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悪役令嬢になりたかった私

作者: stenn


 ――昨今の小説の流行り。それが悪役令嬢である。そう。ヒロインでもヒーローでもなく。悪役令嬢。つまり悪役令嬢になりさえすればこれは人生勝ち組なのではと思った十の春。


 なので私は悪役令嬢になることにしました。




 主人公らしき人とを虐めては『オーホッホッホ』を取り返す人とととして名を馳せているのは一般的な平民。私。ルス。平民ですもの。苗字など在りませんわ。何か?


 そして今日も今日とて。主人公らしき人を囲っておりますの。主人公が誰かなんて分かりはしないので。学園のアイドル。かわいい子中心に。それは私チョイス。ふふふ。


 縦ロールで学園を闊歩する私。かっこいい。


「ちょっと。あーた。ネクタイが曲がってましてよ。気を付けることね。顔に泥が付いてますわよ。オーホッホッっ。ほら拭きなさいな」


 どやぁ。と言う顔で見下げるのですけど、なに。その感謝するような目は。はんっと今日もきょうとて無視して颯爽と歩いてやりますわ。


 そう言えば昨日私に黙って女子生徒を大勢で囲ってたので注意しなければ。私を除け者にするなんて許せませんもの。何なら囲ってくれてもよろしいですのに。称賛を。


 そんな事を考えていると後ろから声を掛けられていた。


「ルーちゃん。それはもはやどこかの夫人なのでは?」


「悪役婦人ですの?」


 なんて良い響き。と言えば友人のマーちゃんはげんなりとした顔を浮かべた。


「縦ロール止めようよぅ。可愛くないよぅ。ルーちゃん。ほんとは凄い優しいのに。可愛いのに」


 優しいってなんですの? 私優しい事をした事となんて無いんですの。私は小首を傾げると特大の溜息を疲れたのですけど。


「悪役令嬢こそ至上。ギロチン台に立つまでが夢ですの」


 儚く散っていく命。凛とした横顔は夢だ。私が死ぬ。それは仕方ないのです。でも夢に命は掛けるものです。ふふふ。とと笑うとマーちゃんはドン引きしている。


「えぇ……死ぬし。そしてギロチンなんて家の国に無いし」


「作る?」


 こう。大きな特注の包丁と――。特注で幾らくらいなのかしらね。お高いんでしょうか。


「作んないよっ……どうすれば良いんだろう。もうこれ――昔はこんな子では。あ、ルーちゃん。義弟。義弟君はどうしてるの?」


 義弟。居ましたわね。そんなの。びーびーいつも泣いていたからいつもくすぐってやりましたわ。泣いたら飴を食べさせてあげたり。ふふふ。虫歯は怖かろうに我慢して涙目で。


 ふふふふ。さすが私。


「家から追い出しましたわ」


 実際は確か遠い親戚の元に行くとかなんとか。虐める対象が居なくなってその時は泣いて過ごしたのは懐かしい思い出。


 というか、なんですのその目は。


「……ルーちゃんの虐めはでろでろに甘やかす虐めだから……違うと思う。ああ。一縷の望みが……」


 一縷って何。


「うーん。でもいつになったら断罪されるのかしら?」


 こんなに暴ているのにる誰も私を断罪しないなんてどう言いう事?


「いや、誰もルーちゃんを責める人は居ないと思うよ? 何もしてないんだし。もう、お貴族様の婚約者でも奪ってくる? 小説に書いてあったし。なんてね」


 あ――。そう言えば小説にそんな事書いてあったかしら。私と言う悪役を乗り越えて結ばれる二人こそ至上。私はマーちゃん手をぐっと握りしめる。『えぇ』と困惑した声でマーちゃんは顔を引きつらせた。


「え、まって」


「それですわ」


「いやいや。まって。ごめんて」


「行ってきまーす」


「いくなぁ」




 ということでやってまいりました。我が地方の領主。……あれ。何だったかな。名前。まぁいいや。


「たのもう」


 閉ざされた扉の返事はない。屍のようだ。大きく息を吸う。


「たのもうーーーー」


「あの。そこにベルが在るので」


 通りすがりの人が指を指していく。にしては見覚えの在る……。うーん。一般的なイケメンですわ。とりあえずお礼を。ぺこりと頭を下げる。


「あ。感謝いたしますわ。私、ルスと申します」


 暫く通行人の青年は固まって私をまじまじと見つめてから漸く口を開いていた。


「……え。姉――こんなところで」


「? もしかして我が愚弟」


 姉。そう呼ぶのは私の愚かな義弟だけだった筈ですわ。なに。その何とも言えない顔は。そうでしょうね。貴方は私に会いたくなかったでしょうね。


 オーホッホッ。


「愚弟言うな」


「あら。あ―た。こんなところで何してるのかしら? お久しぶりね。ふふふふ。ちゃんと食べて無いんですの? 私が今度パンを持ってきますので泣いて嬉しがりなさいな」


 健康はなにより。呆れたように私を見ている。


「うーん。この。相変わらずのそれで姉。ここに何の様なの?」


「ぁあ。婚約者を奪いに参りましたの」


 あら聞こえていなかったのかしら。ぶんっと縦ロールを振ってみる。特に意味はない。


「だから」


「……は?」


「悪役令嬢らしいでしょう? 私と言う壁を乗り越えて二人の絆は強くなるのよ」


 いつものように笑うと頭を抱えた。『やっぱ姉はあほの子だ』という声が聞こえてくる。あほの子ではない。これでも学年トップの成績だ。悪役たるもの勉学すら一流に。だ。


「えーと。ちなみにここの令息の顔は? 名前は?」


「知らないですわ。どうでもいいですもん。在り合えず『愛している』とか言っておけば何とかなりませんの?」


「あ゛」


 頭が痛いのだろうか。頭を抱え込んで座りこんでいる。ふむ。私のせいか。そうか。そういう時はとポケットから飴を取り出した。


「あら。泣きますの? 飴食べます? 虫歯になります?」


「うん。一言余計だけど、ありがと。ともかく。ここではなんだからちょっとこっちに来て」


 ぐんと引っ張って連れていかれたのはお貴族様の館の中であった。



「オーホッホッ。我が義弟よ。私の為にここに潜入してくれたのですね? 良い舎弟を持ったものです」


「潜入とというかね。俺んちとというかね。そして義弟であって舎弟ではないし。ともかく静かにしようか」


 凄いキラキラした部屋だなぁ。家が丸々一軒入りそうな広さだし。これが貴族。私のような似非貴族ではないのね。


 ぽふぽふクッションが気持ちイーですわ。おやつが美味しい。ナニコレ。


「あら。もうここを掌握されましたの? 私の為に。私の為にですのね」


「はいはい。そーですね。それより、姉。ここに来た意味何だっけ?」


 ……。


 ……。


 あれ?


「つぁ。覚えておけよ。ほんっと姉は勢いでしか生きてねぇなぁっ」


「あら、ごめんあさせ? でもでも、我が義弟よ。これ美味しいし。ままに持って帰っていいかな?」


 これを与えれば私にざくざくとお小遣いが……増えないですわね。よしこれを見せびらかして悪役ムーブを。


「素。素が出てる」


 ……。あら。


「ぐ。つい」


「ともかく。俺の婚約者の座を奪いに来たって?」


 そう言えばデカ――大きくなりましたわね。この義弟。確か別れたのが十三の時だった気が。私に恐れを成して出ていったくせに。私にこの家を捧げるなんて悪役冥利に尽きますわ。


 さすが私。


「そうですの。貴族は婚約者を持っているのでしょう? これは悪役令嬢の見せどころですわ。さぁ。私を受け入れるのですわ。そしてヒロインと愛を育んで私をギロチン送りにするのです」


「うわぁ。何。そのプレゼン? ギロチン……死ぬじゃねえか!?」


「ほほほほ。それが悪役の華ですの」


「つぅか。俺に婚約者はいな……い。と言ったらどうするの?」


「次」


 言った刹那崩れ落ちた。情緒不安定かな? 飴食べる? そう言えばこの飴ずっと常備してますわね。私。


「わあああああ。ダメだ。これ――分かった。分かったから。結婚しよう。これでいいか?」


 もう少し。もう少しだったのに。となにやらぶつぶつ呟いている――が。私は満足だ。これで悪役令嬢の第一歩。


 これで破棄のイベントが迎えられる。いぇーい。これで私の人生は安泰である。


 いや。なんで結婚?


「学生なので婚約からですかね。そしてヒロインと愛でもなんても育んでください。あ。出来れは皆様の前で破棄のイベントをしてくださいませ。我が義弟よ」


 あぁ。マーちゃんに報告したら喜ぶそぅ。


「あ゛? あぁ。うん? そう言えば姉。俺の名前覚えていたりする?」


「……え?」


 なんだか冷やりとした冷気が……なんですの。私より悪役ムーブするのは止めて戴けます?


 こわい。


「……やっぱり覚えてねぇな。だからいい加減ノリで生きるの止めろ。ルス」


「ぐ。覚えてますわよ。――ユ……ユベール。ここの家の名前は知らないけどっ」


 勢いで来たからね。領民なら知ってて当然? 何それ。常識って美味しいのかしら。半ばやけくそ気味に言い放っていた。


 が。いつまで経っても『正』も『誤』も聞こえてこないのですけど。


「……え。ユーベル?」


 え。間違っていたかな。間違ってはいないとは思う――ととオロオロしていたら義弟――ユーべルの顔がジワリと赤く染まっていくのが見えた。


 え。泣くの? 泣きますの?


「泣くんですの?」


 ハンカチと飴をぐっと握りしめる。


「泣くかよ。泣かないけど。ルスに初めて呼ばれたと――おもって」


 そうだったかなぁ。そうだったかも。よく覚えていない。実は義弟と私の年齢は変わらない。血のつながらない家族。少し遅れてこの義弟が向かえられただけで。すぐに出ていったけど。


 泣き虫だったからなあ。


「くすぐる?」


「っ。絶対、するな。ともかく。こうなったからには婚約してもらうからな」


 なぜ恨めし気に見る? ま。いいか。


「ヒロインとお幸せになれるとといいですわね?」


 そして断罪。断罪カム。ギロチンでなくても国外追放とか? あ。修道院……って平民は入れたっけ。それとも――娼館はちょっとなあ。でも。これこそ悪役の醍醐味だから。ですわ。


 どんとこい。


 突っ走るぞー。オー。


「今度会わせてくださいな」


 どこか遠い目をされたような。その後でにこりと良い笑顔をされた。何が?


「そうするよ――そうする」




 あれ。おかしいなぁ。何年経っても断罪される様子は。断罪……は。なぜか。子供も出来たし。ここから旦那が変態に――はならなかった。


 至って平和である。幸せである。


 おかしい。


 おかしいですわ。そう言えばマーちゃんは『義弟グッジョブ』とかいっていたし、死ぬ程感謝していいるとかなんとか。なんで。と言ってみたら教えてくれなかった。家族もそうで。『ギロチン本を笑いながら読んでいた時はどうしようかと思った』と母は噎び泣き、父はドン引きしていた。


 私のコレクションを捨てたのは母か。高かったのに。あれ。世界のギロチンコレクション。あれから手に入らないのがかなしい。


 ……にしても。なんで。


 もしかして私がヒロインなんて落ちだったのかしら? ……。いやいやいや。困る。こまる。


 私は悪役令嬢なので。そのために人生を捧げてきたとというのに。どうしてこうなった。


 ……よし。こうなれば悪女への道。第一章をはじめるとかしかないですわ。


 目指せ十三階段。あ――でも出来れば怖くないほうが……。なら刺殺で宜しく。さあ。こうなれば次のヒロインを探しましょう。



 ――ねえ、ねぇ。ルス。悪役令嬢かっこいいねぇ。どんなに周りが虐めても、凄いんだ。


 ――ふうん。じぁ。私もかっこよくなるぅ。ユーベルがかっこいいって思ってもらえるように。


 ――なら。僕はルスを守るんだ。このかっこいい騎士みたいに。ずっと一緒なんだよ。

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