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FAMILIAR SIGHT ~三下シーフ、翔んでみせろ~  作者: のうき
■山越え商隊~夜襲■
16/33

おかしな2人

 俺は何故、この男と一緒にいるんだろう。

 ランスは自問していた。この男、とはセスのことではなく、戦士のマルコだ。

 朝、ばったり会った時、人探しを頼まれてしまった。商隊の中には家族連れの者もおり、その中の女の子が1人いなくなっているそうだ。早く出発するための準備に人が割かれていて、ハーフエルフの手も借りたい状態らしい。


「き、昨日みたいな魔法でパパパっと見つけちゃってくれよ!」

「“ハーフの魔法なんて効きゃしない”んじゃなかったか?」


 思わず悪態をついてしまい、ランスは少し自分に辟易した。ここのところ絡み甲斐のあるのとツルんでる弊害だ。

 マルコは何か言い返そうとしたが、それは一瞬のことで、振り切るように必死な顔になった。


「あんたの魔法でオレが助かったのは、わかってる。助かったと思ってる……だから……また助けて欲しいんだ」


 ランスは迷った。しかし世話焼きの根っこが邪魔をする。

「――わかった。でも、いなくなる前にかけないと位置魔法は意味がないんだ。だからその子の年恰好、特徴、持ち物とか教えてくれ」

「それじゃ普通に探すのと変わりないじゃないか」

「だから、“普通に”探す手伝いはできる」


 意外な答えが返ってきたような顔をされた。そんな妙な事、言ってないぞ?


「ええと、5歳の女の子だ。髪は肩くらいまでで栗色、上で2つ結ってる。緑色のワンピースを着てる。――普通に探す、って、普通にか?」

「それ以外に何かあるか?」

「普通って、俺たちと同じ普通か?」


 バカにはされてないと思うが、珍獣扱いに変わった気はする。


 にしても、この時間に迷子か。まだ朝も早いし、遠くへ行ったとも思えない。すぐ見つかるんじゃ――

 ――あ!

 昨日セスが見たという、ダークエルフらしき存在が頭をよぎった。あいつに連れ去られていたとしたら。俺たちだけでは到底相手できない。いや、もしかしたら既に…

 そう思えば思うほど、悪い方への考えが止まらない。自然に、手が意味のないところばかりを探してしまう。


「おいおいおいおいおい」

「え?」

「そんな小石の下にいるかよ! ダンゴムシ探してるんじゃないだぞ! もっとちゃんと可能性のある所探せよ!」

 その通りである。

「……そういう所を最初に探していなかったら、そのあと探す気持ちがなくならないか?」

 ネガティブここに極まれり。

「それに他にも探してるやつらがいるんだろう? それなのに見つからないってことは」

「おいおい、あんたさあ!」

 マルコが激しくランスに突っ込んだ。


「どうして思い込みだけでモノを言うんだよ! 自分の目で見て判断しなきゃダメだろ!?」


 もっともだ。

 もっともだが……それをお前が言うか!?

 ランスはその言葉を飲み込んだ。マルコがその後、こちらを見ずに呟いたのが聞こえたからだ。


「オレにだって! 最近ソレがわかったんだからな!」




 思えば、長いこと期待通りになったことなんてなかった。繰り返す同じような日々から一歩踏み出してみたけど、それも自分の意志だったか怪しくなってる。あのありふれたプレートが、俺たちを集めてるとバザーの女は言っていた。あんなもの、どこにでもあるものだと切りすてていたのに……どこにでも?


「やっぱりそうだ……」


「どうした? 見つけたか?」

「あ、いやそうじゃなくて、別のことを考えてて」

「ンだよ、マジメにやってくれよな」


「? ちょっと待て、声が。声がしないか?」


 小さな子供の、両親を呼ぶ泣き声が聞こえた。


「あ!」


 ランスとマルコ、初めて2人が目を合わせて明るい顔をした。



***



 商隊は出立の準備をしている。一部でトラブルが起こっている様子がうかがえるが、今は首を突っ込む気になれず、セスはただ積み荷を運んでいた。


「おい、大丈夫か? 顔色悪いぞ」

 同じく準備の手伝いをしていた、ノルティが声をかけてきた。

「あ、いや、大丈夫。やられた商隊の残骸とか見ちゃったからさ」

「もうすぐ村に着くから、そこから生き残りの捜索隊とか出るかもな。お前らも行くか?」

「他に目的があるんで、俺たちは参加しないと思う」


「そっか。――昨日は、その、なんだ……悪かったな。お前さんのツレにさ」

「ああ、まあ、それは……」



 仕方ない、って言おうとしたかな、俺。

 どうやら、こいつらも変わろうとしてるのにな。



「お前さんはすごいな」

「何が?」

「あの連中……いや、あの人らと普通につきあえンのはすごいよ」


 それは多分、親父や、自分のいた商隊の考えだったからだ。

 俺はそこから一歩も動いてない。


「俺にはやっぱ、何考えてるのかわかんないようにしか見えなくてよ」

「俺だって別にわかってねえよ」


「あの人らさあ、何考えてんだろうな」

「あいつらさあ、何考えてんだろうな」


「お前さん、どう思う?」

「おまえ、どう思う?」


「……自分で考えろよ」

「……自分で考えろよ」


 ほぼユニゾン状態で、2人呟いた。同じあきれ顔で目を合わせる。



「そうだな、自分で考えるわ」



 ふと、カタールと組んだ時のことを思い出した。



***



「すげえな、精霊使いなんだってな」

 いつも一人、ギルドの寄り合い部屋の隅で何かを読んでいたカタールに話しかける。ちょうど、よく組んでいたシーフが配置転換になっていたところだった。


「今フリーか? もしそうなら一緒に仕事しねえ?」


「いいのか?」

「何が?」

「俺で」

「だから誘ってんじゃん」

「じゃあ」


 あの時、まっすぐにカタールは俺の目を見ていた。



「お前は、急に、いなくならないか?」



 人を寄せ付けない雰囲気だった褐色の男が、その時だけ、捨てられた子供のように見えた。



***



 商隊の一部で、わあっという歓声が上がった。


 歓声に惹かれて、野次馬的に人が集まってくる。セスやノルティ、シャムもその中にいた。人垣の中央には、気を失っている男を背負い、得意げな顔マルコと、泣きじゃくる小さな少女を抱いて困惑気味のランスがいた。


「朝からいなくなってた女の子が見つかったんだってよ」


 男は簡易ベッドに寝かせられ、少女は泣きじゃくりながら両親の元に返された。ランスから少女を受け取った両親はその手を取り、ありがとう、ありがとうと何度もお礼を言う。あまりに不慣れな状況にランスはお礼をなんとかいなし、セスとシャムがいるところに戻って来た。



 少女は夜襲の緊張感から眠れず、明るくなると同時にテントを抜け出たらしい。静かになっていたので危険なことは終わったんだと、少し遠出をしてしまい、そこでケガをした男と出会う。助けを呼ぼうと戻ろうとしたところで男が気を失い、死んだと思ってパニックになってしまったらしい。


「朝、俺とセスが見た別商隊の生き残りだろうな。見たところ命に別状はなさそうだった」

「そっか、そりゃ何よりだ。っていうか、なんでお前、あの丸いのと一緒にいたんだ?」

「……完全に成り行きで……」

「でも、よかったみたいじゃん」

「そうかな」

「そうでしょ」



 ひとしきりの賑やかさは、商隊リーダーの出発を告げる号令で散った。

 もうすぐ、目的地の村に着く。

副題やっぱりしっくりこない。

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