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104 報告

 優奈の不安はすっかり無くなった。


先の事ばかりを考えていた自分に対し、今までの想い出までも大事にしてくれた勝也の言葉でこの人とならどんな未来でも一緒に生きていけると改めて実感したのだった。

いつも自分よりもさらに上の事を考えていてくれる勝也が頼もしくもあり誇らしくもあった。


「う~ん…寝室はベッドとベースだけにしたいけどリビングが凄い事になりそうだし」


「そんな慌てて考えなくたってまだ時間はあるんだから」

「ダメ!卒業する頃にはちゃんと出来上がってないとここに越して来るのが一日でも遅くなったらイヤじゃん!」


「はい…」


「もぉ1つ部屋かクローゼットがあったらいいのになぁ」

「やっぱ引っ越すしかないか」


「は?キレられたいの?」


「…ごめんなさい」


今となっては優奈の方がこの部屋への愛着が強くなっていた。


叔母の所有であるおかげで高校生のうちは家賃を安くしてもらっているが、卒業と同時に通常通りに上げてもらう事になっている。

このままここに住み続けたいという希望は伝え彼女と2人暮らしになるという事も話した。

まだ優奈を叔母に会わせた事は無かったため、一度顔を見たいとしつこく言われてようやく先日叔母との初対面が実現したのだった。


「叔母さんに頼んでもう一部屋借りるってのはどぉ?」


「は?」


「もちろんちゃんと家賃も払ってさ。隣のワンルームが空いたら」

「そんな…2部屋分も家賃なんて」


「だって普通にもっと広いトコ引っ越そうと思ったらそれぐらいの家賃はかかるんだよ?」

「あ、そうなの?」


「何かあったら連絡しておいでって番号も教えてくれたから1回聞いてみようかな」


「お前どんどん俺の身内と仲良くなってくな」


「だっていつかホントの身内になるつもりだもん」


ハッキリとした言葉はまだお互い出したことは無いものの2人ともそれが最大の夢だ。

 

しばらく経ったある週末、放課後に急いで帰宅した2人は駅へと向かっていた。


「リハビリ明け以来だね」

「あぁ、こないだも連絡無しだったけど…いいのかな」


「いーじゃん、突然の方がお母さんの『あの顔』見れるし(笑)」


前回の帰省の時に見た勝也の母の驚いた顔があまりにも可愛かったという優奈の希望で、また今回も連絡せずに実家に向かっていたのだった。


 もう3回目になる優奈を連れての帰省。

予想以上に自分の家族と仲良くなってくれた事もあり慣れた感じはあったものの、今回の目的を考えると少し緊張している勝也。


「…お父さん怒るかなぁ」

「怒ることは無いと思うけど、どうだろうな」


地元の駅に着いて電車を降り、そこからバスに乗って家近くの停留所で降りる。

そして前回同様、先に優奈が店の入り口を開け


「こんばんは~!」


すると


「あ~~~!!!!来たぁぁぁぁぁ!!!!」


優奈が見たかったあの顔をした母が飛び掛かるように抱きついてきた。


「お~!今日だったか」


「今日って?」

「あれ以来母さんが金曜日になるたびに『今日は帰ってくるかなぁ…』って毎週楽しみにしてたんだ」


「毎週かよ」


満席とまではいかないながらも相変わらず盛況な店内。

勝也が手伝おうとすると


「今日はもうすぐ閉めるからそこでゆっくりメシ食っとけ」


ここでもこのご時世で営業時間は短縮を与儀無くされており、もうすぐ閉店時間なようだ。


優奈と2人で空いていた座敷のテーブルに座ると、勝手に優奈の大好物ばかりが並んでいった。

カウンターにいた客も優奈を知る人が多くなんとか優奈に酒を注いでもらおうと注文し始めるが母に厳しく怒られてしまう。


ゆっくりご飯を食べて片づけをしていると閉店時間になった。

客も引き、後片付けを一緒に手伝っていた頃


「今日はまた気が向いただけか」


「まぁそれもそうだけど…ちょっと話があって来たんだ」

「話って…俺にか?」


「いや、2人に」


カウンターを拭いていた優奈の手が一瞬止まる。

それから片づけを終わらせると2階の家ではなく座敷のテーブルに座る。


勝也と優奈、そして向かいに父と母が座り


「なぁに?あらたまって…」


「うん…俺、卒業しても向こうに残って音楽でやっていくって話はしたよね」

「あぁ」


「で、住むとこも今のあのアパートにそのまま住もうと思ってる」

「………」


「もちろん家賃は正規の金額にしてもらう事になってんだけど…その…えっと…」


「金か?」


「そうじゃなくて…えっと…一人じゃなくて…こいつと一緒に暮らそうと思ってるんだ」


しばらく沈黙が走った。

そして


「…はぁぁぁぁ????」


父もさすがに驚いた表情を見せた。


「アンタ…そんな事!大体優奈ちゃんの親御さんがそんなの…」

「あの…ウチの両親は了解してくれました」


「…えっ?」


「順番が違って申し訳ありません。本当ならお父さんとお母さんに先に了解を得るべきだったんですが…勝也さんが私の両親にちゃんと気持ちを伝えてくれて、両親も一人暮らしなら許さないけど彼と一緒に暮らすならいいと言ってくれたんです」


あまりの驚きに言葉を失う父と母。


高校卒業と同時に同棲をすると言い、しかも優奈の両親の了解も得ているという。


「…お前たち、一緒に暮らすという事がどういう事か分かってるのか?」


「あぁ、中途半端な決心で言ったんじゃない。この先、この生活が一生続く事を望んでるからちゃんと2人でやっていけるって事を親父やオフクロや優奈のご両親に証明したい。もしそれを見た上で『こいつはダメだ』って思われるようだったら俺達に先は無い。それぐらいの覚悟で言ってんだ」


そこからまた沈黙が続く。

しっかりと将来を見据えた決心を告げた勝也を優奈は誇らしく思った。


すると


「母さん…明日店閉めるぞ。臨時休業の張り紙出しとけ」


「…えっ?」


「優奈ちゃん、悪いが御両親に明日時間を取ってもらえるか聞いてくれないか」

「…え?」


そして勝也の方を見ると


「お前の覚悟はわかった。今の気持ちだけで言ってるんじゃない事は分かった。それなら全てをちゃんとしろ。同棲といってもお前は優奈ちゃんを『預かる』身分だ。男のお前と違って、向こうは『娘』を外に出すんだからな。よほどの決心をしてくださったはずだ。優奈ちゃんにもしもの事があったら、お前だけで責任を取れる問題じゃない。だったらこっちもちゃんと挨拶はしておくべきだろう。誰にもコソコソ内緒でしてるんじゃないって事だけはキチンと伝えるべきだ」


「あの…お父さん。それは私の両親もちゃんと理解…」


「優奈ちゃん」

「はい」


「勝也と一生を共にしていこうと決めたならもう君は俺の娘だ。今までみたいにお客さんじゃない。君もその決心を見せてみろ」

「…はい!」


父に娘と認められた優奈の目からは明らかな嬉し涙がこぼれた。

すぐ言われた通り実家に電話し、明日の土曜日に時間を取ってくれるように話を付けたのだった。


 翌日、急な展開だったが勝也の両親と4人で電車に乗りとんぼ返りとなる。


道中は母も優奈と楽しそうに話しながらのお出かけ気分だったが、いよいよ駅に到着すると緊張感を漂わせ始めた。


一旦アパートへ行き着替えるという流れで部屋に入ると


「ほぉ、もう充分2人で住めそうな部屋になってるじゃないか」

「すごく綺麗にしてくれてるんだね優奈ちゃん」


「いえいえ…散らかしっぱなしですいません」


アパートでそれなりの服装に着替えた両親を連れて優奈の実家へ向かう。

あまりにも近かったその家に到着し、いよいよ両親同士が初めて顔を合わせた。


「初めまして、勝也の父です。いつも息子が大変お世話になっているそうで…ありがとうございます」


「わざわざ遠い所を…さ、お上がりになってください」


勝也と優奈もド緊張の表情でリビングへと入ると


「あらためまして、いつも勝也が色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません。今日は突然お伺いしてしまって…」


「迷惑なんて1つもかけられたことはありませんよ。こちらこそ娘が何度かお世話になりまして、その節はありがとうございました」


一通りの挨拶を済ませると手土産などを渡し、恐縮し合う両親たち。


ようやく腰を下ろすと


「突然無理を言って申し訳ありません。昨日2人に卒業後の事を聞きまして、それでご挨拶に伺いました」


「2人が一緒に住む、という話ですね」

「…はい。こちらの御両親からは許可を頂いていると聞きました。ですがどうしても私の耳でお伺いしたい事がありまして」


ちょうどその時に優奈の母がお茶を入れてきた。

それをテーブルに出しそのまま席を立とうとすると


「お前もここにいなさい」


そういって座らせる。


「私どもの方は息子ですから多少の事には目を瞑れます。ですが…大事な娘さんを勝也に任せると言ったお父さんの心境と言いますか…なぜ許す気になられたのかと」


それを聞いてしばらく考えた優奈の父。


「勝也君だからですよ」


「…え?」


「もちろん私も18歳という若さで娘を彼氏の元へ出すなど夢にも思っていませんでした。これは本人達にも言った事ですが、一人暮らしをしたいと言ってきていたら許すつもりはありませんでした。ですがこの彼と共に生きていきたいというのなら私には却下する理由が見当たらなかった。

お恥ずかしい話ですが私達がいくら言ってもこの頑固娘はなかなかいう事を聞きません。ですが勝也君が一言何かを言うだけでこの子は変わるんです。今のように楽しい親子関係を取り戻してくれたのも彼です。彼と一緒なら優奈はどこまでも成長できる。そう思ったからです。」


「こんなまだまだ何も知らない子供に…もったいないお言葉です。」


「松下さん、あなたの息子さんは大きな大きな男ですよ。今となっては私も彼から教わる事がとても多い。それほどの男です。だからこちらからお願いしたようなモンです、優奈の面倒を見てくれと(笑)」


両方の母は涙ぐみ、優奈はもう涙をこぼしている。


「勝也には命懸けで優奈さんを守るよう約束させます。私どもも今では優奈さんを娘のように思わせていただいています。ウチの店ではもうすでに彼女のファンまでいるぐらいでして」


偉大な父同士の会話はやはり同じ着地点だった。


「松下さん、今日はお車ですか?」

「いえ電車で参りましたが」


「まだ明るいですが良かったら一杯付き合っていただけませんか」


「…ぜひ(笑)」


お互いの息子と娘を認めている親同士は打ち解けるのも早く、初対面にもかかわらずいつしか酒盛りが始まってしまった。

両親同士が盛り上がる中色々動くのは勝也と優奈の役目となる。


キッチンで酒のあてを作る勝也と氷などを用意する優奈。


ふと2人が手を止めてその宴を笑顔で見つめ


「なぁ優奈」

「ん?」


「相当気合い入れ直さねぇとな」


「うん…この人達に組まれちゃどう頑張ったって勝ち目ないもんね(笑)」


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