ、今作ったの?」
「そうだよ」
「こんなのまで作れんだ…」
「漬け込んどいたから焼くだけだもん」
「信じらんない…同い年とは思えない」
「そんなオーバーな(笑)まだあるけど食べる?」
「食べる~っ!!!」
このどうみても手の込んだ料理をテレビを見ながら黙って食べ始める勝也。
まるで夫婦のようなこの2人は見ている者を幸せな気持ちにしてくれるのだった。
「勝也って思ったより結構食べるんだね」
「そーか?」
「なんか少食なイメージあったけど」
「康太なんてもっと食うだろ」
「アイツはバカだもん」
そんな話をしていると
「はい、出来た」
出てきた皿に箸を伸ばす3人。
「ウマーーーー!!!」
「何これぇ!」
「作り方聞いても絶対作れない自信ある…」
「簡単だってば、恥ずかしいぐらいに」
見た目どころか味までお洒落なのだった。
「勝也って嫌いなモノとか無いの?」
「ん?…嫌いなモノ……なんかあるっけ」
「らっきょは食べないよね」
「あぁ、アレは人間の食うモンじゃねぇ」
「じゃあ何作っても食べてくれるんだ」
「そりゃそうだろ、好き嫌いとか以前に俺の為に作ってくれたモンだし」
「…え……」
「そのためにメニュー考えて買い物行って調理すんだぞ?そんだけ時間かけて作ってくれたモノが食えない訳ねぇだろ」
驚きの顔でみんなが優奈の顔を見ると
「…えへ♪」
「えへ♪じゃねぇよっ!!」
こんな気持ちで食べてくれる男のためならどんな料理でも頑張って作る気になれるのに…と優奈が羨ましくて仕方ない3人だった。
あっという間に食べ終わると
「さてと、んじゃな」
スッと立ち上がって寝室の方へと行ってしまった。
「え…勝也ドコ行ったの?」
「ベースだよ」
「ご飯食べたトコなのに…ホントに好きなんだねぇ」
「毎日弾かないと不機嫌になっちゃう人だからね」
それからまた女子会は盛り上がり始めた。
しばらく経った頃、優奈がコップに氷を入れて水を注ぎマドラーでクルクルと回し続けている。
飲む気配はなさそうに見えるが
「何してんの」
「あぁこれ?もうそろそろ…」
ちょうどその時、寝室の方から
「水~!」
「ほらね、はーい!」
そういうとその水を届けて戻って来た。
「さっき…なんか聞こえた?」
「ううん。なんかね、限界まで速く弾き続けると無意識に息止めちゃうんだって。だから喉乾くからお水飲みたがるの。時間的にそろそろだなぁと思って」
「はあぁぁぁぁ~~………」
驚くほどの意思の疎通ぶりにため息しか出て来ない3人だった。




