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見知らぬイケメン

 背が高いが細っそりとした男は整った顔をしている。いわゆるイケメンだ。ストレートな長髪を後ろでまとめて薄い青色の作業着を着ている。たしかにイケメンだ。だが、どこか薄気味悪い。そんな印象を俺に与えた。こちらへ近づいてきている。俺は咄嗟にエロマンガをゴミ捨て場に放り投げ男と距離を取る。

 イケメンはゆっくりとだが、真っ直ぐ歩くスピードを落とさず、こちらとの距離を詰めてくる。

 戸惑い立ち止まる俺。

 30センチ前にイケメンが立った。

 近い。あまりに近すぎる。

 俺は顔を上げてイケメンの顔を見る。頭一つ大きいが感覚的には、それ以上大きく感じる。そして、本当にイケメンだ。

 イケメンは顔を真っ直ぐにし、目だけをこちらに向けている。冷たい目が突き刺さる。

「君たち、ここで何やっているのかな? 」

 イケメンは先程の問いを再度繰り返す。ただ先程と異なり、俺の肩に掌を乗せながら、冷静にゆっくり聞いた。

 怖い。このイケメンは何者なんだ? 

 背中に冷や汗が流れているのが分かる。

 先程まで友人からエロマンガを奪取する作戦を考えていたのが遠い昔のように感じてくる。

 あの頃は楽しかった。数分前の出来事なのに、大人が昔を懐かしむような感想が出てきそうだ。

 そうだ、友人は何処だ?

 唐突に現れたイケメンに戸惑い、忘れかけていた友人の存在を思い出す。

 俺はイケメンに気づかれないよう、イケメンが俺にしているように顔は一切動かさないで目だけを少しずつ動かし辺りを探す。

 目の端に友人を捉えた。

 友人は俺が投げ捨てたエロマンガをゴミ捨て場から回収しようとしていた。

 違う、違う、違う、違う!

 何やってるんだ、お前!?

 この状況で何でエロマンガのほうに行くのかなーー? どう考えてもこっちだろ!?

 俺が友人を凝視しているのに気付き、イケメンも友人を見る。するとすぐに男は踵を返し友人のほうに向かっていった。先程のようにゆっくりな足取りではなく足早に。

「おい!!! 」

 友人が殴られるんじゃないかと思った俺は考えるより先にイケメンを制止しようと声が出ていた。その声に振り向く友人。だが、イケメンは振り返らない。

「『何』を探している? 」

 イケメンは友人に問う。友人は戸惑い、どう答えたらとこちらを見ている。俺は直感で深く関わりたくない相手だと感じているのて何も答えるなと小さく顔を左右に振る。

 友人は頷き、

「何って……ふっ。決まっているだろ? お前と同じ物さ。先に手に入れてみせるさ。」

 ドヤ顔で応じた。

 いや!展開的にそう答えてみたいの、すっげぇ分かるけど! 分かるけど!時と場合をちゃんと選んでくれ!相手の雰囲気で、そういうのしちゃダメだって分からないかなー!?そして、そのドヤ顔やめろ!!

 イケメンが友人を問い詰めるんじゃないか思ったが男は冷静に見つめ、小さく溜息一つすると作業着のポケットから携帯を出し、なにやら操作している。

 何処かに連絡するのか?

 パシャ!!

 携帯から機械音が聞こえた。

 イケメンは友人の写真を撮った。何の為に?と、思ったのも束の間、イケメンはこちらを振り向き、同じように俺の写真を撮った。何の為に撮ったか分からない。

 ただ単に写真を撮られただけだが、今のは絶対に防がなければならなかったと直感し後悔する。

 友人は負けじと自分の携帯を出しイケメンを撮り返している。

 パシャ、パシャ、パシャ、パシャ、パシャ。

 友人はいろんな角度から男を撮っている。

 いや、何枚撮るんだ?さっきから何でイケメンを煽るような行為する?

 とは、思ったが俺は友人の行動を止めたりはしない。人の記憶は曖昧だ。イケメンを機械的にはっきり残しておいた方が良いと感じたからだ。

 パシャ、パシャ、まだ音が聞こえる。顔だけではなく服装、手や足、体を部分的にも撮り出した。何枚撮ったか分からないがイケメンは撮られるのに飽きたのか急に友人の携帯を手で振り払った。

 俺の元まで地面を転がってくる携帯。

 慌てる友人。

 だがイケメンは、そんな事を気にもせず、俺と友人に聞こえる声で、

「明日の8時、またここに来い。いいか? 必ず来い。」

 こちらの回答は聞かずに、そう言うとこの場から去って行く。

 友人が、その背中に、

「良いのか? 明日が、お前の命日になるぜ? 」

 と、相変わらず煽っていたがイケメンはそんなの気にしないし、俺もしない。

 そんな事より俺は得体の知れない何かに巻き込まれつつあると悟った。



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