晴れたり、曇ったり
「はい、反省会やりまーす」
「反省してまーす」
「してない! こいつ絶対反省してない!」
宿の1部屋で食事をとりながら、いまいち緊張感に欠ける3人がいた。
それでもふと、セスが真顔で言った。
「あのさあ、あのプレート、シャムが持っててくれないか?」
「お墓に返す気になったの?」
「違うって! いや、出所はそこかもしれないけど…」
「冗談よ」
冗談じゃなかったらとっくに下水路でネズミの餌になっている筈だ。
「持っててほしいんだ。その……俺にもしものことがあったら」
「一緒に埋めて欲しい?」
「要らねえよ! ただ、うちのギルドマスターの手に戻らなかったらそれでいい」
シャムはため息を一つついて言った。
「アンタは時々妙にウェットになるのねえ」
「俺が?」
「だってそうじゃない、夕べとか」
「え、ラ、ランスお前!」
ランスが激しく首を振る。言ってない言ってない!
「聞こえてたの! あたし隣の部屋にいたんだもの。この大耳は伊達じゃないのよ」
「カラ元気はいいけど、いい加減、生きていたいのか死んでもいいのかハッキリしなさいよ。でないと側にいる方はバカみたいじゃない」
首に巻いたレザーをいじりながら、少し考えこむセス。
「……そこは若干お互い様だと思うけど」
「はあ?」
「じゃあ何で俺なんかについて来ちゃったの」
「危険だって知らなかったなんて言わせないよ?」
「それはアンタがプレートを……」
「やっぱそう思うよなあ!」
ベッドに倒れこみながら、セスが大声で遮った。
「あれを手に入れた時から、やってやったぜ!って気持ちと手放して楽になりたい気持ちがずーっと離れなかったんだ。だからナンパした娘にやっちゃっていいと思ってたし」
シャムともランスとも、目を合わせずにセスが続ける。
「さっき死にかけた時、自分もびっくりした。あぁ俺、意外に生き延びたいと思ってたんだなあって」
「ごめんな」
ベッドの毛布に顔を埋めながら、最後に呟いた。
無言でセスを引き起こして、シャムはその顔を見る。そこには、いつものヘラヘラした笑顔があった。
「殴りたいわあ……ランスもそう思わない?」
ランスも迷わずうなずいた。
こんな風に誰かとしゃべったことなんかなかったな。いや、今回も会話には入り損ねたけど。この雰囲気は悪くない、とランスは思った。1人命を狙われてさえいなければ。
***
ドンドンドン!
次の朝早く、シャムの部屋のドアが叩かれる。
「何!? うるさい! 朝っぱらから何事よ?」
「セ、セスがいない……」
「はぁ?」
「俺がどうかしたか?」
2人の間から、ヌッとセスが顔を出した。
「わあっ! お、お前また1人でフラフラと……!」
「朝飯食う? パンでいい?」
3人分の、焼き立てのパンとミルクの瓶を手にしている。
「交代で寝ずの番してたんじゃなかったの?」
「だって俺が目ェ覚ましたらこいつ寝てたんだぜ?」
「疲れてたんだよ!」
実際、昨日のことはランスには負荷が高すぎた。ノミの心臓なのだ。
「鑑定士?」
「うん、あれが何なのか知りたいじゃん。だからバザーにそういう手合いが来てないか、宿の人に訊いてきた」
「いたのか?」
「それらしいのはね」
「だ、だけど信用できるものかどうか……」
「バザー主催の許可取ってるつうから、ある程度の信用はあるでしょ」
「けどお前、今日も無闇に出歩いたりしたら……」
「あのさあ、俺らって今、ランスが思うほど危険じゃないと思うんだよね」
「昨日のアイツね、ギルドマスター直属の仕事が専門なんだわ」
「なんでそんな大物がお前ごときに……」
「そう、俺ごときにアイツが来なくてもいいんだよ。カタールが来たのは、別の意味で意外だったけどそれとは全然別の話で」
「確実に殺したかった?」
「それならあんな大物じゃなくていい」
少し苦笑いしながらセスが続ける。
「プレートを取り戻したかったんだよ、確実に、そして何より秘密裏に。他の街のギルドにだって漏れないように」
「そうか、ここのギルドに情報が渡ってれば、来た途端に捕まってるよな」
「ツラに泥塗られたことになるからね、アンタのボスとしては。それを隠したいとか、あるいは――」
「独り占めしたかった」
「てことで、この際こっちがそれをかすめ取ろうと思います! 行くぜ鑑定!」
あーあ、昨日ちょっと曇ってたやつが今日はこうだ。カラ元気も元気か。っていうかずっと晴れた顔だけ見せながら生きてたんだろうなーとシャムは思う。
「でもお前、別の殺し屋が来たりしないか?」
「来ないわよ。セスが昨日のアイツを返り討ちにできると思う?」
激しく首を振るランス。
「ギルドだってそう思ってるわよ。確かに今のうちだわね」
***
それは、バザーの開かれている広場の隅にあった。商品を並べて見せているほかの業者と違って、黒いテントで覆われている。その入り口には、数人の客が並んでいた。
目立たないように会話も控えて列に並び、小1時間ほどの時間が過ぎると3人の順番がやってきた。
テントに入ると、黒髪を肩で切りそろえた若い女が一人座っている。美人といってもいい容姿だが、その目つきは妙に鋭い。
その女が、セスを見て口を開いた。
「あら? 不思議ね……盗賊ギルドであなたの顔、見たことあるわ」