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105 子供 ①

 それぞれの両親からの許可を得て卒業後の同棲が確定した。


今まではその生活への楽しみや期待感が先行していた部分もあったが、あらためて両親の気持ちを聞けたことによって裏切ってはいけないという責任感も生まれた2人だった。


起業への勉強や準備、アパート内の配置や必要なモノの計画、さらにはそれへ向けての貯金も始めた。

元々遊びに出ることも少ない2人だったのがここへきて功を奏しているが…


今日も朝からの登校中


「お前、最近ずっと考え事してない?」


「だっていーっぱいしなきゃいけない事あるんだもん」


「頭パンクする前にちょっとぐらい気分転換に遊びにでも行くか」

「じゃあ家具屋さんがいい!」


「余計に悩むだけじゃねぇかよ…」


学校へ着くといつもの顔ぶれを見て気は紛れる。

今日もまた仲間に囲まれてワイワイ話していると少し落ち込んだような表情の康太とありさが入ってきた。


「おはよ…なぁに?勝也に怒られた時の優奈みたいな顔して」


「ちょっとどういう意味よ」

「すっごいわかりやすい例え♪」


「ヒドー!!」


「…あは…は…」


無理に作ったのがバレバレな笑顔で返すありさ。

その隣で康太の顔も少し引きつっている。


休み時間もみんなとの輪に入る事の無かった2人。

そして昼休みになると


「あれーありさは?」


「なんか康太と2人でどっか行ったぞ」

「なにケンカ?」


「勝也と優奈ならわかるけどあの2人が深刻なのってめずらしいな」


「どういう意味だそりゃ…」


結局昼休みが終わる寸前に戻ってきた。

そして午後からの1時間が終わり放課後になった時…


「…ごめん、ちょっと話あるんだけど…」


いつもの仲間の前でありさが口を開く。

隣には康太もいて深刻そうな表情だ。


勝也、優奈、みさ、千夏、陽平、蘭、岳、芽衣、勇太、洋司、了。

周りのクラスメイトもまだ少し残っている教室内でその顔ぶれの前に立つ2人。


「どしたの」


「…う…うん」

「なんか相談事?」


「…えっと…実は…」


黙ったまま突っ立っている康太の隣でありさが切り出す。


「…あの……言いにくいんだけど……お金貸してもらえないかな…」


「……え?」


みんなが驚きの表情になる。


「実は……」


そういってありさが…自分のお腹をさすった。


「え?…まさか………」

「…うん……」


みんな開いた口が塞がらなかった。

声を発する者はなくただ真ん丸な目で2人を見つめた。


「…マジ…で?」


「先月も先々月もこなくて、おかしいなと思って検査薬使ってみたの。そしたら…」


徐々に目に涙をためるありさ。

無言の時間が流れる。


それがしばらく続いた頃


「なんでお前はずっと黙ってんだ?」


ありさの横でずっと無言のまま立っている康太へ向けた勝也の言葉だった。


「いつもは気ぃつけてたんだよ…けど多分春休みの時だと思うんだけど俺、酔っぱらっちまって…で、ついうっかり……」


「そんな大事な事をありさ一人にしゃべらせて自分は口を開いたら一番に言い訳かよ。で、ついうっかり出来ちまったから堕ろすのに金貸せってか」


そこまで話した直後


 バキイイィィィィィッッ!!!!


 ドンガラガッシャァァン!!


勝也によって康太の体は教室の端まで吹っ飛ばされた。


「…い……ってぇぇ……」


「てめぇがそんなクズ野郎だとは思わなかったよ!」

「ちょっと…勝也…」


周りの友人は口を開くことも出来ず


「だってよ…俺もありさもまだ高校生だし子供なんて…」


「その子供を『うっかり』作っちまったのは誰なんだ?」

「だから…それは……」


康太を睨みつける勝也。

誰も言葉を出せないまましばらく静寂が流れ…


「もう命なんだろ?」


「……え?」


「優奈、生まれたての子供ってどんぐらいの重さだ?」


「…え?えっと…3000g…前後ぐらいじゃないかな」


「3㌔なんてベース1本よりも軽い重さだよ。…でもな、そんな小さい体に心臓もありゃ髪もあってあんなちっせぇ手の指先に豆粒みてぇな爪まで生えてる。誰にも教わってないのに一人前に泣いてよ…初めて立った、初めてしゃべった…そんな事で大事件みたいに喜んでよ…大きくなってランドセル背負って…友達も出来てだんだん生意気になって…高校生にもなりゃ今の俺達みたいにつるんでバカやって…。その子にだってそうやって生まれてきて育っていく権利があるんじゃねぇのかよ」


ありさはボロボロと泣き出す。

女子達も勝也の話を聞いて目に涙を浮かべていた。


「生きたくても生きれなかった人もいる。子供が出来なくて病院にまで行って…それでも授かれない人だっている。そんな人たちの前でお前は今みたいに『酔っぱらっててついうっかり出来ちまったから堕ろす』なんて言葉、簡単に言えんのかよっ!!」


両手で顔を覆い号泣するありさの横にスッと寄り添い優奈が肩を抱く。


「いくら自分達の子だからってその命を奪う権利なんてない。それに簡単に堕ろすなんていうけど、痛い思いして辛い思いして体に傷がつくのはありさだけだ。そのありさに全部しゃべらせて横で黙ってるようなヤツを今まで親友だと思ってた俺がバカだったよ」


それだけ話すと机に戻り、カバンを肩にかけて帰ろうとする。

するとスッと立ち上がって寄って来た優奈。


「…ねぇ…ちょっと…」


「お前はありさについててやれ」


小声でそれだけ言い残すと一人教室を出ていった。


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