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115 温泉 ②

 この1週間、元の生活に戻れたという幸せに浸りながら週末が近づくにつれ徐々に気分は盛り上がる。


ようやく金曜日になり荷造りはとっくに完了、あとは優奈の化粧品など明日の朝にも使うものだけを入れればいい状態に仕上げた。


「あ~楽しみ過ぎて気が狂いそう♪」


「で、明日の朝は寝坊とかしたりして」

「ソコは意地でも起きなきゃ…今日は早く寝る!」


「お、めずらしい。じゃあ今日はしないんだ?」

「…ガマンしてるんだからそういう事言わないでってば…」


「あ~ぁ…したかったなぁ~(笑)」


冗談のつもりで言っただけなのだが勝也のその言葉はいとも簡単に優奈のスイッチを入れてしまい…夕飯前から、しかもリビングでという襲われ方だった。


 翌朝、意地でも寝坊するわけにはいかない優奈は目覚ましをいくつもかけて無理矢理起き上がり準備を始める。


化粧が終わるころに勝也を起こし、顔を洗って着替えると家を出た。

いつものように2人分の荷物を詰めたバッグは勝也が持ち優奈は2人の財布など貴重品を入れたバッグを持つ。


実家への帰省や先日の京都とは違い今日は完全な旅行である。

当然2人揃って機嫌も良く笑顔で駅へ向かう。


まず上野駅に向かいそこから乗り換えて軽井沢行きの新幹線へ。


「ヤバーい、ワクワクが止まらない~♪」

「軽井沢って新幹線で行けんだ?知らなかった」


窓側に優奈が座り、向こうで何が一番楽しみなのかを相談し始める。


「なんかね、土産物街みたいになってて食べ歩きが楽しいんだって♪晩御飯入らなかったらどーしよ」


「食べ歩きってスイーツとか饅頭とかばっかりなんじゃねぇの?甘いモノしか無さそうな…」

「えっとねー焼き鳥につくねでしょ?あと肉まんとか…あ、勝也の好きな温泉卵もあるみたいだよ♪」


「…晩御飯入らなかったらどーしよ(笑)」


 勝也のテンションもいつになく高い。

窓の外を指さして一緒に景色を眺めていると、あまりにも近い距離にある優奈のほっぺに突然キスしてくるほどで


「あー♪やっぱ一番楽しみは勝也と一緒だって事だ」


そういうとお返しとばかりに唇へ軽いキスを返してくるイチャイチャ振りの2人。

ホンの1時間ほどの移動は2人にとってはあっという間の時間だった。


「へーなんか涼しいかも」

「ホントだぁ、気温が違うね」


軽井沢の駅を出て今度はバス移動となる。

道中で色々食べながら来たためそれほどお腹も減っていないが


「軽井沢の名物ってなんだろ」


「ちょっとブラブラしてみるか」

「うん♪」


 ここでもみんな食べ歩きしているのを見て散策を始める。


五平餅に齧りついて味噌だらけになった勝也のほっぺたを優奈が拭いたり有名なモカソフトを鼻の頭にまでつけた優奈の写メを撮ったりと、つい先日の別れ話がウソのような楽しいデートだった。


「ヤバい…もうすでにこれだけでも充分幸せ♪」

「まだ目的地にも着いてねぇのにな(笑)」


いい加減バスに乗らないと宿への到着時間が心配になってきたため渋る優奈を宥めてバスに乗ると、満腹と笑い疲れから2人とも頭をくっつけてあっという間に眠ってしまった。


 しばらくして勝也が目覚める。

時計を見ればそろそろ到着予定時刻で


「おーいそろそろ着くぞ~」

「…ん…ん~…」


はしゃぎ疲れた優奈もようやく目を覚ました。


ターミナルに着いてバスから降りるともうすでにかすかに硫黄の匂いがする。


「温泉って感じの匂いだな。ここからどうやって行けばいーの?」

「えーっと…たしか宿の名前が…」


メモ代わりに入れておいたスマホを優奈が開こうとするとプラカードのような札を持った女性が立っているのが見えた。


「…な…なぁ…まさか…あれじゃないよな?」


「え?」


結構な数の旅行客がバスやタクシーの列に並んでいる横で『安東様』と書かれた札が見える。


「えっと…でも宿の名前あそこだよ」

「いや…いやいやいや…いくらなんでも扱いが…」


不思議に思いながらも恐る恐る優奈が声をかけてみた。


「…あの~…私も今日そちらに泊まらせてもらう予定の安東なんですが…」


「『安東 優奈』様ですか?」

「…え?…は、はい…」


「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」


「……え??」


他の観光客とは違いここまで迎えの車が用意されている。


「…マジか」


VIPのような待遇で勝也が持っていた大きめのカバンは取り上げられタクシーでもない旅館の車に乗せられる。

驚きから2人の間に会話も無く黙って車に揺られていると、その車が入っていった宿は


「…ウ…ウソだろ…こんなトコに泊まんの?」


高級そうな和風の玄関。

そしてその前に車が止まると待ち構えていた男性がドアを開けてくれた。


「…あ…ありがとうございます」


そのまま緊張感丸出しの2人が中へ入ると数人の仲居さんが並んで出迎えてくれる。


「なんかすげぇトコだな…」

「うん…なんか予想と全然違うんだけど…」


フロントで再び名前を告げる。

2人で名前を書き込むとその中の一人の仲居さんが部屋まで案内してくれた。

その途中


「あの…本当はお客様にこんな事申し上げてはいけないんですが」


小さな声で話しかけてくるその女性。


「え?…はい」


「…ブランカのKATSUYAさんと彼女の優奈さんですよね?」


「は??どうして…」


「あの…あたし、去年まであの街に住んでてブランカの大ファンだったんです。それで勝手乍らKATSUYAさんも優奈さんも知ってて…」


「あ~そうなんですかぁ!」


「お客様の宿泊予定表見てお名前見つけて、無理言って担当変わってもらったんです」

「それはそれは」


「実はここあたしの実家が経営してる温泉なんです。ゆっくり寛いでいってくださいね」


「ありがとうございます」


こんなところでまでブランカの名前を聞くとは夢にも思っていなかった。


案内された部屋に入ると


「うわぁぁぁ~………すっげぇ……」


「当旅館で一番いいお部屋です」

「そんないい部屋…いいのかなぁ」


「ここのお馴染み様からのご予約で一番いい部屋を用意するように伺っておりましたので。それで…あの…」


「はい?」


ここでこっそりと一緒に写真を撮ってほしいと頼まれ快諾した2人。

それを誰にも言わないで欲しいとお願いされ、笑いながら少し話した。


「なんかすごい部屋だねぇ」

「逆に落ち着かないかも」


仲居が出ていきようやく二人っきりになると2人で部屋の中を探索し始める。


「ありゃ、ツインじゃなくてダブルなんだ」

「…ヤなの?」


「いやそんな事…あ!!ベランダに風呂ある」

「うっわぁ!!テレビでしか見た事ないぃぃぃ!!!」


ベランダに出てみるとしっかり温泉の匂いで、そのまま外の景色を見てみた。


「わ~自然って感じ。ねー!そういえばさっきスッゴイ屋台出てたよね」

「祭りだって言ってたもんな。後で行ってみよ」


「うん。なんかホントに夢みたい…勝也とこんなトコ来れるなんて」


隣に立ち、ピトッとくっついてくる。


「お父さんのおかげだな」


「もちろんそうだけど……勝也があたしをもう一度許してくれたからだよ」


その言葉にニコッと笑顔を向けると


「さて、何したい?お前の望むこと全部やってやる」


「え…ホントに?」

「あぁ、ここまで来れば本当の2人っきりだ。思いっきりワガママ言ってみな」


「じゃあ…一緒にここ入りたい」


優奈が指さしたのはベランダについている露天風呂で


「…いきなり風呂?」

「うん、ここ入ってから2人で浴衣着て下駄履いて屋台巡りしたい!」


「そっか、わかった…けどスイッチ入れんなよ」


「え~…それは自信ない(笑)」


それから2人で露天風呂に入る。


今まで数えきれないほど見て来た優奈の裸だが初めて太陽の下で見るその体は勝也が少し照れてしまうほどに綺麗だった。


スイッチが入らないように耐えている姿に笑い、しばらく浸かってから上がる。

そして優奈の希望通り浴衣姿に着替えてみると、またこれも少し見とれてしまうほど妖艶な色っぽさがあるのだった。


 上から羽織を着て外に出る。

街なかとは違い涼しく感じながら温泉街へ。


屋台が並ぶ土産物通りへと差し掛かると観光客が多くなってきた。

はぐれないように腕を組んでくる優奈と楽しみにしていた食べ歩きを始めるが…すれ違う男性のほぼ全員が、あまりにも綺麗な優奈を振り返っては羨ましそうに見つめていた。


「あ~、あれも食べたい!」


「お前もうちょっとしたら晩飯なんだぞ?」

「今日いっぱい歩いたから大丈夫だもん」


濡れおかき串を頬張りながら、まだスイーツに目を向けている優奈だった。


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