第7話 初仕事決定
「うわ〜、フォードの作る料理は世界一だね!」
「そんな事ないよ、恥ずかしいなぁ...」
「いやでも本当に美味しいよ?」
「メリッサさんのご飯の方が美味しいよ」
今日作った味噌汁もどきはかなり好評だった。
この世界の味付けは全体的にサッパリしていて薄味が多いから和食は好まれるのかもしれない。
でも、謙遜でもなんでもなくメリッサさんのご飯の方が美味しいと思うんだけどなぁ...
ぱくぱくとご飯を口に運びつつそんなことを思っていた。
32歳の独身おっさんが自炊をしていた記憶、それがここに来て役に立っているのも複雑だ。
ご飯を食べ終わり食器を下げるとメリッサさんは水の魔法でお皿を洗っていく。
ウォーターボール、という初歩的な魔法だがその中に洗剤と汚れたお皿を入れてシャカシャカする。もちろん割れないように。
すると汚れが取れて、汚れた水はシンクに流すのだ。
この世界で水魔法が使える人は大抵そうしているらしい。
人には向き不向きがあって大抵は得意とする魔法は1つで他は初歩的な魔法しか使えないらしい。
例えば、メリッサさんは水魔法が得意だからこんなことが出来る。
けれど、アレクさんがやると洗剤を入れた時点で水質を保てなくなり形状を保てなくなる。
俺は満遍なく魔法は教えて貰えれば扱えるようだからあまり気にしていなかった。
「よし、綺麗になったかなぁ...じゃああとはフォードにお願いするわね」
そうメリッサさんに言われて頷き、濡れた皿の前に立つ。
あとは皿を吹き飛ばさないように注意しつつ、それなりの強さで風を指先から起こす。
簡単な魔法ならメリッサさんもそうだが、その名を言うだけで魔法が使える。
俺は詠唱が要らない代わりにイメージが大切になってくる。
少しでも加減を間違えると家が吹っ飛びかねないから、慎重に。
ぶわっと風が吹き、水滴が飛ぶ。
水気が無くなると、今度は風の向きを複雑化して皿を持ち上げ食器棚に返す。
「流石ね、私の仕事半分くらい無くなっちゃったわ」
そういってメリッサさんは毎回褒めながら頭を撫でてくれる。
少し恥ずかしいが、悪い気は全くしない。
そうこうしているとリビングの方からフォードぉ...となんだか頼りない声が聞こえてくる。
メリッサさんと顔を見合せその声がする方へと移動すると案の定アレクさんが机にぐでっと伏せていた。
「うわぁ、液状化してるみたい」
そんな言葉が出た。
「うーん...フォードは料理が上手だよねぇ...色々レシピも知ってるし...」
まぁ、前世の記憶を頼りにしてるだけではあるが嫌いではない。
何が言いたいのかとアレクさんの言葉を待つと暫く唸ったあと
「フォード、屋台、やってみないかい?」
なんて言われた。
「屋台?」
そう聞き返すとアレクさんは姿勢をただし
「今ね、魔物が活性化していて、ポークリオンの肉が市場に大量に出回っているんだ。けど、家庭に回る分や屋台で必要になる量ってのはあんまり増えるもんじゃないだろ?需要と供給が合わなくなってきたんだ。それを、どうにかしてくれって冒険者ギルドの方から依頼されちゃってね...」
ポークリオンとはその名の通り豚っぽい魔物。
豚を4倍ほど大きくして、角が生えた感じ。
目が合うと突進してくるがその隙に横から突くと案外簡単に仕留められる。
豚もいれば勿論牛もいる、ビーフリオン。
大抵は冒険者が狩って、冒険者ギルドが買い取って市場に出回る。
だのにポークリオンを捌き切れなくなったギルドが泣きついてきたらしい。
「本当は働きに出すような真似したくないんだけど、フォードなら計算もできるし、トラブルが起きても対処できそうだし、どうかなぁって。ただまぁ、10歳がやる屋台の集客率は予想できないんだけど...」
どうかなぁ?ってアレクさんが尋ねてきた。
ずっと家にいて養ってもらうのは申し訳ないと思っている俺は即座に頷いた。
「やる。料理は好きだし、何よりそれがアレクさんの役になるならやりたい。」
迷いなくそう応えるとアレクさんはうわあああっと叫んだ
「フォードがいい子すぎて困るぅ...養ってたい...ずっと養いたい...」
まさか、俺が少しでも働かないようにしてたのって、アレクさんの養いたい欲のせいだったのだろうか...。
「心配しなくても、私の商業ギルドの隣でやってもらうから何かあったら飛んでいくよ!」
「あー...折角屋台やるなら商業ギルドじゃなくて冒険者ギルドの近くでやりたいなぁ。商人に向けて売り込むより冒険者に向けて売った方が売れると思うんだよね」
俺も何回商談を聞いたことか、その経験が今回に生きて欲しい。
冒険者は安いと飛びついてくれるはずだ。
まずはそこを取っ掛りにしたい。
アレクさんと俺は商売の方針を夜中まで練り続けた。