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6話

珍しく2人で帰ることになった。

気まずさに会話がない。

というか、彼女が不機嫌でそれどころじゃない。

なんだよ、そこまで嫌がるかよ。

「俺と連れだって歩くの嫌がる奴初めて見た…」

「なに、その自信」

「普通は喜ぶだろ。イケメン隣にいて」

「本当面倒な性格してる…」

それはあんたもだろって言おうとして口をつぐんだ。校門に見慣れた生徒がいたからだ。


「鈴木くん」

「あぁ、吉田さん。瀬良くんも?」

「うっす。てか鈴木くんこそ、こんなとこで何してんの?」

そう聞くと彼の後ろから他校の生徒が出てきた。

うわ、名門お嬢様高校として名高いヴォーノート学園の子だ。

俺だってなかなか会えない。しかも、かなり綺麗な子だ。

細くて儚いその様は今はもう絶滅危惧種の大和撫子そのもの。

すげえ、こんな子いるんだ。

「鈴木くん、その子…」

思わず聞いてしまって後悔した。隣の彼女の様子がおかしい。笑顔なのに、すごく緊張している。

いつものきらきらした感じはどこにもなくて、てか、聞いた俺ですら鈴木くんの回答がわかる。

「あぁ、紹介が遅れたね。こちら僕の許嫁の坂川さん」

「え?!許嫁?!」

彼女じゃなくて??嘘でしょ、今時許嫁なんてあるわけ。

「親同士が決めてて。今時古いよね」

と笑いながら、許嫁の子に向ける表情はよく見る顔だった。

彼女も鈴木くんに対して同じ顔をしている。

しかもお相手の子もきらきらした顔して鈴木くんを見返すものだから取り返しがつかない。

「そ、そうなんだ…」

彼女を見る。笑っている。笑っているけど、ダメだ。


「あ、いけない。私忘れ物が」

「え?」

「瀬良、先帰って。それじゃ、鈴木くん。彼女さんも」

「あぁ、明日からテスト頑張ろう」

彼女は足早に去っていく。いやいやだめだろ。

「ごめ、俺も!」

小首を傾けてる鈴木くん達だったけど、今は彼女のことが気掛かりだ。

告白する前に振られるなんて辛いだろ。

すぐに彼女に追いついたのは昇降口で彼女がオロオロしてたからだ。

その後ろ姿の頼りなさときたら、迷子になってるようだった。

「おい」

「え」

「こっち」

手を掴んで無理に連れていく。

途中足をもつれさせながらも何とかついて来る彼女は時折、なんで、とか言ってたけど全部無視だ。

たどり着いたのは部室。

今は誰も使わないからもちろん人はいない。

実は合い鍵がドアの前の植木の後ろに隠してあってそれを使って中に入る。

荷物を机の上において一息。ここならいいだろ。

「おい」

「…なに」

面と向かうとつんけんな顔をしてこちらを見上げてくる。

ただそこにいつもの強い力はない。


「泣け」

「え?」

「泣きたいんだろ?我慢するなよ」

「ち、ちが」

「何が違うんだよ!そんなつっらそうな顔して我慢する必要ないだろ!」

「瀬良に関係ない」

「あー!関係ないけど!目の前にそんな顔したのがいたらほっとけないだろ!」

「そ、」

「泣けよ!辛いんだろ!?我慢するなよ!」

そこにきて、彼女の瞳に涙が溜まりはじめる。

「…ここなら俺しかいないから、好きなだけ泣けば、っ!」

やっと泣きそうかって思ったとき、腹に衝撃。

勢いに後ろのロッカーで頭をうつ。冗談なく痛い。

「っぅ…」

驚いた。彼女が俺に抱きついてきてる。

俺の腹に顔を押し付けて…顔を見られたくないのか、俺には頭しか見えない。

ずるずる彼女に力が抜けてくから、合わせて体を下げてく。

最終的には座り込むような形になった。


彼女は泣いていた。

肩を震わせて声上げて。

彼女の声が体を通して聞こえてくる。

それでなんだかこっちも苦しくなってきて、手を、添えようとしたんだけど、できなかった。

何度も手を上げては下ろしてを繰り返して、意を決して頭を撫でた。

1度、2度…泣き続けてる彼女から何も反応がなかったから、しばらく撫で続けた。

さらさらで手入れが行き届いてる黒髪からは、シャンプーのいい匂いがした。

そんなこと考えて不謹慎だよなと思っても、悪態もつけないし冗談だって言えない。

励ましの言葉とか慰めの言葉も彼女には必要ないだろう。

あーあ、今までの女の子はここで慰めれば一発で落ちるのに。

それが叶わないことに少しほっとしてる自分も嫌だった。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「……瀬良」

彼女が泣き止んできて、すっと手を放す。

ゆっくり彼女は俺から離れていって、俯いて手で涙をぬぐった。

重みと温もりが離れていくことのが名残惜しいなんてどうかしてる。

「…ありがと、すっきりした」

目元を真っ赤にして、笑ってみせる。なんでこんな時に俺に気を使ってるんだろう。

「……もう、いいのかよ」

「大丈夫」

大丈夫じゃないくせに。

でも今の彼女に強く言ってしまうとそれも何か違う気がして、うまく言葉が出なかった。

「…ほら」

「あ、ありがとう」

部室に置いてあるタオルをそのまま渡す。素直にそれを受け取って顔に当てた。

「顔、洗ってくる?」

「うん」

部室を出て、場所を教える。

彼女の荷物をもって、黙って待ってやる。

顔を洗ってタオルで拭いて…顔を上げた彼女に少しだけ力が戻っていたことに、俺はやっとほっとした。


「…帰るか」

「…うん」

荷物を渡して、並んで歩く。そこからは何も話さなかった。

校門を出て、彼女の向かう方が俺と真逆だったけど、何も言わずついていった。

一応これでも見送り頼まれてる身だし。

てか、そんなぼんやり歩かれてたら危ないし心配になった。

泣きすぎて疲れたのか放心状態だ。

「……あ」

「?」

急にぴたっと止まる。

どうしたんだと思ったら、勢いよくこっちを見て、ここでいい、とはっきり言ってきた。

「いや、」

「いい。ここで大丈夫……ありがと」

言って小走りに走り出す。

…追いかけることもできた。

スポーツマンの俺がいくら走り出しに遅れをとったところで余裕で追いつける。

けど、なんかしっくりこなくて。

「…はぁ」

彼女が見えなくなってから、溜息ついて元来た道を戻った。

明日は試験だ。

こんなことに動揺してる場合じゃないし、気にかけてる場合じゃない。

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