1 prologue
完全素人の初投稿です。
なが~い目で見てやってください。
昼休みの教室。
いつものように仲の良い4人組がパンをかじりながら笑い合っている中で優奈の視線は一番後ろの席で突っ伏して寝ている一人の男子生徒に向いていた。
「また見てる。最近優奈ってよくアイツの方見てるよね」
「アイツって?」
「あぁ、あの一番後ろの…えっと…松下だっけ?いつも寝てるヤツ」
クラス、いや学校の中でも特に目立つこのグループにありながら特に優奈はその美貌から一番の人気者で他校の生徒までもがわざわざ顔を見にやってくるほどだった。
「ん?よくあんなに寝れるなぁって思ってさ。べつにそれだけ」
休み時間や昼休みになると誰とも話すことなくいつも机に突っ伏して寝ている、髪はボサボサで制服もくたびれた俗にいう「陰キャな男」。
「よく考えたらあたしアイツの顔ってあんまりよく知らないかも…」
「それひっどー!」
みんなと同じように笑いながらも優奈だけはどこかその「陰キャな男」の存在が以前からずっと引っかかっていた。
休み時間や昼休みも常に机に突っ伏して寝ている男だが、たまに動き出すとつい目で追ってしまう。
すると誰もが見向きもしないような落ちているごみを拾って捨ててみたり、ふとした優しさや気遣いが目につき始める。
だが話しかけてみようにもキッカケがなく、周りに壁を作っているようにも見えるその態度にモヤモヤは溜まっていく一方だった。
安東 優奈。
すでに芸能事務所にも所属しているが実際はまだ活動しているわけではなくデビューもしていない。
だが同じ事務所の先輩と会う機会はあり可愛がってくれる先輩もいる。
その中の一人に誘われてある土曜日にライブハウスを訪れていた。
「なんていうバンドでしたっけ?」
「ブランカ。っていうかなんで知らないの?インディーズだけどかなり有名なのに」
「あんまりロック系とか聞かないんですよね」
言われてみれば聞いたことがあるような無いような…だがいくら有名とはいえ知らないものは知らない。
確かにこのキャパのハコを満員に出来るのだから相当人気はあるようだ。
そうして話しているとふと場内の照明が落ち、綺麗なピアノの旋律が流れ始めた。
ハードロック系のバンドのはずだが静かなSEで
「ね?面白い入り方するでしょ」
「あぁ…まぁ…」
徐々にピアノのSEが盛り上がってくるとともに観客のテンションも上がり始めてきたのが空気感で伝わってくる。
そして緞帳が開いていくものの、その後ろには白い幕が張られていてステージ上の全容はまだ見えてこない。
SEの音量も上がり始めてきたころ、その幕の向こうからバックスポットが当てられスモークを纏ったメンバーのシルエットだけが浮かび始めるともうすでに観客のボルテージは振り切っている。
「う…うわぁ…」
ハイハットのカウントが入り、爆発音のような音量で演奏が始まると温度が数度上がったような熱気が巻き起こった。
同時に視界を遮っていた白い幕が切って落とされるとバックスポットを背負ったままの『ブランカ』がようやく現れる。
全身に鳥肌が立つのを感じながら気づけば両手を振り上げて溶け込んでいる優奈。
数曲聞き終わるころには完全にこのバンドにハマってしまった。
2度目のMCの最中ふとウエスタンハットをかぶったあるメンバーが気になり始めた。
「先輩、あのハットかぶった人って…」
「ん?あぁKATSUYA?若いでしょ。確か優奈と同じぐらいじゃないのかな。すごいよね、あの歳でブランカのメンバーだって」
なぜか優奈にはハットから見える下半分の顔に見覚えがある。
それがどこで見た顔なのか思い出すのに少し時間がかかったが…しばらく考え込んだ後ハッと目を見開く。
「…ウ…ウソでしょ?」
それから残りのライブ中視線はずっとベースの『KATSUYA』に釘付けになるが、結局最後まで確信に変わり切れずにライブが終了した。
週が明けた月曜日、優奈が学校に着くと一番後ろの席ではいつもの男がすでに寝ている。
友達たちに挨拶をしながら
「ねぇ、あの松下って下の名前何て言うの?」
「知らなーい。ねぇねぇ康太、松下の下の名前って知ってる?」
「へ?…えっと…なんだっけ。確か「勝也」とかなんとか…」
頭の中でようやく確信に変わった。
(…間違いない)
やっと話しかけるキッカケを掴んだ優奈。
スッと立ち上がりそのまま一番後ろまで行くと勝也の机の前にしゃがみ机にドンと腕を組み
「ねぇ、ちょっと!…ねぇってば!」
呼んでも起きない勝也の腕をゆさゆさ揺らしてみる。
突然の優奈の行動にクラス中が驚いている中フッと顔を起こした勝也。
いきなり目の前に現れたドアップの顔にビクッとしながら
「……あ?」
明らかに不機嫌そうな表情の勝也向かって意味ありげな笑みを浮かべ
「聞きたい事あるんだけどさぁ、土曜日の夜ってドコで何してた?」
その一言で勝也の目つきが変わる。そしてジロッと睨むと
「何って…別に何にもしてねぇよ」
「へー、そうなんだ。ホントに何にもしてない?」
それが初めての会話だった。
するといきなり立ち上がり腕をつかまれ
「ちょっと来いよ」
教室の外へ連れ出された。
呆気にとられたクラスメイトが見つめる中2人で廊下の端まで行くと…
「誰に聞いた」
「何を?」
「だから…それがお前が聞きたい事なんだろ?」
圧倒的な可愛さでみんなにチヤホヤされている優奈。初めての会話で「お前」と呼ばれる事など初めての経験である。
「聞いてないよ、見たの。あの日あそこにいたから」
それを聞いて大きくため息をつき
「マジか…他にその事知ってるヤツいる?」
「事務所の先輩と行ったから。学校ではまだ話してないけど」
「悪いけど内緒にしてくれ」
「…内緒?なんで?」
「いいから。頼むから誰にも言うな、いいな」
「…理由言ってくんなきゃしゃべる」
「……チッ……あんま騒がれたくないからだよ」
「なんで?騒がれたいからバンドやってるんじゃないの?」
「何でもいいから誰にも言うな」
そういうと一人教室へ戻っていった。
遅れて戻ってきた優奈は当然友達たちに囲まれ
「なんであんなヤツと話してたの?」
「ん?別に…なんでいつもそんなに寝てるのって聞いてみただけ」
「何それー!意味わかんない(笑)」
親友である彼女たちに隠し事するのは気が引けたが、誰にも言うなという勝也の言葉に本心が分かるまで敢えて今はまだ黙っておこうという半信半疑な思いだった。
そのままいつもと同じ一日を過ごした後放課後になり
「さぁて、どっか寄ってく?」
みんなが寄り道を計画し始めたが
「ごめん、あたし今日はちょっとパス」
ブーブー言い出す友人たちに両手を合わせて謝りながら、チャイムが鳴った途端にカバンを担いで教室を出て行った勝也を追いかける。
「ねー!ちょっと…松下ってば!ちょっと待って!」
振り返ると優奈が走って追いかけてきた。
「あ?まだなんか用か」
優奈に話しかけられてこんなにメンドくさそうな態度をとる男は今まで一人もいなかった。
自分のいう事をみんな聞いてくれて意見が通らない事などほとんどなかった。
だがこの男は今まで優奈が知っているどのタイプにも属さない、自分を特別扱いしない初めての男で
「あ…えっと…一緒に歩いていい?」
「勝手にすれば?」
会話はそれだけ。
そして無言のまま二人並んで歩く。
しばらくして我慢しきれず
「しゃべっていい?」
「…勝手にすれば?」
「…えっと…なんで学校でいつも一人なの?」
「あんま目立ちたくないから」
「どうして?」
「もし学校の誰かがライブに来ることがあっても俺だってバレたくない」
「…それ今朝も言ってたけどなんでバレたくないの?お客さん増えた方がいいんじゃない?それに学校でもファンが出来るかもしれないじゃん」
「それがイヤだからだ。ブランカのメンバーだって分かった途端手のひら返したようにみんな話しかけてくる。俺っていう人間がどうのこうのは全く関係ない。中身も何も知ろうともせずブランカっていう肩書だけに集まって来て…そんで人にいいふらす。今までそういう人間をイヤっていうほど見てきたから。だからお前も、もしまたライブに来る事があったらそん時はちゃんと話すよ。でも学校では俺の事はほっといてくれ」
バンドをやっていればファンが増えたりお客さんが増えたりする方が本当はいいはず。
だが今まで見てきた人間関係から有名になればなるほど自分たちがアクセサリーのように扱われているのが伝わってくる。
そういう思いがイヤで人との接触を避けていたようだ。
「で…でも、あたしは別にそんなつもりじゃ…たまたま見たバンドに同級生がいたからちょっと話しかけ…」
「俺、今からバイトだから」
会話の途中にも関わらずそういうとスッと道を曲がって駅の方へ歩いていった。
どうやら自分は歓迎されていない。それどころか少しイヤがられているかも…。
こんな扱いを受けるのが初めてな優奈にとってそれは頭の中を勝也が支配するには十分な態度だった。
翌朝、優奈が学校に着くと既にいつものように勝也は机で寝ていた。
いつもなら自分の席に向かうはずがスタスタと勝也の席に向かい
「おはよ」
声を掛けてから自分の席へ向かう。その光景をクラスメイトがキョトンとして見ていた。
フッと顔を上げて自分に声を掛けてきたのが優奈だと分かるも返事も返さずにまた顔を伏せる勝也。
「おはよ…。何アイツに声かけてんのよ。ホントになんかあった?」
「今までそんな事したことないよね」
「別に…クラスメイトじゃん。それに誰も声かけないのも可哀想かなって」
優奈の行動はみんなにとって不思議以外のなにものでもなかった。
そしてその日の放課後、またもや友人たちからの誘いを断り
「…一緒に歩いていい?」
昨日のようにまた追いかけてきた優奈。
「何なんだお前。ほっといてくれって言ったよな」
「だから学校では声かけてないじゃん」
「そういうコトじゃねぇだろ」
相変わらずそっけない態度だが今日は昨日とは違いグイグイ話しかけていく。
「ねぇねぇ、ライブ見に行ったらちゃんと話してくれるんだよね」
「あんま話してる時間ないけど」
「次のライブっていつあんの?」
「ホントに来る気か。調べりゃすぐわかるだろ」
「教えてくれたっていいじゃん」
そんな会話を交わしながら二人が並んで歩いている。
今まで男友達と歩いたりする事はあったがいつも大体優奈は返事ばかりで話しかけるのは男の方。
だが今回はちょっと様子が違う。
話しかけるのはずっと優奈で勝也はそれに対する返事のみ。それどころか返事を返さないこともある。
それは毎日続き、いつも「バイトだから」と駅への曲がり角で別れる。
そんなある日
「バイトって何してんの?そんなに毎日毎日入ってんだ。やっぱり楽器ってお金かかるから?」
「それもあるけど…俺、学費以外は全部自分で稼がないといけねぇから。家賃とか生活費もかかるし」
「…え?…家賃って…まさか一人で住んでんの?」
「そうだけど」
衝撃だった。
どちらかといえば裕福で何不自由なく育ってきた優奈にとって、同い年の高校生がすでに自立し一人暮らしをしているという事実は驚きでしかなく
「すごーい、いいなぁ。あたしも一人暮らししてみたいんだぁ」
するとギロッと睨みつけ
「お前みたいなヤツが興味だけで好き勝手やって生きていけるほど甘くないぞ。こっちは生きていくのに必死なんだよ!」
珍しく目を見て話したかと思えば説教だった。
「ご…ごめんなさい…」
睨みつけた目を逸らすといつもの曲がり角からそのまま黙って駅に向かっていく勝也。
ようやく毎日隣を歩くことを受け入れてくれたかと思った矢先に怒らせてしまった。
「はぁ~…やっちゃった…」
軽はずみに言った言葉で怒らせてしまったことに後悔しながらトボトボと歩いていると後ろから思いっきりみさに抱き着かれる。
「見ーつけた!毎日付き合い悪いと思ったら松下と一緒に帰ってんの?…どういう事?」
「っていうかたった今怒らせちゃった…どうしよう…」
半泣きの顔でみさを見る優奈。
その表情から何かを察知すると
「なんなの?アイツの事追っかけてんの?なんで?」
「何でって…別に追っかけてるわけじゃないけど」
本人にその意識はなくともすでに周りでは優奈が勝也に近づき出しているという噂は流れ始めている。
それはみさ達の耳にも入ってきており
「最近噂になってるよ」
「…え?」
長文読んでいただきありがとうございました。
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