第九公演 盗賊と旅芸人
-sideユーリ
追い詰められたレオンが家から飛び出していった。実は俺はこの家に来る前にルルにお願いされていた。
「ねぇ…ユーリ君?レオンさんってなんか怪しくない?会ったばかりなのにお金を貸して欲しいなんてさ…」
確かに一理ある。急に会ったばかりの他人に金を借りるなど、もし俺なら出来ない。というかよく知っている人相手でも無理だ。
「うーん確かにルルの言うことも分かる。よし俺も気にしてみるよ。」
するとルルが少し目を見開いている。
「あれ?いいの?ユーリくん…あの人のこと結構気に入ってたじゃない?」
確かにレオンさんの事はいい人だなぁと思ってたし、俺が女なら惚れるわなとか思っていた。がそれとこれとは別として
「俺はレオンさんとルルならルルを信じるよ。ルルが俺の味方でいてくれるなら、俺だってルルの味方であり続けるに決まってんじゃん。」
俺はルルにそう告げる。ルルが俺の味方である宣言してくれた時から決まっている。
だとしても共に過ごす時間はルルの方が長いのだ。見知らぬ他人よりルルを信じるに決まってる。
するとルルは顔を真っ赤に染めている。あれ?俺もしかして変な事言っちゃった?
「お二人共〜!レオンさん達に手土産用意しましたよ〜。そろそろ向かいましょう。」
手土産を買いに行っていたシエルが戻ってきた。俺はそれに返事してシエルの方へ向かった。
「…ユーリ君………。」
ルルは頬を赤くして高鳴る胸を押さえていた。
とまぁんな事あって、実際にルルの言う通りにじっとレオンとその妹の様子を見ていた。
最初俺たちが家に入って来た時、レオンさんは俺らの顔をチラッと見た後、すぐにシエルの持ってる荷物に視線を向けていた。
そしてシエルがそこから土産を出してレオンに差し出したら、少し瞳を揺らしている。んでまた荷物の方に僅かに視線を向ける。
あれ?こいつなんか俺らの荷物ばっか見てねーかな?俺は何となくそう感じていた。
人と接する時は、今接している人物に注意を向けるものではないのか?
俺はそんな風にモヤモヤを抱えて、レオンさんの妹の部屋に入ったのだ。
そしたらね?いやぁ視線って凄いね!どこに関心向けてっか分かるもんね!あと、妹さんや?手凄い血色良いよ?顔すっげぇ白いのになんぞこれ?
視線…俺は昔から父さんに人がどこに視線を向けてるか注意しろってよく言われていた。
例えば、マジックの技法としてよく用いされる“ミスディレクション"。これも相手の視線を利用するんだが、わざと何かを目立たせて、その間に視線が外されてる場所で仕掛けを行う技法である。
これも一人でも視線を目立たせたいところに向いてくれなければ失敗のリスクがある。
相手の視線に敏感になるというのはもはや職業病の域で、仮面つけてない状態で視線を感じると吐きたくなるレベルまで達した。解せぬ。
俺はレオンに全ての疑問をぶつけた。まぁ素顔でやるとストレスで死ぬので仮面を付けた状態だけども、プラスして人っつーのは隠したいことを細かく指摘されればイライラしてくるものだ。そして怒りはその人の本性を表してくれる。
案の定キレて暴露したレオン。おいおいマジかよ心までイケメン説はやっぱ幻想じゃねーか…。いたらチートだもんね。
んでもってルルが警備隊に連絡しようとすると危険を感じたレオンが家を飛び出した。
-sideレオン
「…へ…俺の足に追いつく訳ねーだろ!」
俺はすぐさま家から飛び出して、走って路地裏に逃げ込んだ。
俺の職業は"盗賊"。素早さや器用さはピカイチである。そんな俺に追いつける奴など
「見つけた!」
…………は?
「はぁぁぁぁぁぁ!?なってめぇ!俺の足に追いついたのかよ!?」
何故かユーリがいた。え?なんで?なんでいんの?おかしくない?
「俺は旅芸人してるから、器用さと素早さは自信あんだよね…」
「いやいや!おかしいだろ!俺は盗賊だぞ?!旅芸人より素早さが上なのに!」
「俺が何年旅芸人やってると思ってんだよ。例え盗賊のが旅芸人よりステータスが上でもなぁ?こっちはガキの頃から旅芸人してるんだよ!経験がちげーわ!経験が!」
するとユーリがスタスタと俺に近づく。
「ほら諦めて警備隊に…」
ふざけんな俺は…俺は…
「てめーらに分かるかよ…俺みたいなスラム出身者の気持ちが…」
俺は両親に捨てられた。親父は何処かで女作って、お袋は日に日に親父に似てくる俺を可愛くないと言って俺を置いて出て行った。
周りは誰も助けてなんてくれない。スラムのガキってだけで蔑んでくる奴らばかりだ。
そこからだ俺は決めた。人になんか頼らないで自分の力でのし上がろうって、そして俺は自分の適性が最も合っていた盗賊へ変わった。
俺は自分の顔すらも武器にして今までやってきた。なのに…
「ここで…終わりかぁ…」
俺はみっともなく涙が出てきた。分かっていた事だ。いつかはこうなるって…。誰からも理解なんかされないって。そしてこのやり方はいずれ破滅するって…
するのユーリが
「俺さ…仲間から追放されたんだ」
「は?」
追放?いや急に何の話だ?
「俺のステータスって平均でさ?目立って優秀なのないんだって…そしたらあいつらは俺みたいな旅芸人より盗賊を仲間にした方がいいって言ってた。」
確かに…盗賊のが器用さも素早さも上ではある。しかし目の前にいるこいつは…
「あのさ?提案だけど…お前俺らのサーカス団に入らないか?」
「は?」
何言ってるんだ?こいつは…
「いやさぁ?考えてみたんだよね…。あいつらの言う通り、癪だけど盗賊の方が素早さも器用さも旅芸人もり成長率が高いじゃん?
だから上手くすれば盗賊もクオリティ高い、パフォーマンス出来るかなぁって…」
成程な…つまりは
「俺を利用しようってことか…。」
「まぁな…。それに俺は団長だしね?一応。どうよ?今度は別の方法で成り上がらねぇか?」
「…いいのかよ…俺はお前らの金取ろうとしてたんだぞ?」
「取ろうとしたっつーけどさ?俺らあんま金ないよ?だって立ち上げたばっかりだし、取る金ねぇよ?どうしても金取りたいなら自分で稼いで、サーカス団に貢献しろよ」
俺はついブフッと吹いた。すげえ言い分。変な奴だ。いや嫉妬の目どころかキラキラした目を俺に向ける時点で変な奴だけど…
「仕方ねーな…。金ねー奴から取るのもあれだしな…。でっかくなったサーカス団から金取ろーかな…。しゃーねーから入ってやんよ?団長?」
「精々貢献しろよ?レオン?」
まぁ取り敢えず、路線変更でもしますかね。
「ユーーーリくん?これはどう言うことかなぁ?」
その後ユーリは正座させられてルルからお説教されていた。
「なんで勝手に盗賊仲間にしてるかな?詐欺師だよ?詐欺師!私達お金取られそうだったんだよ!」
というごもっともな説教である。
一方シエルは
「わっ私にも後輩が!よし先輩として頑張んないと先輩と言えばやっぱり"焼きそばパン買ってこいよ"とか言うべきでしょうか!」
先輩になることに喜びを見出してる。
ちなみにレオンはミラにすっぱりと別れを切り出して平手打ちを喰らったらしく頬に紅葉マークが浮かんでいる。
「まぁまぁ落ち着けよ?ヒステリック女」
「誰が!ヒステリックよ!この詐欺師!全く私の純粋で可愛いユーリ君をよくも誑かしたわね!」
するとユーリがレオンの後ろに隠れた。因みに仮面は外しており素顔である。
「レオン!ありがとう!お前だけだよ!俺の味方!」
ユーリ的には同性の団員が入ってきてくれた事が純粋に嬉しいようである。
するとルルは徐々に目のハイライトが消えていく。
「…………お前さ?もしかして二重人格なの?まぁ個人的に素顔のがいいけど…」
ハァとため息をつき、何故かお兄ちゃんスイッチの入ったレオンはユーリの頭を乱暴に撫でている。
「ユ…ユーリ君の頭を撫で撫でですって!?なんて羨ましい!あいついつか追い出してやる!」
「落ち着いて下さい!ルル!ルル!!」
そして新たな団員を迎えた小さなサーカス団の夜は更けていった。
-団員総数四名
登場人物
レオン・サミュエル(22歳)
盗賊の青年。金髪碧眼の美青年だが、その顔面や演技力を武器にして詐欺を行ったりしてる。盗賊としての腕前も確かである。しかし素早さ+器用さはユーリより若干劣る。
スラム出身であり差別する大人や子供を大切にしない人間が嫌い。実際は面倒見がよく、コミュ障で頼りないユーリや、年下で先輩ぶろうとするシエルには優しい。
ルルとは犬猿の仲。