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FAMILIAR SIGHT ~三下シーフ、翔んでみせろ~  作者: のうき
■ドリカ村にて~墓標からのリスタート■
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お前が心配だ

 ドリカの村外れ、森の中を3人は歩いていた。村人も薪を取ったり、木の実を獲ったりする場所なので整備、とまではいかないがそれなりの道がついている。


 道中、セスは今までのことをぽつりぽつりと話し出した。


 ノルトの前でも話した、双子で生まれた時のことと、母親を失ったこと。

 それから父親と2人で、色々な商隊に加わって旅したこと。

 エルフやハーフエルフとも、数えるほどではあったが旅の中で会ったこと。

 10歳の時、父親が盗賊ギルドの男に騙され、ほぼ全財産を()られたこと。

 気落ちした父親は病に倒れ、セス1人では医者にかかる金が出せなかったこと。


 ある日いなくなった父親が、森の中で発見されたこと。


「生きてなかったけどな」


 ちょうどそこまで語り終える頃、森の外れにある小さな水場の淵にある、見落としそうな大きさの苔むした石――岩、というには小さすぎた、その前に3人は立っていた。


 商隊の食糧庫から拝借してきた葡萄酒をその石に注ぎ、セスは目を閉じる。

 シャムとランスもそれに倣う。


「酒も本当はあんまり飲まなかった。真面目なおっさんだったよ、俺と違って」



「そういや親父にも言ってなかったなあ」

と、セスは話の続きを始めた。




 村人はセスを不憫には思ったが、父親の死に方はこの村では縁起が悪いものとされ、その距離は徐々にひらいていった。セスも無闇に同情されるのを嫌い、ある日訪れた商隊に紛れて村を出て行った。

 やり方は不法侵入であったが、商隊のやり方は大体知っていたので、しばらくは“便利な子供(ガキ)”として同行させてもらった。だがそれも長く続かず、ある街にたどり着いたときにセスは商隊を離れた。


「親父とやってたことを、1人でやってることにどうも違和感があってなー」


 行く当てもなく、スラムのような場所で更にいろいろな人種と出会った。明らかに人間でない者や、人間以外の、何と混ざっているのかわからないような者もいた。彼らと取引して、頼まれたものを盗んできた。あまり器用でなく、スリは教えられても苦手だったが何しろ逃げ足が速かったのだ。その場所でちょっとした位置を確保できたと思っていたら、盗賊(シーフ)ギルドに捕まった。


「勝手に商売(盗み)したら、ギルドに目ェつけられるとか教えてくんなかったんだぜ? 子供(ガキ)だからってひでえ奴らだよなあ」

 苦笑いしながら続ける。

「そん時にやっぱりこの足が役に立ってさ。使えそうだからって置いてもらった。あと山ん中とか詳しかったからフィールドワーク専門。潜入とかスリとかは向いてねえってすぐ言われた」


 残った葡萄酒を呑みながら、少し饒舌になっている自分を感じていた。


「で、なんだかんだで10年ちょっと……? も、あそこにいたのか。カタールと組んだのは最後の1年くらいかな」


 そして最近、ギルドマスターが妙に浮かれていた、とカタールに聞いた。正確には、精霊がそう言っていたらしい。へえ、としか思わなかったが、ある日暇そうにしていたら帳簿の整理に駆り出された。滅多なことでは入れない部屋で、律儀に帳簿なんかつけてんだなあ、と思いつつ昔の帳簿を処分していたら……


「親父の記録があったんだよなあ」


 ギルドの話をし始めてから、セスはずっといつもの感じでヘラヘラしていた。が、この言葉を吐いたときは見たことないような笑顔だった。堪えられずにヒャヒャヒャ、と下品に笑いながら、




「俺は親父を殺した男の下で10年働いてたんだわ」




 偶然、盗賊ギルドに転がり込んで、

 偶然、父親の仇を発見する。


「そんで偶然、マスターんとこの金庫が閉まってなかったんだよなあ。もう後はなーんにも考えてなかった。持ってきちゃった。こいつ」




 プレートを取り出して笑い続けるセスの後ろで、シャムもランスも背筋が寒くなっていた。“惹きつけられる”というけれど、これは流石に運命とか言ってる場合じゃない。自分自身の意思に疑問を感じても仕方がない。狂ってしまっているのではないかとさえ思った。


 絞り出すようにシャムが言う。


「捨ててもいいのよ、そんなもの」

「お前の両親の形見かもしれないんだぜ?」

「いいよ、それでも」


「いや、もうハラは括ってるんだ、俺も。多分なんだけど、お前ら2人はこいつに“呼ばれてる”。でも、俺は、俺だけはただ、運ばされてる。でもそんな役割は御免だし、どこからどこまでが自分の意思かとか、すげえ考えたけどもうやめた。俺は、これを集めたら何が手に入るか見てみたい」


 そして、笑いを収めた顔で、改めてシャムとランスに向かった。




「お前ら、俺に協力……じゃねえな、“利用”されて欲しい。普通(フツー)じゃない種族として、俺に利用されて欲しい」




 これはけじめだ。何も考えずに“普通”扱いしてきた2人への、けじめだ。




「こっちも利用させてもらう」

 ランスが最初に口を開いた。

「俺も確かめたいことがある。だから、お前を利用して、そこに一緒に行ってもらう」


「とっくに利用してるもの、今更だわ」

 シャムはにやりと笑っている。

「初めて全員の意見が合ったわねえ」



 目が合わせらんねえなあ。セスは流石に恥ずかしかった。酒の力を借りて喋りすぎた、けど、これがちゃんとした、一緒に行動するパーティってものなのかもしれない。カタールともこうしておけばよかったし、今度会えたらふん縛ってでもそうしよう。

 でも、あいつ喋んねえからなあ。まあ、あっちの事情は話したくなってからでいいし。




 その時、耳が効いたことのある音をとらえた。昨日の夜襲の始まりを告げた、木の実を踏む音。俺たち以外に誰かいる。


「危ない!」


 危険を知らせる声は3人の誰のものだったろうか。森の奥から魔法と思しき光が閃いた時、シャムとランスがセスの前に躍り出た。


 森の中に、黒い影が動いた気がする。耳の長い、黒い人影。そこから白い光が次々と飛んで、3人に襲い掛かる。視界が真っ白になり、そして――。

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