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7話

すごかった。

赤点を回避できた。最大難関の数学なんて平均点を超えた。

「……」

テストを全部広げて満足感に浸る。やべえ笑いが止まらないぞ。

「瀬良くん、どうしたんだい?」

テスト広げて、と鈴木くん。

思いの外テストの点数が良かったことを言うと、よかったねと笑顔で返される。

ぶっちゃけ鈴木くんからしたら、大した点数でもないだろうけど、1つの教科ですら平均点をこえた自分はすっごいと思う。

「吉田さんのおかげだね」

「…あ、うん…」

試験中は図書室を開放しない。

だから彼女とは会ってない。

こっちのクラスにくることもないし、俺も隣のクラスに用がないから、顔を見ることもなかった。

ちゃんと試験に来れたんだろうか。

俺にはさっぱりわからないけど、女の子たちがよく話してるのを聞くと、失恋て相当辛いことなんだなってことしかわからない。

学校いけないとか言ってた子もいたし。

「なぁ、鈴木くん」

「なんだい?」

「…いや、なんでもない」

お礼をしたら喜ぶかなんて、彼に聞いたって意味がない。

鈴木くんから貰えば彼女はなんだって喜ぶ。俺から貰っても喜ばない。

自分で考えてるだけで気持ち悪い。

嫌だな、いつも自信にあふれてきらきらしてるのが俺のデフォなのにさ。

それでもいつも思ってた。

俺のきらきらは、恋をしているきらきらを持ってる子には勝てないって。

それは男でも女でも変わらない。あのきらきらは無敵なんだ。


「……」

なんだかんだ図書室に行くのは半ば意地だ。

失恋して丁度いいじゃん。

今は隙だらけだし、きっとチャンスがやってくる。

そこを狙って散々振り回してやればいい。

「え」

図書室は閉まっていた。

蔵書点検だ。

今日から今週末と来週は土日だけ、図書委員以外入れない。

ということは、テスト期間から来週月曜まで会えない…結構間あくな…。

「瀬良」

「え?」

呼ばれて振り向くと彼女がいた。

「今日は蔵書点検だから入れないわよ」

「…そっか」

「部活あるんじゃなかったの?」

「あぁ、うん」

始まるまで時間あったからって適当に言い訳すると、適当な相槌が返ってきた。


「あ、あのさ、」

「…なに」

「テスト…赤点回避できた」

「そう」

あ、少し肩の力抜けた。

そっか、鈴木くん絡みだからな。

てか、さっき机の上に広げてた俺の点数ばっちり見てるから、鈴木くん本人に聞けばすぐなのに。

そこは失恋したてだからさすがにきけない?

逆に失恋してるなら、もう鈴木くん絡みで俺に関わる必要もないしな…まだあきらめきれないのか。

「あと、数学平均超えた」

「そう」

あっさりいつも通りの平坦な相槌だ。なんだよ、俺からすれば平均超えってすごいんだけど。

「…なんだよ、吉田はどうだったんだよ」

「私?全教科90以上よ」

「うげえ、ガリ勉」

「うるさいわね」

いつものつんけんした感じ。その姿にほっとする。

最期が弱弱しく帰ってく姿だったから、どうにもしっくりきてなかった。

これぐらいが丁度いい。


「…何?」

「いや…その、ありがと、な」

「……」

「……なんだよ」

どうせ、俺がお礼なんて言うと思ってなかったんだろ。

柄でもないとかそういうことなんだろ。

「…ううん、よかったわ」

「え」

俯き気味だからやっと顔見れるってとこだったけど、確かに笑っていたのが見えた。

落ち着かない反面、何かもうちょっと言わないと、と思ったところに端末のバイブ音が響く。

慌てて中身を見ると部長からだ。

そろそろ行かないとか。

「…あ、俺、行くわ」

「そう」

いつも通り…より少し柔らかい彼女をしり目に俺は部活に向かった。


もちろん俺の答案用紙を見て、みんな俺のことをほめたし、びっくりしてた。

補修がないことがやっぱり大きい。

これで部活できるって思うと俺も嬉しかった。

なんてたって1週間後は練習試合だ。気合入れていかないと。

でも、さっきの柔らかい表情の彼女が頭から離れることはなかった。

部活はきちんとやってるから叱られることはない。

蔵書点検って確か結構遅くまでやってるよな…。


「よし、今日はここまでだ」

部長の言葉に汗を拭きながら考える。

図書室まだやってるかな、とか。

行ったところでいつものように図書室に入れるわけじゃないし、鈴木くんもいるだろうから、行ったところで胸やけして帰ってくるだけの気もするんだけど。

「瀬良どうした?」

「あ、いや、俺ちょっと忘れ物したんで先帰ってください」

結局気になって図書室へ行ってしまった。

そこで丁度図書室から出てくる彼女と司書さんに出くわす。

「あぁ、瀬良くん」

「うす」

「丁度良かった、吉田さんを見送ってあげてもらえますか?」

「あ、はい」

「え、先生、私大丈夫です」

「いえいえ、夜道は危険ですから」

大丈夫ですよね、と念を押されるから、大丈夫だと強めに伝えた。

「最初からそのつもりですから」

そう添えたら、司書さんは頼もしいとばかりに喜んで、彼女は困ったように視線を彷徨わせた。


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