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俺とヒロインとパンチラ戦士

「……おい。鼻血出てるぞ。」

 俺は見たまんまの感想をヒロインにぶつけた。

「はぁ??そんなわけないで……」

 ヒロインは自分の服に垂れている血を見るや否や、俺の手にあるエロマンガの破ったページを無理矢理奪った。そのまま鼻を拭こうとしている。

 ヒロインもティッシュやハンカチ持ってないのかよ。まぁ俺の鼻血は、もう止まっているから問題ない。それで拭け拭け。

 だがヒロインは奪ったページを間近で見るや、先程の倍の勢いで鼻血を出した。

「出てる!出てる!メチャクチャ出てるぞ!早く拭けって!なんで凝視してるんだよ!?見てる場合じゃないって!!」

 ヒロインの鼻からはダムが決壊した時のような勢いで血が出てるが本人は一切気にせずにエッチなポーズをしたお姉さんに夢中である。

 俺の方はヒロインが気にしない分も加算されて通常以上に心配な気持ちになっている。どう考えてもヤバい勢いの出だ。

「とりあえず血止めるぞ!」

 俺はヒロインが目の前に掲げている破ったページをそのままヒロインの顔に押し当て鼻を摘んだ。

「んーー!んーー!!」

 ヒロインは何か言っているが破ったページを顔に押しつけているせいか何を言っているか分からない。しばらく抵抗していたが、やがて無抵抗になり素直に受け入れた。

 と、思った瞬間、

 ズドン!!

 重い音と、その音に相応しい威力を持った一撃が入った。……ヒロインの膝蹴りが俺の股間に。

「んーー!んーー!!」

 先程のヒロインと同じ台詞だが意味合いが絶対違う。マジで死ぬと思ったじゃないか!何今の!?よく人に対してそんな事出来るね!悪魔か!?悪魔なのか!?

 意識は何とか保ちながらも俺は痛みに耐えきれず地面をゴロゴロ転がる。

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 よし!だいぶ痛みが和らいできたぞ!あとちょい!あとちょいだ!

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 よし!完全回復だっ!俺、復活!!

「…………長いわよっ!」

 バコーン!!!

 地面を転がる俺のテンプルにヒロインの蹴りが綺麗に決まった。痛みが下から上に。股間の痛みが消えたと同時に頭に激痛が移行した。

「んーー!んーー!!」

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 俺は再度地面を転がるが、いつまでも転がっているとヒロインにまたどこかを蹴られる可能性が高い。痛みを耐え、スッと立ち上がると身構えた。

 なんだこれ!?やる事なす事、全身暴力じゃねぇか!暴力の星から生まれてきたのか、コイツは!?

「ちょっと待て!なんで、いきなり蹴られまくられなきゃならないんだ!?」

「お礼よ!!感謝しなさい!!」

 ……お礼?何言ってんだ、コイツ。全然話が噛み合っていない。聞き間違いか、俺の言い間違いか分からないが今後の対策の為、蹴られた理由は聞いておきたい。仕方ない、もう一度聞いてみるか。

「俺は完全に善意による行動だ!鼻からとんでもない勢いで血が出ていたから止めようとしたんだよ!蹴る事なんてないだろ!」

「だから……私も善意からの行動よ!お礼なんだから有り難く受け取りなさい!」

「嘘つけ!聞いた事ねぇよ!お礼で股間に膝蹴りするなんて!」

 コイツは本当にさっきから何を言っているんだ!?会話が全然噛み合ってない。お礼?あんなもんくらったら股間がいくつあっても足りない。ヒロインは、もっと自分の蹴りの威力を知るべきだ。

「……はぁ??あなた、本当に何も知らないのね。論より証拠よ。ちょっと待ってなさい。」

 ヒロインは後ろに隠し持っていたエロマンガを出すとパラパラめくり出した。状況が理解できず、呆気に取られていると、ヒロインは所定のページをめくったエロマンガを俺の前に出した。

「これよ!!」

 ヒロインが見せつけたエロマンガには――

「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」

 トランクス一丁の男が可愛い女の子達に蹴られる度に感謝しているエロマンガが描かれていた。

 しかも、センターカラーでだ。確か、カラーって人気作とか出版社がプッシュしている作品のはずだが……これが?

 いや、いや、いや、いや!

 ない!ない!ない!ない!

 エロマンガってこんなのなのか!!?

 俺が想像していたのと全っ然違う!

 俺はヒロインからエロマンガを奪いとり、ページをめくって、めくって、めくって……

 めくる度にトランクス一丁の男は殴られ、蹴られ、ダメージを負っていっているのが上手く表現されていた。まるでバトル漫画のようだ。

 ただ俺の普段読んでいるバトル漫画と違うのは、人質を取られたりしていないのに無抵抗で暴力を振らわれているのと……ダメージを負う度に感謝の意を示している事だ。

 結局、殴られては「ありがとうございます!」、蹴られては「ありがとうございます!」の流れは最後まで変わらず、最後はボロボロになりながら可愛い女の子達に土下座しながら「ありがとうございます!」と言って漫画は終わった。

 可愛い女の子達は服の一枚も脱ぐ事なく終わった。

 ……なんだこれ?

 エロマンガってこんなのなのか!!?

 俺が想像していたのと全っ然違う!

 俺の第一印象の感想と最後まで読んだあとの感想は全く同じだった。

 ったく、誰だよ!?こんな漫画描くのは!?

 なんで男の方はトランクス一丁で女の子は全然脱がないんだよっ!!しかも終始「ありがとうございます!」ばっかり言ってるし。これで成立しているのか?ホント、なんなんだコレ。

 はじめて読んだエロマンガは俺の想像の斜め上なのか斜め下とかではなく、コレジャナイだった。

 描いている作家を確認しようと漫画の最初に戻り、作家名を探すと当雑誌のエースという大層な肩書きの下にパンチラ戦士と記載されていた。

 ……パンチラ戦士……どこかで聞いたような……それによく見ると、この絵柄なんか見覚えが…………思い出した!!

 エロマンガの表紙を見ると、やはりそこにはパンチラ戦士と記載されていた。俺が今日こんな時間にエロマンガを回収する原因にもなった表紙の可愛い女の子。

 その可愛い女の子を描いたパンチラ戦士は雑誌の中で訳わからない漫画を描いていた。

 なんでだよ、パンチラ戦士。絵柄は凄く良いんだから、もっと普通のエロマンガで良いじゃん。こういうのじゃなくてさぁ。なんで殴って蹴って、ありがとうございますなんだよ!?

 俺は期待した物との落差に落胆した。


「いいわよね!パンチラ戦士先生!そんなに真剣に読むなんて、あなた分かってるじゃない!!」

 ……目を輝かせながらヒロインは訳わからない事を言い出した。


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