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夢日記の続き

作者: タニシ

彼は迷っていた。プロ野球の世界の片隅にしがみついてもう一年過ごすことに。

二軍落ちして七年が過ぎていた。もっとも一軍にいたのはほんのわずかな期間だったが。

ビールを片手に最近覚えたパソコンを立ち上げた。たいして更新もしていない自分のブログをのぞいてみた。書き込みがあった。

「僕は高校の野球部に入っています。どうしたらレギュラーになれるのでしょうか」

頭の中は自分の去就の事で満たされ、同時にかつて自分も野球少年だった頃を思い出しながら返答した。

「練習あるのみ。人より上手くなる為には人より多く練習することだ。頑張れ!」

自分は誰よりも練習をしてきた。そう自負していた。中学の野球部に入部してから、毎朝何キロものランニングをして毎晩何千回も素振りをした。さして才能があるとは思っていなかったからレギュラーになるために誰よりも練習してきた。野球の名門高校に入ってからはさらにきつい練習メニューを自分自身に課してきた。

高校三年生の時、今のチームにドラフトで三番目に指名されるとすぐに一軍の出場の機会が与えられた。しかしたいした成績を残せないまま二軍落ちした。二軍ではそこそこの成績ではあるが、一軍からお呼びがかかる事はなかった。同じポジションにスター選手が移籍してきてからは、さらに復帰する事はむずかしくなっていた。

 次の日、ブログの少年から反応があった。

「練習はどんな練習をどの位すればいいのですか」

「毎朝5キロのジョギング。毎晩、素振りを千回。腹筋を500回、腕立て伏せを500回」

ビールを片手に自分が高校生の頃こなしてきた練習メニューを返答した。そして無駄な脂肪が付き始めた自分の腹をさすりながら口端をゆがめていた。

決められた練習メニューのみをこなし、時間を浪費している自分。練習後、帰宅後、そして風呂上がりに手にするビールは決められた約束事のように胃に流し込んでいるだけだ。

 プロ野球選手になるという夢はかなった。その夢は完結してしまったのだろうか。その夢の続きはなかっただろうか。

高校生の頃の記憶の日記を開いてみる。その記憶の日記には野球以外の事は何も書かれていなかった。練習に明け暮れた日々、辛い練習こそプロ野球選手になる自分に課せられた使命だと思っていた。何の疑問も持っていなかった。

 心の奥にある記憶の日記を読み返した彼は、今の二軍で野球を続ける事を選ばなかった。野球を辞める選択もしなかった。夢の日記の続きを書く事を選んだ。

 翌早朝、朝もやのかかる二軍グランド。一軍とは比べ物にならない荒れたグランド。ペンキの剥げたベンチ。芝の部分には雑草がかなり混じっている。バックネットは所々ほころんで穴が開いていた。

遠く外野フェンスの近くにサウナスーツを着込んでランニングしている彼の姿があった。だぶついた肉体はとても重そうで、とてもプロのスポーツ選手とは思えない。

しかしその眼はかつてプロ野球選手を目指していたの頃のようにキラキラしていた。


良い、悪いだけでも批評してくれると幸いです。

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