たしかな偶然
白い光は、カタールの更に背後から放たれていた。
ド、という音でカタールの体が傾ぎ、その手に集まっていた光は霧散していく。
「抵抗するなよ……今度は手加減しない」
カタールの後方にいたのは一人のハーフエルフ。衝撃波の魔法を飛ばしたらしい。セリフは勇ましいが声が震えている。
どうやら3対1になっている不利を悟り、カタールは素早く森の中に姿を消す。チラリとセスの方を見たような気がした。
セスは何とも言えない表情で、もう誰の姿も見えなくなった森をしばらく見ていた。
***
「ありがと。さっきのお店にいた人ね。あららら」
ランスは緊張感に耐えられず座り込んでしまっていた。それを見たシャムは得心したように、
「もしかして人間相手に攻撃するの、初めて?」
図星です、と表情が語っているランス。そういえばさっきの攻撃も、傷つけるような威力のものではなかったように見えた。軽く微笑んでいるシャムを見て、ああ、これは相当人生の先輩だな、とセスは思った。
ふと、思い出したようにランスがシャムに尋ねる。
「な、なああんた。さっき聞こえたんだけど、魔法使ったこと……ないっていうのは……」
「そうよ。アンタだって剣で戦うことはできないでしょ」
はぐらかす気もなくキッパリ言われる。自分が見たかった「エルフ」ではない気がする、けれど。
「ええと……なんていうか、助けてくれてサンキュー。俺はセス」
「あたしはシャム。別に助けたわけじゃないのよ? 墓荒らしがアンタだったら直接あたしが殺すつもりだったから」
悪い笑顔でシャムが言う。どうにも、敵わない気がする。
「ち、違うって! あれは俺がギルドから持ち出した物で……、あ、そうだ、元々はどっかの金持ちから巻き上げたって」
「――そうなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。それを確かめるために、ちょっと付き合ってもらおうかしら」
「その墓へ行くのか?」
「もしかしたら同じものがいくつかあるのかも、と思って。その辺の道具屋じゃわかんないんじゃないの?」
足の手当てをしながら何やら盛り上がってる二人を見ながら、ランスは一人猜疑心に囚われていた。あれってそんな大層な代物なのか? 結局ガラクタで、ガッカリするんじゃないのか?
自分には、あの小さなプレートから拓けていく世界が見えない。
「とりあえず、飯でも食いながら相談しない? あんた名前は?」
ポン、とセスがランスの肩を叩いた。
え? 俺もか!?
「ランスだ。……俺は一緒に行くとは言っていない」
「それも含めて決めようや。あ、ランスはまず俺らの荷物回収して来てくれる?」
「俺がか?」
「いやー、さすがにあたしらあの店に戻れないもの。お願いね」
「――まあ、いいけど…」
「今度の店はアンタの奢りね、セス」
「しゃあねえな。んじゃ、隣町の宿場で待ってるから」
***
「よっ、お帰り」
「お疲れー」
軽く指定された隣町の宿場で、セスとシャムはすでに食事の真っ最中だった。
二人がいる場所がある程度わかる魔法を使っておいてよかった。さっきの森でも役に立ったが、なんてアバウトな連中なんだ。
大体、お帰り、などと言われる筋合いはない気がする。考えつつランスは荷物をテーブルに乗せる。
「もうあの店にはこれしかなかった。あとは知らん」
「ん、1個足んねえけど別にいいや、金は持ってるし」
「――礼は?」
「ありがと。じゃなくて、お金取るワケ?」
「組むなんて言った覚えはない」
一応、釘は刺してみる。
「そーいうのはね、初めに言っとかないと無効よ」
どうにもペースに乗せられそうだ。この出会いの良し悪しを判断するのは、まだランスにはできなかった。
「で? これから一体どうするつもりだ?」
「おやあ? 気になっちゃう? 一緒に来ちゃう?」
「それを訊いてから決めるんだ!」
イジメだ。セスは思った。人生の先輩怖いなー。歳聞いたら殺されるかな。
「ええと、西の端にボルトーノって港街があるんだ。そこに“古書館”みたいなのがあるんだってさ。そこに行けば何かわかるんじゃないかな、と」
「ここからだとかなり遠いな」
「そんなとこまで行く余裕あるの?」
セスは少し黙ってから、ポツリと呟いた。
「どうせこの国から出る前に、顔見せとく必要があるだろうしな…」
「必要? それは危険を冒してまでか?」
ランスが身を乗り出すと、シャムが止める。
「いいじゃない」
「――ああ、“仲間じゃない”からな」
「そういうこと」
あまりツッコむと、そのまま仲間入り、か。一応、気を遣ってるのか。
「それにしても、ちょーっと遠いわね。これじゃアンタ命がいくつあっても足りないわねえ」
一つの町で1回死ぬとして、5、6、7回……とシャムが縁起でもない計算を始める。苦笑いでセスが答える。
「生憎1つしか持ってないんでねぇ。できるだけ近道するさ」
と、セスが地図を指でなぞる。それは海沿いの整備された街道ではなく、山を通るルートだった。
「山越えの商隊がいるだろ。護衛の不足してるヤツがさ」
「護衛かあ……あんまりいい思い出ないわねえ」
シャムもランスも、少々苦い表情をした。
剣しか使わないエルフ。
そもそも存在を軽くみられる上に、荒事に慣れていないハーフエルフ。
一般的には事故物件だろう。
腕を組んでセスは少し考えた。なんとかうまく使えればいいんだが……。
「ちょっとそこは考える。シャム、あんたの剣の腕、さっき見損ねたけど堪能させてくれるんだよな」
「そんなに信用しちゃっていいのー?」
からかうようにシャムは言うが、セスは真面目に答えた。
「あんた自身は信用してるんだろ?」
あら驚いた。ちょっとは人を見る目があるのかしら。
そんなやり取りを見ながら、ランスは席を立つ。
「一晩考えてくれや。また明日な」
平日は更新できないかもなので、なるべく投げてしまいます。
まだパーティ組めてない件。