117 温泉 ④
翌朝、いつもよりも大きなダブルベッドにも拘らずいつも通りギュッと抱き合ったまま眠っている2人。
ふとほぼ同時に目を覚ますと
「おはよ」
「おはよ~」
さらにまたギュッとしがみつくように強く抱き着く優奈。
「…昨日ヤバかった」
「俺も」
昨夜の自分の乱れ方がとんでもなく激しいモノだったことをうっすらと思い出すと照れくさそうな表情で勝也の胸に顔を押し付ける。
しばらくして急にパッと顔を上げ
「ねー、朝風呂入ろ」
「うん」
ベッドから起き上がり少し体が重く感じながらベランダに出る。
寝起き…朝…外…そして2人一緒にという日常ではありえない状況での露天風呂はハンパない爽快感で
「ん~~っっ!!…ヤバい…気持ち良すぎる」
「お?昨日の夜もそれ聞いたような…」
パァァンッッ!!!
すかさず張り手が勝也の頭に命中する。
「ホンットだんだん『平蔵さん化』してきた!」
「いってぇぇ……お前も『みいちゃん化』してきてんじゃん」
2人揃って浴槽のヘリに頭を預けて雲一つない真っ青な空を見上げながら、いつしか風呂の中ではしっかりと手を繋いでいる。
するとふと…
「…優奈ぁ」
「ん~?」
「二度と言わねぇから…1回だけ弱音吐いていい?」
「…え…」
勝也の弱音など今まで聞いたことが無い。
涙さえもあのFINALライブの最後にステージでたった一度見せたっきりで、弱い部分など見たことが無かった。
「うん……聞きたい」
しばらく黙った後
「俺……やっぱブランカやりてぇよ…」
「………っっ!」
驚いた。
もう吹っ切れているのだと勝手に思い込んでいた。
解散以来ブランカという単語が出てくることはあっても未練など口にしたことが無かった勝也。
この男はそれを受け入れたのだと優奈は決めつけていた。
だがこの日常とは違う世界の中に来て初めてその本音を口にした。
その顔を勝也の方に向けることが出来なかった。
なぜなら目に一杯たまった涙がこぼれてしまうからだ。
風呂の中で握りあった手に力を入れる優奈。
それはかける言葉が見つからないながらもその想いに対しての精一杯の同意だった。
やっと声を出せるほどに気持ちを落ち着けた頃
「あのね、やっと…もうすぐ勝也の事務所が作れそうなトコまで来たの」
「もう?」
「うん。それでね、事務所の名前なんだけど…あたしが決めていい?」
「そりゃお前の会社なんだから当たり前だろ」
「うん……名前はね…『B・F・R』」
「BFR?……どういう意味?」
「あのね」
そういうと2人っきりでいるのに敢えて勝也の耳元でヒソヒソと小声で話す。
その内容と意味を聞き終わると
「なぁ……襲ってもいい?」
「……え?」
「…お前が好きすぎてたまんねぇ」
「うんっっ」
普段なら絶対言わないような言葉で誘ってきた勝也に優奈のテンションは爆上がりとなり、またもや昨晩のような『ヤバさ』だった。
再び意識が飛びそうになる優奈を呼び戻すと、またサッと風呂に浸かってようやく浴衣を着る。
そして重そうな足取りの優奈を連れて朝食へ。
「うわ~!すごぉい!」
たくさんの小鉢が並んだ和食を目の前に、復活してきた優奈も喜んでいる。
「なんかこの旅行ってずっと何かしら食ってるな」
「うん、今は体重の事は気にしない♪」
またもやお腹いっぱいになると、今日は旅館の中にある貸し出しの浴衣を選びに行った。
チェックアウトまでの数時間だけではあるが可愛い浴衣を着せてもらい、それからまた土産物街へ。
優奈の両親やこの温泉へと招待してくれた社長さんへの土産を買い、郵送でもいいからと優奈が勝也の実家へのお土産を選ぶ。
宿へ戻って荷物をまとめ、帰りの服に着替えた。
「あ~ぁもっと浴衣でいたかった…」
「また来ればいいじゃん」
「うん!絶対また来よ」
今日は珍しく黒のワンピースを着てみた。
上から白のパーカーを羽織り荷物を持ってフロントへ向かう。
「うわ~…やっぱりお綺麗ですねぇ」
「あ、澤田さん。ホントに今回は色々良くしてもらってありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました。あの、お荷物になってしまいますけどお土産に…」
「え~~!!そんな…こんな事までしてもらっちゃ…」
澤田が用意したお土産は優奈達が買った以上の量でさすがに持ちきれないと判断し自分達が買ったモノも合わせて送ってもらう事にした。
何度も何度も丁寧に御礼を言い、それから来た時と同じようにターミナルまで車で送ってもらう。
最高に幸せだった温泉を後にして、バスに揺られまた軽井沢へ1時間ちょっとで到着した。
本当は違うルートでの帰り道もあったのだが、ここを選んだ理由は…
「あー!あれも食べたいっ!!」
「…まだ食うのかよ」




