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111 過ち ②

「荷物をまとめて出ていけ」


それだけ言うと優奈を残して歩いて行ってしまった。


その場から全く動けない、言葉も出てこない。

頭の中では


(…出てけって…どういう意味?アパートから?荷物もまとめて…って…何?)


言われた意味を理解しようとするにも頭は全く回らない。

ただ小さくなっていく勝也の背中を見ながら呆然と立ちすくんでいた。


勝也が去った後、みさが車から降りてくる。

隠れていたのではなく今自分が出ていけば話がややこしくなるかもしれないと思い様子を見守っていたのだが、蹴り一発で看板を破壊した勝也を見てみさもまたガタガタと震え出していた。


「…ゆ…優奈?勝也…ドコに…」


するとしばらく黙った後


「ねぇみさ……どういう意味だと思う?」


「え、なにが」


「あたしの荷物全部持って…出てけって……」


「…えっ?!」


放心状態になっている優奈。頭が真っ白で何も考えられていない。

そしてそのまま力が抜けたようにへたり込むと地面に視線を落とし


「…荷造り…しなきゃ…」


ボソッと呟いた。


「ちょ…ちょっと!ホントに出ていくつもりなの?!」


「だって…出ていけって言われた……」

「ちょっと落ち着きなって!!全部あたしが悪いんだから!ちゃんとあたしが話して…」


完全にキレた勝也を見てビビり車に隠れていた浩明たちも、姿が見えなくなるとようやく降りてきた。


「ちょっと大丈夫?…今のが彼氏?何言われたの?」

「なんかちょっと怒ってたな。なんなら俺が話してやろうか」


優奈の前で虚勢を張るも完全に今までビビっていたことはバレている。


するとスッと優奈が立ち上がりモノも言わずにアパートの方へと歩き出した。


「ちょっと!そっちじゃないってば!早く追いかけないと…」


その言葉に返事もせずフラフラした足取りで歩いて行く。


「あ、ちょっと優奈ちゃん!…あの…さっき言ってた電話番号…」


「ごめんなさい、もうヤメてください…ちょっとそれどころじゃなくなっちゃったんで」


トボトボと歩く優奈の横に並ぶみさ。どちらも言葉を発することなくアパートへ到着する。


浩明と雄一が後をつけてきている事も気づいていない。

そしてアパートに入ると寝室へ行き、チェストを開けて自分の服を出し始めた。


「ちょ、ちょっとちょっと!!ホントに荷造りしてどうすんのよっ!!」


優奈が開けた引き出しをみさが慌てて閉める。

目はうつろで夢遊病者のような表情になっている。


「出てかなきゃいけないの…そう言われたから…」


完全に自分を見失っているようだ。

この状況を全く理解できていないのが分かる。

ただ勝也に言われた事を守らなければいけないという本能だけが体を動かしていた。


その時インターホンが鳴った。

勝也が戻ってきたのかとビクッとする優奈を止め、みさが玄関まで出る。


「…はい」


「あ、浩明だけど」

「…え?」


「ちょっと様子が心配で…大丈夫かなぁ」


図々しくも後をつけ、優奈の住む場所を知ろうとした行為だった。

そして勝手にガチャッとドアを開け


「優奈ちゃぁん大丈夫ー??」


その声が聞こえた途端、優奈が寝室から飛び出してくる。


「出てって!!ここには入らないでっっ!!」


もの凄い剣幕で怒鳴る。

2人だけの大事な空間に、たった今勝也をキレさせる原因となった知らない男を入れるなど到底許せる事ではない。

さすがにみさも


「お願いだから帰ってよ…これ以上話をややこしくしないで…」


優奈の事を諦めきれない浩明と雄一を帰らせるのに相当な苦労を要したのだった。


その後、みさがどれだけ止めても荷造りを続ける優奈。

ようやくその目に涙が溜まりだし、そして気づいた頃にはポロポロと頬を伝っていた。


「どうして……ウソなんかついちゃったのかな…」


それだけ呟くとペタンと床に座り込み両手で顔を覆った。


「あたしが調子に乗って引き止めちゃったから…ごめんなさい」


優奈はみさを責める言葉も出さず、みさのせいにするつもりもない。

みさの友達である男の車に乗ったという事は事実だがそれよりもアパートにいるとウソをついた時点ですでに勝也をキレさせてしまったのが発端だ。


結局その日は朝まで本当に荷造りを続けた。

優奈の荷物や買ってきたモノ達は相当な量で、翌日の朝からそれを歩いて実家へ運ばなければならない。


「ねぇ…運び出す前にもっかい勝也に電話…」


「ううん、いい…」


荷造りを終えてガランとなったリビングに座る。

初めてこの部屋に来た時のあの状態になってしまった。


こっそりと何度かみさが勝也に電話して見たものの電波は圏外、そしてLINEもずっと未読のままだ。


「…どうして勝也はバイト中断してまで急に帰ってきたの?」


「…え…」

「名古屋まで行ってたのに、そんなに大事な用事ができたのかなぁ」


そういえばそこは聞いていなかった。

そしてまた大きなカバンを持ってどこに行ったのか。

確かに優奈がウソをついたことがバレた後ではあったがそれだけで出ていくとは思えない。


…何かあったのか。胸騒ぎを覚えるも今それを確認する手段はない。

この状況で勝也の両親や姉に聞くこともできない。

頭の中にモヤモヤが生まれ始めると


「とにかく荷物運ぶのはソコを聞いてからにすれば?」


みさに付き添われて実家に戻る事にした。


結果的に連絡無しに無断外泊をした事になってしまい、しかも勝也と一緒ではなかった事で両親にもキツく怒られた。

その日一日を部屋に閉じこもって過ごすと一睡もできないまま朝を迎える。


 朝早く、罪の意識を感じ同じように一睡もできなかったみさが迎えに来た。

一緒にアパートに寄って見たがやはり勝也の姿は無く、2人でバスに乗って登校する。


憔悴しきった2人が教室に入ると


「おはよー!あれ勝也は?」

「ちょっと…シーッ!」


今はその名前は出すな、と合図を送るみさ。

それを見て「またいつもの夫婦ゲンカか?」とあきれた笑顔を見せる友人達。


そして勝也の席だけが空いたまま担任がやってきてHRが始まる前


「あの…せんせー。…勝也って…休むとか連絡あった?」


みさの質問を聞いてキョトンとした担任。


「え、安東は聞いてるだろ?松下は親族に不幸があって少し休むそうだ」


「…え???」


愕然とした。


「親族って……誰?」


「親戚としか聞いてないけど忌引き休みなんだよ。どうして安東が聞いてないんだ?」


教師の間でも勝也と優奈が付き合っている事は当然知られている。

そしてクラスメイトの間でもそんな大事な事が優奈の耳に入っていないという事が不思議に思われた。


「そんな大事な時にあたしは……」


また目に涙をいっぱい溜める。

親族が亡くなったというショックを受けて一人名古屋から戻ってきた勝也にさらに追い打ちをかけてしまった。


友人達も初めて聞いた事実に


「しばらくってどれぐらい…」

「なんでも遠いところだからって、今週一杯とは言ってたけど」


頭の中であの時の勝也の言葉が思い出される。


(しばらく帰んねぇから…)


という事は少なくとも今週一杯は勝也と話そうにも会う事もできない。

一刻も早く勝也に会いたいと思う反面今度ばかりは許してもらえる気がしない。


ウソを嫌い異性との接触をイヤがる勝也。

それを一度に両方ともしてしまった。



みさがその詳細を友人たちに話した休み時間


「…今回ばっかりは悪いけど同情できないよ」


「でも悪いのは優奈じゃなくてあたしだし…」


「けどウソついたってのは完全に優奈が悪いだろ」

「そこでウソつかなけりゃまだみさの友達だから仕方なく…で済んだんじゃねぇか?」


「でも出てけってのはちょっとヒドくない?」


「そうかなぁ…。やっぱウソつかれた直後に知らない男の車から降りてこられたんじゃ…おまけに勝也の性格考えりゃそうなるのもわかる気もするけど」


何を言われてもただ黙って聞いている優奈。


言い訳のしようもなく、ただただ自分の犯した過ちを後悔していた。


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