110 過ち ①
「…名古屋ぁ??」
「うん、なんかイベントの設営と警備だって。金曜の夜中にこっち出て一日働いて徹夜で撤収だと」
居酒屋の先輩に誘われて単発の出張バイトに行く事になった勝也。
「それって一緒に行っちゃダメな感じのヤツ?」
「先輩の軽ハコに4人乗ってくみたいだからちょっと無理だな。しかも向こうでは一日働きっぱなしだし」
「ぶぅ~……いつ帰ってくんの?」
「日曜の昼頃には着くんじゃねぇの」
「つまんないぃぃ~!」
「ごめんってば。その代わり結構バイト代いいみたいだからなんか食いに行こ」
「…死ぬほど食べてやる」
そして金曜日の夜
「出発するまで居てもいーじゃんかぁ」
「そしたらお前が家に帰んのが夜中になるだろーが」
「あ~ぁ、ほったらかしにされるんだ…」
ふてくされた顔で仕方なく服を着始める優奈。
いつもよりもダラダラ着ながら
「バイト先に女の子とか居てもしゃべっちゃダメだからね」
「わかったよ。お前こそ男遊びとかすんなよ?」
「一人寂しく部屋で泣いとくもん…」
優奈を家まで送り届けて一旦アパートへ戻り、用意をして勝也はバイトへ出発した。
そして翌日の土曜日
「名古屋かぁ…見に行ったりも出来ないしなぁ~」
部屋のベッドでゴロゴロのたうち回ってみたりベースを弾いたり開業へ向けた勉強などをしながら時間を持て余していると、昼過ぎにスマホが鳴った。
「もしもーし、確か今日は旦那いないんだよね?」
「あぁ…うん、置いてかれたぁ」
「街まで服見に出よーかなって思ってんだけど一緒に行かない?」
「あ、行く~!」
久々にみさに誘われ2人で出かけることに。
「じゃあ電話もできないんだ」
「うん、進行表にも休憩どころかお昼ご飯の時間も無いって」
「うわ…地獄じゃん」
久しぶりに2人で話しながら街をぶらつく。
みさの服を見に付き合いめずらしく優奈も服を買ったりと楽しく過ごして夕方も過ぎた頃
「あれ?みさちゃん!」
「え?あ~っ!浩明クン!!」
「ひっさしぶりだなぁ!元気?」
「うん、どーしたのぉ?」
「友達の買い物付き合ってんだ。そっちは…うわ…可愛い……」
優奈を見て目を真ん丸にするほど驚いているみさの知り合いらしき男。
「ごめん浩明!お待た…せ……う、うわ…知り合いっ??」
浩明の友達というこの男・雄一も優奈を見て固まった。
「あたしも友達と買い物来たの。じゃあまたね~」
そういってその場を離れようとすると
「ちょ…ちょっと待って!あの…良かったら一緒に遊ばない?」
「…え?」
「そ、そうそう!もうすぐ夜だしよかったらご飯でも一緒に…」
「え~…どぉしよっかなぁ」
「いーじゃん行こうよ!ね?ご飯だけ!そっちの彼女もいいでしょ?」
するとみさの服をチョイチョイと引っ張り
「ちょっと、みさ…あたし無理だよ?」
「ちょっとだけ…ダメ?」
「だったらあたしだけ帰っていい?さすがに男の人とは…ごめん」
「そっか…うん」
みさも断ろうとしたのだが
「じゃあここ!この店でちょっとだけ話しよ!それぐらいならいーでしょ?」
目の前の店を指さす必死な顔の浩明と雄一。
よほど優奈と話したい様子で
「ごめん、10分だけでいいから付き合って?お願い!」
みさも久しぶりに会ったらしく、両手を合わせて頼み込まれ仕方なく付き合う事になった。
相手は大学生でみさとは彼女が中学生の頃に知り合った昔の遊び仲間だそうだ。
優奈と同席出来た彼らのテンションは相当高く、優奈にも事あるごとに話題を振ってくるのだが軽い会釈ぐらいで出来るだけ会話に参加しない。
「ねぇちょっと…みさ」
「わかってる。もうちょっとしたらあたしから言うから」
そういいながらも話に花が咲くみさ。
気づけば10分どころか1時間以上経っている。
もうそろそろ限界だと思い始めた矢先、優奈のスマホが鳴った。
かけてきた相手は
「え…ヤバ…」
慌ててスマホを持ち店の外に飛び出る。
そしてその電話に出ると
「…も…もしもし」
「おう俺。ドコにいんの?」
「えっ?…えっと、あの…アパートにいるよ」
咄嗟にウソをついてしまった。
みさと街に出ているとだけ言えばよかったのだが、他の男と一緒であるという罪悪感が勝手に口からウソをつかせてしまった。
「え?」
「…なんで?」
「そっか、じゃあ俺は違うアパートに帰って来ちまったのかな」
「………勝也……ドコにいるの?」
「俺もアパートにいんだけど」
「な、なんで……名古屋は?」
「ちょっと緊急の用事出来たから新幹線で帰って来た。まぁいいや、じゃあな」
一方的に電話を切った勝也。明らかに怒っている。
ウソをついた事で勝也を怒らせた…真っ青な顔になって店の中にまた飛び込むとみさ達の座っている席に走り
「みさ、ごめん。帰る」
そう言ってバッグを持った。
「え~!もうちょっとだけいーじゃん!」
「そうだよ、せっかく盛り上がって来たのに」
浩明と雄一の言葉を完全に無視し
「勝也が帰って来たの…ドコにいるって聞かれてついウソついたらバレた」
「え…ウソって…」
「ちょっとマジでヤバいの。ごめんね」
慌てて財布から自分の千円札を数枚だすとテーブルに置くと
「お…お金はいいから!それより急いでるんなら車で送ってくよ!」
「あ、そーだ…俺達車で来てるからその方が絶対早いって!」
この期に及んでまだ優奈と別れたくない男達。
だが確かに車で送ってもらえれば早くアパートには着けるだろう。
「そうしてもらお?ちょっとでも早く…」
「あ、えっと…じゃあお願いします…」
これが最大の間違いだった。
一刻も早くアパートに戻り勝也に弁解をしなければならないという一心で浩明の車を停めているパーキングまで走る。
後部座席に乗せてもらいアパートの前ではなく少し手前で降ろしてもらおうと場所を指定する。
「でも急にどうしたのぉ?かなり急いでるっぽいけど…」
事の重大さをわかっていない浩明たちはまだ車内でも会話を続けているが優奈の耳には入っておらず、代わりにみさが説明する。
「優奈の彼氏がホントは今日帰ってこないはずだったのに急に帰ってきちゃって…ちょっとヤバいんだって」
「え~!優奈ちゃん彼氏いるんだぁ。俺ショックだなぁ…」
「でも別に偶然バッタリ会っちゃっただけだし怒られる事ないんじゃないの?」
「そういう問題じゃないの、優奈の彼氏は…」
「いーじゃん、もし怒られたら言い返してやればいーんだよ。急に帰ってくる方が悪いって」
「そーだそーだ!だったら今度はホントに待ち合わせして今日の続きしよーよ」
「とりあえず電話番号だけでも教えてよ~優奈ちゃん」
「この子はホントにそういうのダメなんだって…」
何を言われても全く無視の優奈。いや、本当に聞こえていない。
頭の中には勝也の顔だけが浮かんでいて、たった今怒らせた事だけがグルグルと渦巻いている。
すると車が一人の男とすれ違った途端
「…とっ…止めてっ!!!!」
いきなり叫んだ声に驚き急ブレーキを掛ける浩明。
「びっくりしたぁぁ…どうしたの?」
「ありがとうございました!」
それだけ言うとロックを開けて車から飛び降り走り出す。
「ちょ、ちょっとぉ!優奈………あ!!」
猛ダッシュで向かった方向の先には大きめのカバンを持って歩く男がいた。
「…勝也っ!!」
ここにも過ちがあった。
ちょうど少しすれ違ったところで車から降りたため運転しているのが男だという事がバレる。
ギロッと優奈を睨みつけるとそのまま視線を車の方へと向け
「男…か」
「えっ??………あ!!」
アパートにいるとウソをついてしまった。
そしていくらみさの知り合いとはいえ目の前で他の男の運転する車から降りてしまった。
鬼のような形相に変わり、そのままその車の方へと歩いていこうとする。
このままでは何をするかわからない。
咄嗟に前に立ちふさがり
「ちっ、違うの!あの人たちは何にも関係ないのっ!!」
必死の弁解は、勝也の耳にはその男たちを庇っているようにしか聞こえなかった。
「アパートにいるだと?…目の前で男の車から降りてきて関係ないだと?」
「…えっと…あの…ごめんなさい…でもホントに…」
すると
バキイイィィィィィッッッ!!!!!
すぐ横のガードレールに括り付けてあった看板を思いっきり蹴り飛ばす。
その看板はくの字に折れ曲がって飛んでいった。
「……っ!!!」
恐怖のあまり言葉が出ない。
そしてあまりにも冷たく恐ろしい目で睨まれると
「しばらく帰んねぇからよ。お前の荷物も買ってきた物も何もかも全部持って…出てけ」
「…………え?」




