エロマンガ争奪戦2
同じエロマンガなんか俺は持っていない。どころかエロマンガ自体、自宅には一冊たりともない。四畳半押入れなし、ベッドなし畳に布団生活の俺の部屋だと隠し場所自体ないのだ。本棚はあるが隠せるとは思えない。
仮に俺がエロマンガを一冊所持していると想定して本棚に並べてみると、教科書教科書エロマンガ教科書な感じになるわけで隠し通せる気がしない。
むしろエロマンガをわざと強調しているように思えてくる。
では、逆にしたらどうだろうか。
エロマンガエロマンガ教科書エロマンガになるわけで……やはり無理だな。エロマンガが先程より強調されている。オセロのように教科書もエロマンガに変化してないか。なんでかな――? 真逆の設定なのに全然隠せてない。どう考えてもエロマンガっていう存在が強すぎる。
と、考えながら俺はある事に気付く。
エロマンガを手に入れた場合、この部屋で見つからないように隠し通せるのか?
その自信は全くないが、まずはエロマンガを手に入れるのが先決だ。手に入れた後の事は手に入れた後に考えれば良い。
「これだけど持ってるか? 」
友人は徐にバッグの中に手を入れ、エロマンガを俺の前に出した。
俺は目の前に出されたエロマンガを冷静を装い、あまり興味なさそうな眼差しで見つめる。だが、興味なさそうな瞳の奥はキラキラ輝いている。当然だ。興味津々なんだから。
ここで俺は初めてエロマンガをじっくり観察した。エロマンガはコミックスタイプの物ではなく、週刊誌タイプの雑誌だった。表紙には可愛い女の子が誘うような際どいポーズを見せつけている。この表紙だけで今日は良い一日を過ごせそうだ。そして女の子の下には、このエロマンガに連載しているであろう多くの作家名が載っている。エロマンガ作家は変わったペンネームを付けなければならないというルールがあるのかと言わんばかりに一般漫画にはないようなペンネームが陳列されていた。そんな中、表紙を描いたであろう作家の名前は他より大きな太文字、異なるフォントでパンチラ戦士と書かれていた。……何があってこのようなペンネームを付けたのか。だが、絵は良い!本当に可愛い女の子だ。
欲しい。……では、そろそろ本領発揮しますか。秘技強奪を発動しよう。エロマンガを手にしダッシュで自転車まで戻り、自宅まで走り去る。自宅に戻ったら居留守で過ごす。俺の方が足は早い!必ず決まる!万が一、同タイムで俺の家まで辿り着いても居留守をしよう。
友人は単純だから明日になれば、すっぱり忘れているだろう。
「表紙だけだと、ちょっと分からないな。読んだことあるか中身も見たいから貸して。」
何の疑問も抱かず素直にエロマンガを渡す友人。
よし!エロマンガを手に入れた!!!
作戦実行!駆け出そうとした俺の指に違和感を感じる。
……手触りが……手触りが……おかしい。
エロマンガに目を移すとエロマンガはカピカピだった。前日の雨、そして今日の夏の猛暑の日光によってカピカピのエロマンガが完成されていた。中がビショビショに濡れていたら嫌だな。とりあえず中を確認しようとエロマンガを開いてみる。
ビリっ!!
ページとページがひっついたエロマンガは糸も容易く破れた。開いたページは元々どんな絵が、どんなセリフが書かれていたか分からないくらい残念な感じで破れた。
なるほどな。これは開くのにかなりの技術が必要だ。
「何やってるんだ!!」
叫びあわめく友人。
安心しろ、友人。俺も同じ気持ちだ。不甲斐ない自分に怒りさえ感じる。
よし、今度は綺麗に開いてみせる!
慌てている友人を静止し、指の骨を鳴らし、首を回し、心を体をリラックスさせ、エロマンガに指をかける。
よし! 集中だ! 集中しろっ!
……いけるっ! 指に力を入れた瞬間、
「君たち、ここで何をしているのかな? 」
背後から急に声を掛けられ俺は慌てて振り返った。




