今すぐ君をぶっとばせ
カタールから光が放たれるのと同時に、セスはテーブルの上の皿の山を投げつける。皿の山は砕け散り、白い粉塵が視界を悪くする。店内に悲鳴が上がり、その場にいた大半は我先に逃げ出し始めていた。
「随分な挨拶じゃねえかカタール。まさかお前が刺客で来ると……」
言い終わるか終わらないかの瞬間、セスの背後にあったランタンが弾け、中から小さな炎の竜が現れる。素早くテーブルを倒してその陰に隠れながら、
「いやちょっと話を聞け!」
と叫ぶが、炎の竜はテーブルへの体当たりを止めない。そこそこ天板の厚い樫のテーブルだが、直に破壊されるだろう。
「ありゃー、精霊使いかあれは…」
被害の及ばない場所に移動したシャムが呟く。
店内に残っているのは数人。カウンターの中からも人が消えていた。ということは…
タイミングを計りテーブルから転がり出て、その勢いでカウンターを跳び越す。その奥には従業員用の出入り口があり、セスはそこから脱出を試みる。
その前に、チラリとカタールを見た。どういう気持ちで見ていいかわからないまま。
「あ……ちょっと待てコラ!」
何故かシャムも、カウンターを飛び越えて追いかけていく。
店の奥、柱の陰に隠れていたランスはようやく目を開けた。何が起こった?
黒髪の男と美人局の諍い。
らしからぬ怪力で大男を投げ飛ばしたエルフ。
突然現れた褐色の男。精霊魔法で黒髪の男を狙って……もうここにはいない。スイングドアだけが揺れていた。
冒険者の集まる店っていつもこんな危険な場所なのか? やっぱり村を出るべきじゃなかったのか。でも、エルフがいた。
あの男の持ち物に引っかかりを感じていたんだろうが、それにしても追いかけていくほどのことか?
自分は……どうする? 拘っていいことなんか一つもなさそうだ。けど、何もしなかったらいつもの「半端者」扱いがずっと続くような気がした。
意を決したように、ランスは店を走り出た。
***
「ちょっと!」「アンタ命を狙われてる訳?」「何したのよ!?」
「ああ」「盗賊ギルドを」「抜けてきたんでな」
店の裏手に広がる森の道を、全力で走りながら二人は会話していた。セスは走りには自信がある方だが、シャムは同じスピードでついてくる。さすがエルフ、という所だが……。
「はぁ?」「そりゃ狙われるわ」「バカじゃないの?」
いやなんでついてくるの? バカじゃないの? セスも思う。
「こっちにも理由があんだよ!」
理由。そこまでの理由だったか? 確かにギルドマスターには恨みがある。最近、偶然知ってしまった恨みだ。でも、衝動的にアレを盗むのは今じゃなきゃいけなかったか? もうちょっと根回しして、カタールともちゃんと話して……
突然、光の矢のようなものが足元にひらめき、セスはもんどりうって倒れた。
「くっそ……本気かよ…」
少し離れた後方に、カタールが静かに立っていた。
離れているとはいえ、十分魔法の攻撃範囲だ。
と、セスの前にシャムが静かに歩み出て、腰のブロードソードを抜き放つ。
「剣? え? 魔法じゃなくて?」
カタールから視線は外さず、しかし眉根を寄せてシャムは言った。
「いっつもそう言われるんだけど、でもあたしは魔法なんか一句だって知らなくてね!」
「ええ!?」
カタールに向けて疾風のように駆けだす。
「こ…」
セスが何か言ったようだが聞こえない。集中して、さっき見た精霊魔法の強さなら剣で対処できる。カタールも手に光を集めている。あっちを狙っているのかもしれないが、それならそれで好都合。ああ、聞きたいことがあるから死なれちゃマズいか。
シャムとカタール、二人が接近した瞬間、白い光が閃いた。