7話 うなぎデート(仮)
「悠、お年玉もらえた?」
二人で参拝を終えて国道まで出ると、やっとのことで会話が始まった。
メメは境内にいる間、目でしかしゃべらなくて、一緒に参ろうといっていたことは悠に分かったが、ジェスチャーもなく、口も開かなくて、おかしなサイレントタイムが続いていたところだった。
「そこそこもらえたよ。高校生になったから金額上がった。」
「私も。ねえ、このまま帰るのもったいないから、どっか空いとるとこ行かへん?」
「いいですよー。」
「いいですよお……って。」
メメは声を明るく震わせながら手のひらを直角にして、悠の二の腕をつついた。
古い喫茶店や、食事処、オフィスに、何をしに行くかわからない黒い銀行のビル。
先を見ると横断歩道があり、それを渡る先は大きなディスカウントストアがダンジョンのように鎮座して、入り口に売り物の自転車が大量に置いてある。これ買う人いるのか?
「さして人おらへんでよかったわ。」
「鰻って、高校生だけで行けるのかな。」
「メメさん、そりゃ敷居が高いよ。」
「そっか、はっ。ここでいいんじゃない?」
そういうと、丼ものの店を発見した。
「ここに鰻あったらよくない?お年玉あるし。ここ、中はきれいだから。」
「初めてじゃないんか。」
「でも、鰻があったかは覚えてない!」
「そう。」
結局、悠は天丼、メメはアナゴ天丼を頼んだ。
鰻はなかったし、ここは天ぷら屋になっていた。
「天ぷらも敷居高いじゃない。」
悠は いたずらっ子のそれに似た笑い方をした。
「アナゴっておいしいの?」 とメメ。
肩透かしを食らったメメに、悠はアナゴを勧めたのだが、メメはアナゴが分かっていなかったのだ。
「ウナギみたいなのだから、大丈夫。……やっぱ、このご時世だからか空いてるね。」
「そうやねえ……」
「あ、あれメメさんのやつじゃない?もうすぐ来る。」
「悠のも一緒だよ。」
お待たせしました~。
伝票置いておきますー。
店員さんが去るのを待ってからメメは
「来たー!」と口を開いた。
「お米綺麗!」
「お米かいっ……。」
そのあとも、食べながら、静かに長く話を続けていた。
「もうお腹いっぱいになっちゃった……。最後の一切れ食べていいよ。」
……メメといると男女であることを忘れていく。
言葉を詰まらせたがしかし、断らずに素直に食べた。
食べているところをじっと見てメメが言った。
「ねえ、いつかはウナギ行きたいね。」
「そうやねえ。」
「ていうか、もうこれからは、普通に話してね。仲直り。」
メメがいつもの朗らかな人に戻っていた。
なんて言えばいいのか分からなかった。
「……あ、そうだね。」
「私のこと、イヤになってない?」
「それは無いよ。」
嫌いではないのだが、一度距離を感じたものを、学校で、気さくに話しかけていいのか、周りの目も気になるかもしれない、と思った。
メメは前髪を触って束を整えていて、左目が綺麗に潤んでいた。
書いてから気づきましたが、リビドーでもこんなんありましたね。