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親の顔が見てみたい?今貴方が跪いているのがわたしの親ですが。

作者: 言葉

※8/7 活動報告にこの作品のジャンル変更についてちょこっと記載しました。


ふいに思いついて書いてみたお話です。

勢いで書いたので、細かい描写が抜けてるやもしれませんが、スルーして頂けると有り難いですカタ((((꒪꒫꒪ ))))カタ


誤字報告ありがとうございます


婚約者候補たち可哀想!という感想を何件か頂いたので、本文には書いていない裏設定みたいなのを後書きに付け加えました。

あと、説明が足りない部分があったので2箇所ほど修正しました。


なにやらランキング上位に…っっΣ(ㅎωㅎ;)

感謝致しますー!


なんとか王宮前に集まっていたゴシップハイエナという名の貴族達から逃げる事に成功し、王都のタウンハウスに辿り着いたわたし達フィガロ家の面々は、憔悴しきった顔で全員リビングのソファに項垂れた。


「旦那様、奥様、いったい王宮で何があったのですか?」


そう問いかけるのは執事のセバスチャン。

久々に家族でお出かけよー!美味しいもの食べるわよー!とテンション高く王太子の誕生祭に行ったはずが、帰宅した彼らは何故か今にも死にそうな顔色。


「セバス…お茶を…いや、酒をくれ」


お父様がよろよろと片手だけ上げて指示をする。


「強いヤツで頼む」


ザルで酒に酔えない嫡男の兄様が注文を追加した。


「あれがいい、こないだ貰った蒸留酒」


遺跡オタクな次男の兄様がさらに追加。


「もう、片っ端から持ってきてちょうだい」


もはや酔えるなら何でも良くなっているお母様。


「くっ、わたしも飲みたいわ」


「お姉様とわたしはまだ飲めないのよね…」


嘆く姉妹。


そこに、産み月の為王宮に行かなかった嫡男の嫁の、クリスタお義姉様が来た。


お義姉様の視線の先には、死屍累々のようなリビング。


「い、いったい何があったというの…?」



-----------------------------



わたしの名前はルルーシュ。

父はフィガロ侯爵で、わたしは長女だ。

上に兄が二人いて、下に妹が一人いる。


フィガロ家は学者やら研究者やらを多く輩出していて、知識を好む気質の者が多く、父のジョゼフ・フィガロ侯爵は貴族学院の学院長をしており、次男のクルト兄様は遺跡調査やら、そこでたまに見つかる古代書の翻訳やら、兄様いわく、男のロマンみたいな仕事をしている。

長男のハインツ兄様は既に結婚し、父に代わって領地運営をしていて、お嫁さんのクリスタお義姉様は第一子懐妊中。

妹のユリアナは、最近よく聞く、ずるいですわお姉様!などと言うアホの子ではなく、母に似て可愛く、淑やかさもあり、素直な…目に入れても痛くない天使。

そして母のアイルーンは元侯爵令嬢で、過去にこの国の現王や他国の王家からも婚約を打診された程の美貌の持ち主だった。

母は多くの王子、皇子達の求婚を断り、父のジョゼフと恋愛結婚し、今も仲睦まじい。

そんな母は子供を四人産んで、もうすぐ35歳のはずなのだが、見た目で言えば20代前半でもいけそう。



そして肝心のわたしルルーシュは、外見は母に似た銀髪に父と同じ翡翠の瞳の美女なのに、中身は文学オタクな父に似てしまい、図書館こそ恋人、と宣う『残念令嬢』と呼ばれている。

そんなわたしは、ある日気づいたら王太子の婚約者候補になっていた。

いや、説明を受けて何やら学力やらマナーやらのテストを受けたらしいのだけど、早く家に帰って待ちに待っていた小説の続刊を読みたいあまりに、何のためのテストかとかを聞いていなかったのよ。

そしてどうやら合格してしまったらしい。

それが2年前。





そんなわたしは本日、家族と共に王宮の大広間で行われる王太子の誕生祭に来ていた。


わたしは未だに王太子妃になりたいとか、そういう願望は無い。

王太子妃教育は殊の外面白く、2年のうちに終えてしまった。

そのせいで、今でも候補に残ってしまっていた。

不覚である。


ルルーシュは社交界というか、貴族の腹の探り合い的なアレが苦手だ。

そんな所は母に似たらしく、母も滅多に社交界に出ない。

母が王家主催の催しに出ると、過去に母にベタ惚れしていた現王と嫌でも顔を合わせてしまうし、当時母に嫉妬していたご令嬢達の視線も痛い。

その中にはもちろん王妃様の視線も含む。

なので母は専ら、友人宅のこぢんまりしたパーティー等しか出ていなかった。

今日は久々の家族揃ってのパーティー参加という事で、わたしは珍しくウキウキしていた。

ルルーシュは社交界は嫌いだが、家族の事は大好きなのだ。

王太子に祝いの挨拶とプレゼントを渡した後は、母と妹と、女同士で仲良くパーティーを楽しむつもりでいた。


普通なら高位貴族から挨拶をするのが習わしだが、婚約者候補は優先される為、婚約者候補の中での爵位順で挨拶していく。


わたしは列に並ぼうと、玉座の方に足を進め…ようとした、のだが。


なぜか引き寄せられる様に歩いて来るのは、輝くブロンドに青い瞳の、件の王太子サルキア殿下。

彼はわたしが婚約者候補になった半年後から隣国に留学していたので、会うのは多分1年振り?

そもそも、婚約者候補になってからも数回しかお会いしていない。

つまり、よく知らない。

そんな王太子は立ち止まると、足元にすっと跪いた。


「美しいレディ、どうか私に貴女のお名前をお教え頂けないだろうか?」


そんな演劇の一幕が、突然目の前で展開された事に驚き、ルルーシュは扇で隠すのも忘れてポカンと口を開いてしまった。


たった今、輝くブロンドの貴公子に名前を尋ねられたのはわたし…




ではなく。



───── 隣にいた母だった。



あろう事かアイルーンお母様に跪いた王太子は、そのすぐ横に自分の婚約者候補がいる事も忘れ、中々名乗らない母にこれでもか!と愛の言葉を囁き…いや、叫びまくった。



「美しいレディ、どうか私に貴女のお名前をお教え頂けないだろうか?」


母アイルーンはピシリと固まり、名乗るべきかと迷った。

王太子である彼から普通に名前を聞かれれば、母もすんなりと答えただろうが、どう見ても普通ではない。

散々男性に追いかけられた末に社交界嫌いになった母にとって、このシチュエーションは中々酷だった。

ていうか、娘の婚約者候補に何を言われているのか、脳が理解するのを拒んでいる様だ。


「ああ、眉を下げても美しい!」


母が思わず視線をルルーシュに向ける。

母の目は、「この方王太子よね?そっくりさんとかじゃないわよね?」と訴えている。

ルルーシュは神妙に頷く。


「美しい女神よ、私以外を見ないでおくれ」


さらに母の瞳が「ルルーの婚約者候補よね!?」と訴えている。

ルルーシュはまた神妙に頷く。


「どうかこちらを見ておくれ、私の天使」


いい加減、お母様が泣きそうだ。

ルルーシュは助け舟を出す事にした。


「サルキア殿下、お久しゅうございます。留学お疲れ様でございました」


お誕生日おめでとうございます、と付け加えるか迷ったが、まだ自分の順番ではないし、それは後から言えばいいか、と無難な挨拶にした。


わたしの挨拶にサルキア殿下は、ようやくこちらに視線を向け、目力を強めて立ち上がった。

ブロンドのキラキラと光る髪を後ろに結び、濃いめの青の瞳。

一般的にはイケメンの部類なのだろうが、ルルーシュは特に好みではなかった。

特に目が怖い。目力怖い。


「どこの娘か知らんが、私に話しかけるなど不敬だぞ。いいか、私は今こちらの女神に話しかけているのだ。邪魔をするな。まったく、躾のなっていない娘だな、親の顔が見てみたいものだ」


殿下はフンっと鼻を鳴らし、再度隣の女神とやらに跪いた。


ええー…わたしの親はその女神ですけど。と言いかけたが、ちょっと驚きすぎて固まってしまった。


「私の女神、隣に居る失礼な娘は私の知らぬ者だ。気にしないでくれ」


ルルーシュが、蕩けそうな顔で母を見上げる殿下から母の顔に視線を移すと…、


わー、怒ってるぅ。


お母様は滅多に怒らないかわりに、怒るとめっちゃ怖いのだ。

今、お母様の背中に仄暗い炎が見えたわ。


そこでふと、いつの間にか鳴り止んでいた音楽のせいで、会場が静まり返っていることに気づいた。

周りの貴族達が、こちらに注目している。

その顔は男性は「あちゃー」という呆れ顔で、女性は青ざめ、「王太子が既婚者を口説いてる!?」と言ったところか。

婚約者候補の母親を口説くシーンなんて、演劇でも見た事ないものね。

わたしも皆様と共に見る側になりたかったわ。


ルルーシュは次に玉座に視線を向けた。

国王陛下は青を通り越して白い顔で固まっていた。

隣の王妃様は真っ赤な顔でプルプルと震えている。

王妃様からしたら、夫が懸想していた女に、息子までが懸想しているとかどういう事よ!?

という感じだろうか。

怒って当たり前だと思う。


わたしが現実逃避気味に色々考えている間も、隣で様々な愛の言葉らしき文句を垂れ流していた殿下に、お母様がようやく口を開いた。

ギャラリーと化していた周りも、お母様に注目する。


「王太子殿下」


次の愛の言葉を紡ごうとしていたサルキア殿下が、お母様の声にうっとりしながら「なんだろうか、私の女神」と微笑みかけた。


笑顔がちょっとキモ…こほん、この方笑えたのね。


「わたくし今日、娘の婚約者候補の方のお誕生日をお祝いしに来ましたの」


「おお!そうなのですね…ん?娘?」


「はい、この子がわたくしの自慢の愛娘ですわ」


お母様がわたしの手をそっと取って引き寄せた。


殿下の首が、ギギギと音を立てているかのようにわたしに向く。


「もう一度言いますわね。この子がわたくしのじ・ま・ん・の!愛娘のルルーシュ・フィガロですわ」


お母様がそう言ってニッコリと微笑む。

目が笑ってませんわ、お母様。


「…え?」


「親の顔が見たかったのですわよね?こんな顔でしてよ」


お母様が自分の顔を指さす。


「わたくしが、殿下が先程、躾のなっていない娘、と称した、ルルーシュの、親ですわ」


強調するように伝えるお母様の笑顔の凄みが増し、わたしの背中に冷や汗が流れました。

その凄みが効いていないのか、殿下が何かに気付いた顔をした。

ようやく理解したか?と思えば…


「なるほど、ご安心めされよ。私は貴女が寡婦でも問題ない。娘ごと幸せにすると約束しよう」


再び静まり返る会場。

いや、さっきめちゃくちゃわたしを馬鹿にしてた口で何を言ってるのかしら?


というかこの人、留学までして何を学んで来たのかしら?


と、わたしが遠い目になった所で、後ろから声がした。


「待たせたかな」


お父様登場だ。

同時にギャラリーが沸き立つ。

中には手に汗握る!みたいな顔の人もチラホラ。


お父様がお母様の横に立ち、腰を抱く。

途端に機嫌を悪くしたサルキア殿下が、めっちゃ機嫌悪そうに立ち上がった。


「誰だお前」


えー…、貴方も留学前に通った学院の学院長よ?


「王太子殿下、ご機嫌うるわしく。1年半の留学お疲れ様でございました。ところで『誰だ』などとご冗談を。セイズ学院の学院長を務めております、ジョセフ・フィガロです。お忘れですか?」


実はイケおじ学院長と有名なお父様の笑顔…怖いです。

ギャラリーの皆様も少し顔が引き攣ってますね。


「…っ!まて、今フィガロと言ったか?その娘と同じ…?」


「ええ、ルルーシュは私の愛娘です。そして彼女は私の最愛の妻ですが、何か」


お父様は意図してお母様の名前を呼ばなかった。

多分、サルキア殿下に最愛のお母様の名前を教えたくないのだろうと察する。

お父様はお母様を溺愛されてるものね。


「なんだとっ!?私の女神が既婚者…だと!?」


「殿下、先程から私の妻を『私の女神』呼ばわりされている上に、妻を寡婦と仰ってましたね?私は離婚した覚えも死んだ覚えもありませんが。あと、私の愛娘を婚約者候補にしておいて、知らぬ娘だの、躾のなっていない娘だのと仰っていたようですが…ご自分の婚約者候補の顔すらご存知ない方に言われたくありませんね」


お父様の正論に、ギャラリーで頷く方々がチラホラ。

流石に王太子だとしても、ありえないものね。

ルルーシュがそろそろかしら、と玉座に視線を向けると、ちょうど陛下が徐に立ち上がった所だった。

陛下はそのまま少し大きな声を発した。


「サルキア、こちらへ戻れ」


サルキア殿下はビクッと肩を揺らし、陛下を振り返った。

しかし王族席に戻る気配がない。


「ち、父上!お願いがございます!」


「戻れと言っている」


「フィガロ侯爵夫人を私の妃に…!」


叫びにも近いサルキア殿下の言葉の途中で、玉座の方から殿下に向かって何かがシュッと飛んできた。

ソレは殿下のおでこにスコーン!とクリーンヒットし、ポトリと落ちた。

それは、王妃様の扇子(鉄扇:攻撃力120)だった。


サルキア殿下は「グハッ」と喚き、倒れた。



その後、パーティーの主役が王妃様の攻撃により倒れたため、パーティーは中止になり、国王夫妻に呼ばれたフィガロ家の面々は、父、母、ハインツ、ルルーシュのみ応接室へ、クルトとユリアナは別室へと案内された。



「この度は愚息が申し訳なかった」


そう言って頭を下げた国王陛下に、お父様が慌てて頭を上げさせる。


陛下の隣に座る王妃様も、弱々しく「申し訳なかったわ」と謝罪を口にした。

学生時代からずっと母に嫉妬してきた王妃様も、流石に今回の事は謝罪が必要と理解しているようだ。


「以前から何度もお願いしていたことではありますが、やはり娘を殿下の婚約者候補から降ろさせていただきたいのですが」


あら、お父様…前から陛下に頼んでくれていたのね、知らなかったわ。

ていうか、前から不思議だったのよね。

どう考えても、王妃様が昔の恋敵の娘を息子と結婚させる訳がない。

それなのにわたしはなぜか婚約者候補のままだった。

どうやら陛下が無理やり残していたらしい。


「いや、しかし…」


「私も妻も、娘を王太子殿下の婚約者候補にさせるつもりはありませんでしたのに、娘を直接城へ呼んで試験を受けさせた事も、私達はまだ許しておりませんよ」


え、そうなの?

お父様もお母様も、知らなかったの?

そりゃぁ怒るわね…あ、シスコン気味のハインツ兄様からも怒りのオーラが出てるわ。


うん、これはないわー。


「そ、そのだな、ルルーシュ嬢も、サルキアの事を好いておったようだから、是非王太子妃になってもらいたかったのだ」


おい、国王、ちょっと待て。


「あの、宜しいでしょうか」


たまらず口を開いたわたしを、陛下が慈愛の篭った目で見つめる…何なのその目は!


「なんだね、ルルーシュ嬢。正式な婚約の事かな?」


「いえ、わたし、サルキア殿下には一切興味が無いので、婚約者候補を降ろしていただきたいです」


これで不敬と言われて処刑されようが、あのアホな殿下を好いているとかいう勘違いを正せるなら本望よ。


わたしの言葉を聞いた国王夫妻が目を見合わせてから、「「え?」」と口を揃えた。


「だから何度もお伝えしたじゃありませんか。娘は殿下を好いていない、と」


「え、だってサルキアは王太子よ?」


「そうでございますね。でも王太子妃の地位に興味は御座いません」


「顔もイケメンよ?」


「わたしはどちらかというと、ひょろっと細くて色白で、髪色は暗めの方が好みです」


「…」


えっ、褒めるの終わり?


「あの…そもそもですね、わたしが婚約者候補とされてから王太子殿下とお会いしたのは3回しか御座いません。それも二人きりとかではなく、他の婚約者候補の方々と一緒にお茶会に出たのみです。殿下が国内にいた頃はわたしの方からは誕生祭で贈り物を、留学されてからはそちらに贈り物を贈っておりましたが、わたしの誕生日には何も無く、手紙などももちろん御座いませんでした。わたしは王太子妃の地位に興味はなく、失礼ながらお顔も好みではない。どこに好きになる要素が?」


息継ぎも忘れて一気にそう言ったわたしを、国王夫妻がきょとんと見つめる。


「ま、まさかサルキアがルルーシュ嬢をそこまで蔑ろにしていたとは…」


我に返った陛下が、額に手を当てて首を振った。

隣の王妃様も知らなかったのか少し顔を青くしている。

だがしかし。

わたしにはまだ言わなければいけないことがある。


「いえ、わたしだけでなく、婚約者候補の誰一人として殿下からまともに扱われている方はおりませんが」


「「は?」」


またもや声が揃う国王夫妻。

お似合いなのね。


「え、ちょっと待って?誰一人?」


王妃様があからさまに狼狽えだし、テーブルに身を乗り出した。


「はい」


「そんな…それじゃああの子、結婚出来ないじゃない…」


この国の国王となるものは、学力やらマナーやらの、ルルーシュが最初に受けた試験で合格点を取った者の中から、王子が好ましい相手を選ぶ事になっている。

母アイルーンに振られた現王も、幾人もの婚約者候補から現王妃を選んだ。

(因みに母は試験を拒否し、婚約者候補ですらなかった)

国王夫妻からしたら、婚約者候補を揃えるまでが夫妻の仕事で、その後選ぶのはサルキアの一存のため、誰を選んだかの報告を待っている段階だった。

それなのに、先程の様子でも分かる通り、婚約者候補の顔すら覚えていないサルキアは、未来の妻を選定する以前の問題だったのだ。

おそらく婚約者候補の人数すら知らないと思う。


婚約者候補の間は他の方と縁があろうと婚約出来ないし、勉強やら公務やらに追われ、ルルーシュの様に殿下との結婚に興味がないご令嬢にとっては、いいことなし。

まぁルルーシュは城の図書館が自由に使えた事だけは感謝しているが。


それなのに…何の為の婚約者候補だったのやら、である。


「フィガロ侯爵、侯爵夫人、ルルーシュ嬢、本当に申し訳なかった。すぐにルルーシュ嬢を婚約者候補から外す手続きをしよう。フィガロ侯爵、もう遅い時間ではあるが、今済ませてしまっていいだろうか?」


陛下は出来るだけ早く済ませたいお父様の気持ちを察して下さったらしい。


「はい、大丈夫です。ありがとうございます、陛下」


「ありがとう存じます、陛下、王妃殿下」


お父様とお母様が頭を下げ、ハインツ兄様とわたしもお礼の言葉と共にそれに倣った。


「あの…アイルーン様」


手続きが終わり、立ち上がって扉に向かおうとしたわたし達の後ろから、王妃様が宿敵であるお母様に声をかけた。


「王妃殿下、なんでございましょう?」


「若い頃、みっともなく貴女に嫉妬して、ごめんなさい。貴女は別に陛下を籠絡しようだとか、そんな事考えてすらいなかったのは分かっていたのに」


どこか穏やかな雰囲気になった王妃がそう語ると、目をぱちくりさせていたお母様が、ふんわりと微笑んだ。


「気になさらないで下さいませ、王妃殿下。もう過去の事ですわ。それに、あの頃はわたくし、少し王妃殿下が羨ましかったのですよ」


「え?」


「嫉妬して頬を赤らめて、わたくしに迫る王妃殿下はとても可愛らしかったんですの。恋をされると、怒っていても可愛らしく、こんなにも輝けるものなのかと。その当時わたくしはまだジョセフと出会っておりませんでしたから…恋をされてる王妃殿下が羨ましかったのですわ」


「か、からかわないで下さいまし…」


お母様の告白のような言葉に、王妃様が頬を赤らめながらちらりと国王陛下を見た。

その視線を受けた陛下も、少し赤くなって頭をポリポリとかき、やがてお互いに微笑み合った。


お母様がわたしの耳にだけ聞こえる声で囁く。


「ね?可愛らしいでしょう?」


その瞬間の王妃様は、確かにただの恋する乙女そのもので、とても可愛い。

わたしはお母様に微笑んで、「はい、とても」と答えた。


ルルーシュはまだ恋を知らないし、さほど興味もないけれど、目の前の相思相愛の2つの夫婦を見ていると、結婚もいいかも?と少し思った。




そして帰宅し、冒頭の死屍累々のリビングが完成した。

産み月のお義姉様を驚かせたのは本当に申し訳なかった。


ここで終われば、少なくともフィガロ家の中では、仲睦まじい国王夫妻が見られた上に、お母様と王妃様の確執(?)も無くなり、ルルーシュの婚約もなくなり、酒でストレスと疲れを吹き飛ばし、あー良かったねぇで済んだのだが、現実はそこまで甘くなかった。

やはりゴシップハイエナからは逃げきれていなかった。

いや、そんな気はしておりましたけども。



翌日の新聞の見出し。


『サルキア王太子殿下、婚約者候補のフィガロ侯爵令嬢の御母堂、アイルーン夫人を口説く!』


その下にご丁寧に付いているサブタイトルは


『~国王陛下の叶わなかった初恋を引き継いだ王太子~』


わー、ないわー。

ていうかこの新聞社、王家に潰されないのかしら?


「ルルー、それ今日の?見せて…え゛っ」


ダイニングテーブルでクルト兄様と紅茶を飲んでいたルルーシュの頭上から、ハインツ兄様の手が伸びてきて、新聞を奪い去ろうとして…変な声が出た。

多分見出しが見えたのだ、デカいし。


「このサブタイトル…新聞社は大丈夫なのか?」


「ハインツ兄様も思う?わたしも真っ先にそれ思ったわ」


「俺も応接室で聞きたかったな〜」


普段遺跡にしか興味無いクルト兄様が、コーヒーに12杯目の砂糖を入れて呟いた。


「そこまで面白いわけじゃなかったぞ。ネタとしてなら会場で母上が、王太子が見下したルルーが娘ってバラした時のが面白かった」


「あー、あれねぇ、吹き出すの堪えるの大変だったよ〜」


クルト兄様が21杯目の砂糖を入れて笑う。

兄様、そろそろコーヒーから砂糖が見えそうよ。


「ハインツ兄様、クルト兄様、ルルーシュ姉様、おはようございます」


そこに、我が家の天使が起きてきた。


「「「おはよう、ユリアナ」」」


「何のお話をされてましたの?」


「皆で昨日の事が書かれた新聞を読んでいただけよ」


まだ6歳でわたし達とは年の離れた幼いユリアナには、今回の内容はよく理解出来ないだろうと考え、詳細を省いて伝えると、「見せてください」と言うので新聞を手渡した。


「ルルー姉様、これ、新聞社は大丈夫なのですか?」


6歳の妹は、予想外に聡かった。



その翌日の新聞の見出しとサブタイトル。


王太子殿下、アイルーン夫人にフラれた!?

~王太子、失恋により引きこもりか!?~


さらにその翌日の新聞の見出しとサブタイトル。


王太子殿下の婚約者候補、全員辞退!

~王太子殿下、王太子の地位も危ぶまれる!~



「ねぇルルー姉様、わたしこの新聞社好きですわ」


「あら、ユリアナ。わたしもそう思った所よ」



結局、国内の婚約者候補は王家からアクションを起こす前に全員辞退したらしく、今は国外で探しているのだとか。

第二王子にはとっくに婚約者が居るため、新聞社の予想通り王太子の変更もありえるらしい。

がんばれサルキア殿下。



それから1年後、「恋するより読書」だったルルーシュは、例の新聞社の会長をしていた伯爵家の嫡男とあっさり恋に落ち、颯爽と婚約して、1年後、結婚した。


因みにサルキア殿下は未だに婚約者候補すらいない。



作品内で細かい設定や正確な婚約者候補の人数はのせてませんが、最初の試験で15人程に決まり、王子はここから既に選定出来る事になってます。

その後も令嬢の王太子妃教育の進み具合によって減ってゆき(本人が無理だと辞退するのも含め)最終的に3~5人になります。

王子が気に入っていた子が、本人からの辞退や、脱落の烙印を押された場合、勉強の進み具合を加味した話し合いを行い、残る場合も、そのまま辞める場合もあります。


サルキアがアイルーンにやらかした時点ではルルーシュ含め5人くらい居たと、ふんわりと設定してます。

サルキアが婚約者候補を全く相手にしていなかったのは、婚約者候補の中では当たり前な事だったので、娘が行き遅れになる事を心配した親等は早々に辞退しました。


王家より臣下である貴族のが賢かったかもしれない。



おそらくユリアナは、将来例の新聞社に就職する。



お読み頂いてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 特定の令嬢じゃなくて、令嬢皆をないがしろにしてたということは、この王子はうんと年上のママのオッパイを求めるバブちゃんだったのでは…? そらそんなおむつ取れない性癖の王子、次の国王になんかで…
[一言]  褒め言葉として、面倒くさくない軽めの展開が心地よいです。
[良い点] ・斬新な切り口(知りうる限り新しいパターン) ・兄弟仲が良く、大変宜しい(平和な家庭) ・この新聞社・・・・強気過ぎでは?(笑) [気になる点] 聡過ぎる6歳の妹ちゃんの今後も楽しそう。 …
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