2話 校舎とキス
悠も街路樹を抜けて坂を走って下った。
誰も居ない寒い坂道を降りると、左に曲がり、バス停を過ぎると、格子状に入り組んだ住宅街がある。
メメの家もこの中にある。
住宅街の入り口に入る角を曲がると、肩あたりまでもないまっすぐの黒髪の少女が居た。
見覚えのある、切れ長の目。メメだと顕在意識で分かる前に目が合った。
否応がなく二人の距離はパーソナルスペースの中にあった。
悠は左足を後ろに引いた。
「メメさん……。」
「なんでここにいるの。」
メメは突き放すような、試すような声色で悠の目を見た。
「いや、メメさんこそ……帰ら、んといてよ。」
右足も引いた。
「お友達としゃべらんくていいの?」
「だって、最近……」
悠が話す間もなく、メメは歩き出した。
大きくて長い影が追いつくのを視界に入れながら、今度は早歩きになった。
「あっ……ちょっと、メメさん?」
左頬がゆるむ悠の顔には困惑と期待と緊張が混じっていた。
今度はメメが本気で走り出したので、悠は大きな声で呼び止めたかったが、そんなことは野暮だと背中が語っていて、黙って何もしなかった、できなかった。
100m先にメメの家があって、メメは一瞬で門を開け、敷地に入っていった。
「メメも陸上続ければよかったのに……。」
翌日は土曜日で、悠は図書館に行ったりしたが、さらに翌日も話すことはなかった。
思い返せば、メメと会う機会はいくらでもあるはずなのに、いつも一緒だと錯覚して話すことがおざなりになっていた。
休日は明け、月曜になり、12月の登校日は、わずか一週間となった。
ココアシガレットでも咥えないとやっていけない。なぜなら、気分がすぐれないから。
メメと仲直り(そもそも、なんで仲が悪くなったのかきっかけはよくわからない。とにかく、自分が悪いいのは分かる)しようにも、話しかけるなと、オーラが申している。
かといって、ニキータやユアンと話してばっかりなのも決まりが悪い。
そんなことを考えていると、メメがほかの女子との会話を終えたらしく、なんとこちらにやってきた。
メメを見る顔が、少し険しくなってしまったが、メメはそれを気にしないで、話しかけてきた。
「なんかいろいろ持ってきてる。」
「ココアシガレットの日だから。」
「意味わからんけど、まいいや。一個ちょうだい!」
「これならいいよ。うまい棒なら。」
やけに明るいのが嬉しかったが不気味だった。
「ねえ、今日なんでずっと一人なの?」
「たまには私もさ……。」
「ねえねえねえ!ちょっとこっち来て!」
メメが言い終えるまえに、ニキータがインスピレーションのまま話しかけてきた。
どっちの話を聞くべきか固まっていると、いつの間にかメメはさっきまでいた悠の机から離れて教室から出ていった。