みなの底
濁りた湖の底は透き通って見ることも出来ず
双眼鏡を準備したところで何も変わらない
穏やかな湖は荒れる事はないのだが
100年に1度大荒れに荒れる事があるらしい
湖に住む水龍神が目を覚ました短い期間だけ
世界に大変動と恐怖が降り注ぐという
水龍神の名前はみなの神
その姿を見る事は許されず
姿を拝みし者はたちどころに命を奪われるという
湖の底に御神体が静まっているとの伝えがある
御神体は水龍神みなの神魂が宿るもので
神のみが知っている事実と祖父から聞いた
祖父は湖の底に御神体探しをした夜
その時から消息が不明になった
水龍神みなの怒りを買ったものだと思っていたら
そうでなかったことが分かった
俺は祖父に懲りずに湖の底に降りて
御神体探しをしたんだ
この湖は神宿る場所であるが故なのか
不思議に水中呼吸が可能であった
湖底で祖父を見つけたんだ
祖父が湖底にいたことは既に驚きだが
どうやら身体に水龍を纏っているようなんだ
「直彦。湖底に何をしに来た?」
「なにって、じいちゃんこそ何してんだよ、ここで!皆心配を通り過ごして葬式まであげたんだぞ!」
「ワシはお前の祖父であって祖父ではない。水龍神みなである。ワシの姿を見るべきではなかったな」
湖底が激しく振動し始めた
「何をするんだ、じいちゃん!!」
「わからないのか、直彦。人類はな、滅亡しなければならんのだ」
湖から信じられない光が満たされる
「直彦。恐れることはない。皆で死んで天国に行くんだよ」