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112 過ち ③

 日に日に憔悴しきっていく優奈。


毎日学校へは来るもののポツンと空いた隣の席を見てはどんどん視線は下を向いていく。みさだけが寄り添っているが他の友人達は今の優奈にかける言葉も見つからずそっとしておくしかなかった。


あれ以来アパートにも行っていない。

自分の荷物はまとめたもののそれを運び出すという事は別れを納得したことになる。

もう一欠片の望みも残っていない事は分かっているが、それでもあの部屋から自分の存在や思い出を運び出す勇気が出なかった。


金曜日になり、今日で今週の登校が終わる。


この週末を過ぎれば来週には勝也がこの教室へやってくるだろう。

どんな顔をして会えばいいのか、それ以前に自分は月曜日にこの教室へくる勇気はあるのだろうか…昼休みになってもジッと考え込んだまま一人座っていると


 ガラッ!


突然教室の扉が開いた。


「…あ……勝也…」


「…えっ??」


急いで顔を上げそっちを向くと本当に勝也が立っている。

慌てて視線を反らす優奈。

そのままモノも言わずに入ってくるとカバンをドカッと机に置いて席に座った。


「今週一杯休みだって聞いてたけど…」

「なんかややこしい書類出さなきゃいけないって言われたから来ただけだよ」


「いつ帰ってきたの?」

「今朝」


「なんか大変だったんだってな」

「ガキの頃から俺が懐いてた叔父さんだったからな。でも何とか最期には間に合ったよ」


「そっか…良かったね」


「あぁ」


まるで存在がないかのように優奈には視線を向けずに友人たちと普通に話す勝也。

それが余計に優奈を委縮させていく。


そしてついに…


「あの、勝也…優奈の事だけど…」


みさがその名前を口にした途端


「あ?…誰だそれ」


それを聞いた瞬間優奈は下を向き両手で顔を覆って泣き始めた。


「違うの!聞いて?…あの車運転してた男の人はあたしの前からの友達で…たまたま街で偶然会って…それであたしがイヤがる優奈を無理矢理付き合わせちゃったの。だから優奈はなんにも悪くないんだって…」


「そんなモン関係あるか。ウソつくヤツの事は信用できねぇんだよ」


「だからそれは…」


耐えきれずに優奈が席を立ち教室から出ていこうとすると大きな怒鳴り声が響いた。


「何言ってんだよっ!!」


「…え?」


驚いて立ち止まり振り返る優奈。

そして教室中がその声の主、岳に視線を向ける。


「話も聞かないで自分だけの考えでそんな大事な事勝手に決めていいのかよ!」


「……あ??」


席から立ち上がると勝也の前まで詰め寄り


「確かにウソついたことはよくない。そこは安東さんが怒られるべきだ。でも…だからって話し合いも何もしないで一方的に家から出ていけなんて…そんなの横暴じゃないか!」


「…ちょっと…岳…」


芽衣が止めようとするも収まらず、さらに激昂し始め


「今までどれだけ付き合ってきたんだよ!安東さんのおかげで今の自分があるんだってあんなに言ってたくせに…なのにそんな器の小さい男だったのかよっ!」


「てめぇは黙ってろ!」


立ち上がって怒鳴る勝也に


「お前こそ黙れぇぇっ!!!」


 バコッッ!!!


なんと岳が勝也を殴った。


「お…おい!岳っ!!」


おそらく人を殴るなど生まれて初めてだろう。

もちろん勝也の体を吹っ飛ばすほどの威力も無く、鼻血を出させるパワーもないパンチだったが…


教室の中には今までに感じたことのない緊張と驚きが張り詰めていた。

そして優奈も初めて見る岳の激怒にその場を動けなかった。


「…おいっ!」


後ろから康太に抑えられながら


「勝也がそんな身勝手な奴だなんて思わなかった。確かに悪いのは安東さんかもしれないけど…それでも今までなら怒ってでもちゃんと話し合って解決してきたんじゃないのかよ…。お前たちは僕の憧れなんだ!こんな事で別れるなんて許さない!もしそれでも話さえもする気が無いって言うんなら…もうお前なんて僕の『親友』じゃない!」


泣きながら叫ぶ岳の声が教室に響く。


殴られた反動のまま顔だけ横を向いた勝也。

そしてその光景を驚きの表情で見守る友人たち。


どれほどの時間が経ったのか…この張り詰めた空気の中


「…優奈……ちょっと来い」


そういうと教室から出ていく勝也に一瞬ためらいながらも


「………はい」


その後を追っていった。


 黙ったまま校舎を出て学校の外まで歩いて行く勝也の後ろを黙ってついていく。

その足はあの2人で弁当を食べていた向かいの公園へ向き、少し奥の方のベンチに勝也が座る。

そして向き合うように前に立つと


「説明しろ」


「…え…」

「ウソついた事、知らねぇ男の車に乗った事、言い訳すんならしてみろよ」


みさがした説明をもう一度優奈がする。

その男達がみさの友達で決してナンパとかの類いの関係ではないことを一生懸命話した。だが今アパートにいるとウソをついた事に関してだけは何の言い訳もせず、ただただ素直に頭を下げた。


「康太の時、俺はお前に何て言った?」

「『二度目は無いぞ』…」


「ならそういう事だろ」


「でも!…でも…お願いだから別れるのだけは…」

「身勝手過ぎねぇか?」


「分かってる…けどどうしても……」


涙をこぼしながらそれでも別れたくないと言い張る。

そのまま沈黙が流れた後


「これからは俺も他の女と遊びに行っていいんだよな?」

「ダメ!…って言える立場じゃないけど…でもヤだ…」


「俺、束縛し過ぎだったんだろうな」


「…え?」


「ホントはもっと遊びたかったんだろ?いろんな男と遊んでもっと自由な方が…」

「そんな事思った事ない!」


「まぁでもこれからは俺が怒る立場でもねぇし好きにしろよ」


立ち上がり優奈の横をすり抜けて戻ろうとする。

その腕をガッと掴み


「別れたくない…自分が悪いのは分かってる…でもどうしても…」


ボロボロと涙を溢れさせながら必死に訴える。


「もう別れたんだよ」


「あたしは…まだ別れるって言ってない」

「ならどうすればいいんだ?言っとくけど許す気はねぇぞ」


「…もう一回だけ…チャンスをください」


「あ?」

「今度こそ勝也を怒らせない女になるから…絶対ちゃんとするから…」


「ウソつく女の言う事なんて信用出来ねぇな」

「…ごめんなさい…でもどうしても…」


号泣する優奈。

その涙が収まるまでしばらく考え


「とりあえずあの荷物なんとかしろよ」

「………………」


「寝る場所もねぇんだからよ。どうしても運び出せないんだったら」

「………………」


「今日中にきっちり元の場所に戻せ」


「……………え?」



 その頃教室では


「どうして手なんか出したりしたんだろう…」


友人に囲まれながら殴ったことを後悔している岳がいた。

だがそれを責めるモノはおらず


「でもあれは効いたと思う」

「あぁ、岳だもんな…」


「…でも…僕が勝也を…」


「あそこであれだけ怒鳴れるのは岳ちゃんだけでしょ。勝也にしても岳ちゃんの拳が今までで一番痛かったんじゃない?」


「けど…」


芽衣は黙って岳の横に寄り添っていた。


その時、扉がガラッと開き勝也が…そしてその後ろから優奈が入ってくる。


そして自分の席まで来るとカバンを持った。


「悪い、帰るわ」


「……え?」


みんなが驚く中、ふと見ると優奈も荷物をまとめている。


「え……一緒に?」

「コイツの荷物で寝室占領されてっからよ、帰って元通りに片付けねぇと寝る場所ねぇんだよ」


「元通りって……」

「…許してあげてくれるの?」


「しょうがねぇだろ、岳が『別れたら許さない』って言うんだから」


「……え?」


すると視線を岳に向け


「お前に『親友じゃない』とか言われたら……俺が困るんだよ」


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