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FAMILIAR SIGHT ~三下シーフ、翔んでみせろ~  作者: のうき
■山越え商隊~夜襲■
14/33

これでいいのだ

 商隊の東側、少しくぼんだ地形の中。既に前線の戦士たちが集まっていた。

 戦士たちの中には先ほどの2人、ノルティとマルコもいる。

「お、いたいた」

「何してる! サッサと来い!」


 若干夜目の利くランスが、前線の人数を数えながら

「こっちは6人か。防御魔法をかけるからお前も降りてろ」

「サンキュー。用意いいね」

「それはお前もだろう。さっきの木の実とか」

「昼間から気になってたんだ。馬車の足止めされたせいで、こんなに囲まれやすい場所で野営だ。ゴブリンが事前に用意しないだろ」

「司令塔がいる、か」

「そう考えとくのがいいかもな。こっちも覚悟しておかないと」


 数は15~6と斥候役からの報告。

 暗闇の中から、複数の光る眼が動いているのが見えた。



***



 そして商隊の南側。

 馬車から離れた位置で、一人待ち受けるシャム。


 こちらにも光る眼が迫っているが、シャムは落ち着いてブロードソードに手をかける。

「来たね」



***



「茂みに“眠りの霧”をかけたら灯りをつける。ゴブリンなら最低でも半数は無力化できる!」

 ランスがなるべく前に出て、範囲魔法を立て続けに使う。一瞬霧のようなものが立ち込め、そのあと明るくなった茂みの中から――ほぼ報告と同じ数のゴブリンが現れた。


「効かない!? 抵抗力を上げられてる!!」

「邪魔だ! 役に立たねえならどいてな!」

 前にいるランスを突き飛ばし、戦士たちがゴブリンに殺到する。ノルティやマルコのその中にいた。


「気にすんな、お前のせいじゃねーよ。魔法に強くてもゴブリンはゴブリンだ、なんとかならァ。お前、モンスター相手ならやれるよな?」

「ああ」


 抵抗力が上がっていても、単体に対しての攻撃魔法を倍がけすれば十分いける。その通り、ランスは2匹のゴブリンを魔法で黒焦げにしていた。


「やるじゃん。――!!」

 木の陰から弓を持ったゴブリンが戦士の1人を狙っていた。マルコだ。とっさに飛び込んで妨害しようとしたが間に合わず、矢はマルコに向かって一直線に飛んでいく。


 と、マルコに当たる直前、矢ははじけ飛んだ。


「そ、そっか防御魔法……っとお!」

 安心したのもつかの間、自分を狙って剣を振り下ろすゴブリンを間一髪で避けた。素早く体勢を戻し、攻撃してきたゴブリンに蹴りを浴びせる。怯んだゴブリンにダガーで応戦する――。



***



 森のあちこちで、人間ではない断末魔の悲鳴が漏れ聞こえていた。

「ふう、どうやらそろそろ終わり、かな」

 そうつぶやいたランスの前に、血まみれの顔をしたセスが現れる。

「うわああ! お前またそんな怪我を!」

「うそうそ。返り血返り血」


 顔を拭きながら周りの様子をうかがっていると、前線が戻ってきた。

「いやー楽勝楽勝!」

「俺ら最高だね!」


 ノルティとマルコだ。

「足手まといもいたけどな!」

「ハーフの魔法なんて効きゃしないな!」


「お前ら…」

 引き留めようとしたセスをランスが止める。

「いい、シャムのところへ行こう」

「おい!」


 歩き出したランスを追う前に、セスは振り返って

「そこの丸いの、お前が何でゴブリンの矢で死んでねえのかよーく考えろ。いいな?」


 どうしても一言残さずにはいられなかった。先に進むランスに追いついて、

「何でだよ! もっとビシッと言ってやらねえと」

「いちいち揉めたくないんだ。それにな」


 一呼吸入れてランスは続ける。

「お前が俺と普通につきあってるのは、お前がほかのハーフを知ってるからだ。そうだろう? あいつらはそうじゃない。俺がどんな生き物か知らない。だから怖いんだよ」

「怖いって態度じゃないだろう」


「怖いから、自分を保つために蔑んでバカにする。そうやって自分を保ってるんだ。お前だってそんな存在に出会ったら多分そうなる。いや、必ずそうなる。――そういうものなんだ」



 沈黙が流れた。

 無理やり話題を変えるように、セスが呟いた。


「シャム、大丈夫かな」

「大丈夫と言ってたからには、そうなんだろうが、もし予想より数が多かったらやばいな」


 シャムが剣を振るえるのは、魔力が続く限りだ。万が一、予想を上回っていたなら。


「急ごう」



***



 セスとランスがたどり着いたそこには、20匹ほどのゴブリンが斬られて死んでいた。

「すげえな」

「シャム! 無事か!?」


 見回すと、少し離れた大木の方から音がする。大木の下には生き残ったゴブリンがいて、シャムは木の上に追い詰められているように見えた。

 2人は咄嗟に大木に駆け寄る。ゴブリンは執拗に、木の上のシャムに掴みかかろうとしている。


「シャム!」

「あ、バカちょっとこっち来んな!」


 思わず足を止めた2人の前で、木の上から杭が勢いよく飛んできて、最後に残ったゴブリンを串刺しにした。


「うわあああ!」

「あっぶねえ! ……あとえげつねえ!」



***



 杭は、大木の枝を弓なりにしならせ、ロープを切ると飛んでいくように仕掛けられていた。よく見ると、付近に数か所似たものがしかけられており、杭で貫かれたゴブリンの死体も数体ある。


「さっきはこの罠を作ってたのか」

「やー、思ったよりちょっと数が多かったわ! あと魔法かかってたから固かったの! 備えといてよかったわ」

「さすがプロだな。安心した」

 ランスは感心したような、苦笑いしたような顔をしている。大したもんだねえ、とセスは何気なく森の奥に視線を移した。



 そこに、一人の痩身の男の姿が見えた。



 ビクリ、と反応したセスに気付いたからか、そうではないのか。男は森の中に姿を消した。



「どうしたの?」

「まだ何かいたのか?」

「消えた」


「ゴブリンの残党か?」

「いや……」


 セスが、見た男の特徴を羅列する。


 黒い長髪に黒い肌。

 シャムくらいの長い耳。

 そして目は、金色だった。


「それってまさか」

「ダークエルフだ……でも」



 セスはその、金色の()に見覚えがあった。

 ギルドの相棒だった、カタールの()に。

いつも通り、挿絵と内容には関連ございません。

挿絵(By みてみん)

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