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12 回避

 勝也がブランカを抜ける……間違いなくその原因は自分にある。


高校生でありながら、それが生きる目的だった男。そのために15歳で家を出てたった一人で必死にバイトをして生計を立て自分の全てを注ぎ込んできた。

あのブレイズの勧誘さえも断るほど、文字通り一番大事な居場所だったブランカ。

気づくとみぃはうろたえ、涼子は肘をついて両手を組みおでこに当てて必死に落ち着こうとしているのがわかる。

メンバー達にとってもこの2人にとっても一番大事な場所であるはずのグループから勝也が脱退するという報告は到底受け入れられるモノではなかった。


「勝也が抜けるって…じゃあブランカは…」

「アイツの代わりなんて誰にも務まる訳ない…多分、解散…」


それを涼子が食い気味に遮る。


「そんな事させない。こんな事で解散なんて絶対…」


そういうとスッと立ち上がり


「送ってくよ」


全員荷物を持ってまた涼子の車に乗り込んだ。

無言…車内は誰一人言葉を発する者はおらず、静かなまま優奈の家に到着すると


「後はあたし達でなんとかする。もう優奈は何もしなくていいから」


「…あたしも連れてってくれませんか」


「今のアンタに何が出来るの?余計に怒らせて話がこじれるだけだよ。言っとくけどブランカが解散なんて事になったらウチらにとっても大事件なの。悪いけど余計な事しないで」


もうここから先は連れて行ってもらえない。優奈は軽はずみな行動でブランカを解散にまで追い込んでしまうかも知れない元凶だった。

優奈を降ろすとみさも一緒に降りると言ったため2人を降ろす。

そして発進した涼子の車は恐ろしいほどのスピードで消えて行った。


「…どう…なるの?」


「あたしのせいだ…あたしが何も考えずにあんな事したから…どうしよう、みんなの大事な『ブランカ』が無くなっちゃう…」


そういうといきなり走り出す優奈。

全速力で勝也のアパートに行くも当然電気はついていない。それでも必死にインターホンを押し続ける。

後から追いかけてきたみさが


「ここが勝也の…?」


「なんでいないの…ドコにいるの?ブランカ辞めちゃったらもう他に行くトコなんて無いはずなのに…」


ボロボロと涙を流しながら呟く。

自分にとってかけがえのない一番大事な存在だった勝也。その勝也が一番大事にしていた居場所を自分が無くしてしまった。

もう何をどうすればいいのかもわからない。ただこの鍵のかかった部屋の中に詰まった想い出だけが次から次へと頭の中を駆け巡る。

だがその扉はどうしても開けることは出来なかった。


勝也のバイト先にも電話をかけてみたがここ一週間バイトにも入っていないようだ。島村の店にも来ていない。

全くドコにいるかも何をしているかもわからないまま3日が過ぎた。


涼子に電話を掛ける。


「ごめんなさい、優奈です…」


「なに?」

「勝也がドコにいるのか全然わからなくて…バイトも行ってないし学校にも来てないし…何かわかりませんか」

「うん、わからない。ごめん」


「…そうですか」


しばらく電話を切ることも出来ないまま沈黙が流れると


「勝也に会ってどうするつもり?」


「わかりません…でもこのまま終わるわけにはいかないから。怒鳴られても殴られても、それでもあの人に気持ちだけは伝えたくて…」


「そっか、伝わるといいね」

「はい…すいませんでした」


よそよそしい他人行儀な態度の涼子との電話を切るとまたふさぎ込んでしまった優奈。

一体ドコにいるのだろう、ちゃんとご飯は食べているのだろうか、一人ぼっちでいるのだろうか、考えれば考えるほど頭の中はグルグルと回り気づけば涙が溢れている。


寝付けず目だけ閉じていた夜中にLINEの音が鳴った。

こんな時間に誰だろうと思いスマホを見ると、そのまま画面を見てバッと体を起こす。


【ブランカ・FINAL決定 〇月〇日 PM7:00 ライブハウス○○にて】


恐れていた事が現実になった。

告知に書かれていた「FINAL」の文字…それはブランカの解散を意味していた。


このLINEの送り主、涼子に電話を掛ける。


「こんな時間にすいません…優奈です」


「うん」


「あたしが…ブランカを潰しちゃったんですね」

「どっちにしてもブランカはいつか解散する約束だったから気にしなくていいよ」


「解散する約束…?」


「あいつらはもしメジャーから声が掛かったら解散しようって決めてたの。事務所や上の人に指示されてやりたくないから。このまま続けてっても時間の問題だっただろうしね」


「…初めて聞きました」

「誰もそんな日が来るのを望んでないからね」


「涼ちゃん…どうしてあたしに教えてくれたんですか?もうライブになんて行く資格もないのに…」


「さぁね、アンタがFINALに来るか来ないかなんて関係ないよ。ただ…ライブってぶっつけ本番でやるモンだっけ?」


「…え…」


「後は自分で考えな」


それだけ言うと一方的に電話を切った涼子。


初めはその言葉の意味が分からなかったが、しばらく考えこんだ後急に目を見開いて視線を上げる。


(ぶっつけ本番じゃない……リハだ!)


涼子は唯一勝也に必ず会える方法のヒントをくれたのだった。そして後は自分で考えろ、と。


急いでスマホの日付を見る。いつもブランカがスタジオに入る曜日は明日だった。



翌日、夜になって家を出る。

電車に乗って向かったのはいつも練習しているスタジオ。

この曜日の19時~22時はずっとブランカが押さえている。


スタジオに入ると受付に行き


「すいません、今日ブランカのブースってどこですか?」

「3階のDですよ」


「ありがとうございます」


21時50分。

エレベーターにのって3階ボタンを押す。このエレベーターが止まればその先に勝也がいるDブースがある。

吐きそうなほどの緊張を感じながら3階へ到着すると扉が開いた。


そのフロアのロビーには涼子とみぃがいた。まるで優奈が来るのを分かっていたようにジッと見つめると涼子が椅子を引いて「座れ」と合図する。

無言のままゆっくりと進んでいき、椅子には座らずに横に立つ。


「今出来る…精一杯の事をしに来ました」


「うん」


大きくため息をついた時、Dブースの扉がガチャン!と開く。

心臓が止まりそうなほどビクッ!とするとゆっくり振り返る優奈。


最初に出てきたのは平蔵だった。


「あ……」


無言で出てくるとそのまま続いてJun、kou、そしてBanも出てくる。

誰も何も話さないまま、最後にSyouが出てきた。


優奈の目をジッと見つめるとアゴでクイッと中を指す。

Syouが場所を開けたその入り口から優奈が中に向かう。


片づけをしている勝也の後姿を見ただけですでに目には涙があふれた。明らかにガタガタ震えている優奈の姿を後ろから全員が見守っている。


そして入口に立った優奈についに勝也が気づいた。


「…え?」


なんでここにいるんだ?という顔で一瞬見たもののすぐに目を反らして片付けを続ける。


すると優奈が震えた声で話し始めた。


「康太と…2人で出掛けました。前から一度だけデートの真似事をしてほしいと言われていました。何度も何度も断ったけど…たった一回でいい、それだけ叶えてくれたらあたしが勝也の彼女であることに納得できるから、と言われました。

あたしは今まで、誰にも認めてもらえなくても構わないと思っていました。でもその代わりに誰にも邪魔はしてほしくないとも思っていました。もし康太がずっと邪魔してくるのなら…もしその火の粉が勝也にかかるような事があったら…たった一回一緒に出掛けるだけでその心配が無くなるのならと思ってOKしました。

それがあたしの最大の間違いでした。


学校帰り、あの駅で待ち合わせをしました。映画を見て、康太の買い物に付き合いました。その帰り道…目の前の駅までのほんの少しの距離、その距離だけでいいから手を繋いでほしいと言われました。あたしは…勝也以外の人と手を繋ぐなんてイヤだから、仕方なくちょっとだけ腕を組む事で勘弁してほしいと言いました。それから腕を組んで…そこで…勝也に…」


精一杯頑張って話した優奈。

だが最後はやはり声にならないほど涙をこぼし、そして言葉に詰まった。


メンバーも涼子達も優奈の言葉を黙って聞いていた。すると片付けを終えてベースを担いだ勝也が優奈を無視し、横をすり抜けるように出てきてメンバーの方に向かって


「お疲れ」


とだけ言って帰ろうとした。

誰もそれを止めることが出来なかったが、エレベーターのボタンを押そうとはしたもののその指が実際に押すことはなく…しばらく下を向くと急に引き返してきた。


背中を向けていた優奈がこちらを向く。

するといきなりケースを開けて中からベースを取り出すと、それを優奈の前に突き出し


「持ってみろ」


全員が顔を見合わせて驚いた。

今まで勝也が誰にも触らせなかったkillerのベース。


「お、おい…お前…」


もっと驚いた表情の優奈は首を左右に何度も振り


「ダメ……これだけは絶対にさわれない…」


「いいから持て」

「お願い…他ならどんな事でもするから…これだけは…」


「逃げんのか?」


そう言われてガタガタ震えた手をゆっくりと伸ばすと、初めて勝也のベースに触れた。


勝也が手を離した途端その両手にとてつもない重みを感じ慌てて抱きしめる。


「重いか」


黙って首を縦に振る。


「それ、たった3.8㌔しかないんだぞ」


「重さじゃない…勝也の夢が乗ってるから。あたしには支えきれないよ…」


それを聞いて何かを感じ取った勝也。

しばらく黙り、そして


「俺を守ったつもりか」

「そういうつもりじゃないけど、誰にも邪魔されたくなかった。ずっとずっと2人でいたかった。だから…」


「康太と出かけて楽しかったか」

「そんなわけない!ずっと…隣にいるのが勝也だったらって、それしか考えてなかった」


「俺がお前のためにベースをヤメるって言ったらどうする」

「…絶対そんな事させない」


「じゃあベースをやるためにお前と別れるって言ったら?」

「……イヤだけど…でもそれが勝也の望む事なら…諦める」


「50点だな」


「…え?」


「そこは同じように『そんな事させない』って答えるトコだ」


そういうと優奈の手からベースを取り上げ、ケースに戻しながら


「みんな…お願いがあるんだけど」


「ちなみにFINALなんてクレジットはチケットにもどこにも入れてねぇぞ」


「全部お見通しかよ…大人げねぇな」

「当たり前でしょ。脱退なんてホントに認めてもらえると思ってたの?バーカ…」


見るとみんな目に涙をためて最後の言葉を待っているように見え


「俺…やっぱここしか居場所ないよ」


その言葉で全員が大絶叫する。


「よっしゃぁぁ!!」


涼子とみぃは抱き合って号泣しメンバーは泣きながらハイタッチを繰り返している。


そして優奈の方を向くと


「2度目はねぇぞ。今度やったらホントに捨てるからな『優奈』!」


またもう一度名前で呼んでくれた。

そしてその言葉で子供のように大号泣しはじめるとそのまま胸に飛び込み


「……ごめんなさい………ごめんなさい!」


何度も謝り続ける優奈。


ブランカの解散は、原因を作った本人によって回避されたのだった。


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