10 学校帰り
待ちに待った勝也のバイトが無い日。
朝の登校から帰りの駅まで、そして夜の電話だけでこの一週間を耐えてきた。
朝からテンションの高い優奈は下着選びの時点で悩んでいる。
(どんなのが好きかなぁ…まさか聞くわけにもいかないし)
結局、まだ買ってから一度も着けていなかった新品を選ぶと急いで制服に着替える。
自分と勝也のお弁当をカバンに押し込み、いつものように迎えに行った。
「おはよー♪」
インターホンを鳴らして勝也が出てくるのを待ち、学校までの2時間ほどのデート。
「ねぇ、今日はそのまま帰りに行っていいんだよね?」
「一旦帰らないの?」
「時間もったいないもん。泊ってもいいなら一回帰るけど?」
「…そのまま来い」
「…ぶぅ…」
そんなやり取りをしながら学校へと到着する。
たった一週間でもう勝也と優奈の関係は学校中に浸透していて、みんな「理想過ぎるカップル」として微笑ましく見ていた。
ただ一人を除いては…。
昼休み、トイレに行った帰りの優奈に廊下で声をかけてきた康太。
「優奈ちょっといい?」
「…何?」
「お前ホントに松下と付き合ってるの?」
「うん、そうだよ?」
「あの時は俺もやり方卑怯だったかもしれないけど…でもお前の事好きだってちゃんと伝えたよな?」
「あぁ…そうだね、ごめん」
「もう俺には微塵もチャンスは無いの?」
「もうあたしは勝也のモノだから。ごめんね」
「だったら最後に一回だけでいいからデートしてくんねぇかな」
「…は?」
「そしたら綺麗さっぱり諦めるから。ホントに一回だけ!頼む!」
「そんな事言われても…無理だよ」
「このままだと俺アイツに何するかわかんねぇから…」
「それって脅してるつもり?」
「そういう事じゃねぇよ。ただ…素直にアイツを認められないんだ」
「別に認めてくれなくてもいいよ。あたしは勝也の彼女なんだからそれでいいの。誰に認めてもらえなくても関係ない!」
怒った口調でそう言い放つと康太をおいて教室へ向かう。
ちょうど教室へ入った時、危うく人とぶつかりそうになった。
「わっ!びっくりしたぁ…何不機嫌な顔してんだお前。」
「わっ!…え?…そんな顔してる?」
「あ、弁当箱優奈のカバンに入れといた。ウマかったよ♪」
「あらそ~ぉ?ちょっと料理の腕、上達してきた?」
「ちょび~っとだけな」
「ヒッド~い!(笑)」
仲睦まじいカップルのじゃれ合い。それを見ていたみさ達も笑顔になっていた。
「あ~ぁ…見てらんないなぁ、あのリア充」
「まさか優奈があんなに可愛い少女になるなんてねぇ」
「相手によって変わるんだね、女って」
貧乏ゆすりまで始めそうなほど終業のチャイムを待ちわびている優奈。あと残り5分という時点で荷物はすでにまとめられていた。
そしてチャイムが鳴ると同時に立ち上がり、カバンを担いで勝也の席に向かう。
あまりの早さにみんながポカンと見ていると
「帰ろ♪」
「…お…おぅ…」
二人並んで学校を出ると
「帰りも歩いて帰るの?」
「バイトが無い日はそうだよ」
「え~…今日ぐらいバスで帰らない?」
「なんで?」
「早くアパートに着きたいもん」
「別にもう一緒にいるんだから同じだろ」
「じゃあ今ここでキスしてくれたら歩いて帰る」
「…たまにはバスで帰るか」
「えへ、やった!」
それから引き返してバス停に向かい2人で帰った。
バスを降りると優奈の腕が勝也の腕に巻き付いてくる。
アパートに着くと玄関を入った途端に靴を脱ぐよりも早く優奈が首に両腕を回して抱き着きキスしてきた。
しばらく唇を重ねた後
「ちょっとぐらい待てねぇのかお前は」
「一週間待ったもん」
「いや、そういう事じゃなくて…」
それからようやく靴を脱いで上がる。勝也より先にリビングへ行くとソファにドンと座り
「あー!やっと来れたぁ!」
両手を上げて伸びをすると、ここに来て!とばかりに隣をポンポンと叩く。
「今日ならいいんだよね?」
「何の話だっけ」
「…ホントに泣いちゃうよ?」
「冗談だよ(笑)」
頭の中が真っ白になった所までしか記憶が無い優奈がふと目を覚ますと、勝也のまっすぐに伸びた腕を枕にしていた。
目の前で眠っている勝也の顔をじーっと眺めながら、大好きな人に抱かれた実感を噛み締める。
ふと先週涼子に聞いた勝也の過去を思い出すと自然に涙がこぼれた。
想像もできないほど傷つき、それでも懸命にたった一人でここで生きているこの大好きな人にこれから先は何の心配もいらない人生を送らせてあげたい。
自分がそれを手伝えるように一生着いていこうと改めて決心した。
外が徐々に暗くなり始めてきた頃、勝也の鼻をチョンとつまんで起こす。
「…ん~…あ、寝ちゃったか…」
勝也が起きたのを確認すると上から覆いかぶさるように体全体を乗せて
「すっごい気持ちよさそうに寝てたよ」
「何してんだ俺たち…メシも食わねぇでよ。…サルか?(笑)」
「ホントだ、ご飯食べてないね(笑)」
「なんか食いに行くか?」
「その後またここに帰ってきてもいい?」
「…まだ足りないの?」
「うん♪今しとかないと次いつになるかわかんないもん」
「…ホントに怖ぇ…」




