第5話 暖めてくれる存在
「じゃあ俺らはギルドの方へ報告しに行きますわ、仲間の報告もしなきゃだし、な、」
そういってハルロらはアレクの家へ着くとその先にあるというギルドへ向かって行った。
今まで8人で活動していたハルロら...《終わらない夢》は現在4人となってしまっている。
これからのことも考えるべく、早めにギルドへ行きたいと荷車の中で言っていた。
死者を生き返らせれるスキル、もしくは魔法があれば。
何度思ったことか。
自然に顔が下へと向いてしまう。
自分のスキルは今どれほど得たのか把握はしていない。
ただ、こうしたい、ああしたいと思うとそれに似たスキルが勝手に発動する。
逆に言えば、発動しなければスキルを得れていないということだ。
スキルと魔法の差も未だにわかっていない。
ハルロの話では魔法には詠唱が必要だということだったが、スキルについては一切話していなかった。
アレクは家内を呼びに行ってくると俺を客間に通してからどこかへと消えてしまった。
時間も空き、時計を見やると朝の九時を指している。
深夜に家を襲われて、逃げて、山賊と戦って、荷車に乗って、アレクの家。
長い時間かかったように感じていたが、数時間の出来事だと思うとどっと疲れを感じてきた。
ハルロの話と照らし合わせて自分の身に起きていることを整理しつつ、アレクを待っていると数十分ほどで扉が開き、アレクと少しツリ目の女性が入ってくる。
アレクは若く、若干なよっとした印象があるが、奥さんはしっかり者っぽそうだなぁと思っているとアレクがその女性を紹介してくれた。
「こちらが私の家内、メリッサ・ソリュードです。
そして、今回命を救ってくれた子、フォードさんだよ」
俺の紹介もしてくれた為軽く会釈をするとメリッサは少しはにかんで
「私はメリッサ。今回は主人を助けてくれてありがとう。話は聞いたけど、まさか本当に子供だなんて、ちょっと驚いちゃった」
と言ってくれた。
「俺はフォード。たまたま通りがかっただけだから気にしないで欲しい。」
「それでも助けて貰ったことに変わりはないからさ。それで、家に住みたいって主人から聞いたけど、いくつか質問をしてもいいかな?」
まぁ、そうなるよな、と予想はしていたため頷いて意思表示をする。
正直、金も何もかも置いてきた俺はここで追い出されても路頭に迷うだけだ。
それなら泊めてもらえるかもしれないこの状況は俺にとってありがたい申し出だと荷車の中で思い直していたのだ。
「どこから来たの?」
「リックスから」
「え、そんな遠くから!?」
そう驚かれても、俺は理解出来ずに首を傾げる。
そう言えば逃げている間は森の中だったから自分がどれだけ移動したのかは分からず、さらに荷車に乗ってきてしまったから、ここの土地がどこに位置しているかなんて全く気にしていなかった。
「ここは何処なんだ?」
「ここはね、エレッタっていうんだけど...あなたがいた街の隣の隣町って言ったらわかりやすいかしら」
そう言われて俺は驚く。
周りに目を向けれる状態ではなかったとはいえかなり遠くに来てしまったようだ。
でもそれだと、俺はどれだけの速さで歩いていたんだということになってしまう。気になって今日の日付を聞いてみれば自分の誕生日から2日後の日付が返ってきた。
つまり俺は、昨日一日中森の中を歩いていたらしい。休みもせず、延々と。
そしてその事すら気づいていなかった。
そりゃあ疲労も溜まるかと妙に納得をした。
「あなたは驚きを沢山持っているのね...
じゃあ次の質問ね、あなたのご両親、もしくは親戚は?」
「...親は2人とも殺された。親戚はいることにはいるのだろうが、会ったことも聞いたことも無い。」
そう、不思議なことに俺はおばあちゃんやおじいちゃんという存在にあったこともなければ叔父、叔母という存在もいたかどうか知らない。
今まで三人家族で幸せだったから深く気にしていなかったが、この世界はそういう繋がりが薄いのだろうか。
「ごめんなさい、辛いことを聞いてしまったわね」
「いや、平気だ」
それよりも、部屋の隅で何も言わずに考え込んでいるアレクが気になるのだが...と目をそちらにやると目が合った。
「フォードさん、君は幾つだい?」
「フォードでいい。歳は5歳になったばかりだな」
アレクの質問にそう答えて、これは確かに年相応の話し方ではないなと自覚した。やはり、多少は喋り方に気をつけた方がいいのだろうか
「両親を亡くし、帰る家もないと」
「そうだな」
「そうか...」
そしてまた考え出してしまった。
メリッサはその様子に何も言わない。
沈黙のまま時間が進む。
「フォードさん…あぁ、いや、フォード。私はね、きみを私たちの養子としてこの家に迎えたいと思っているんだ。」
長い沈黙の末紡がれた言葉に俺は何も言えなかった。
それがいい判断なのかどうかもわからなかった。
俺の親は、現世では2人のみ。この人たちを親だと思えるのかどうか、考えてしまったのだ。
黙り込んでしまった俺にメリッサは優しく話しかけてくる。
「フォードくん、私はね、子供が産めないって言われているの。1度、大きい事故をしてしまってね。
それで、最近は養子を取ろうかとも話してたんだ。
そんな時にフォードくんが現れて、これは運命なのかなって、まだ数分しか話してないけど、私はそう思ったの。
最初、アレクから話を聞いた時、助けてもらったのは有難いけどそれとこれとは別だって思ってた。
でも、フォードくんをみてね、変わったの。
あなた、ずっと悲しい目をしてる。そんな子、放っておけるわけがない。家族になりたい。
そう思った。
フォードくんは、どうかな?」
その、暖かい言葉に、視界が歪む。
そういえば、親が死んだ時、叫んで、悲しんで、怒ったけど、俺は1度もないていなかった。
頬を濡らす涙は止まることを知らないで俺は頷いて見せることだけしかできない。
言葉にしたくても、言葉にならない声しか出ない。
見ず知らずの俺にこんなふうに言ってくれる人はきっとこの二人しかいない。
俺が安心できる場所をつくるとするなら、この2人のそばなのだと俺はそう思ったから。
「おれ...ッ...全部無くして、持ってるものは、このブレスレットくらいしかない、でも、これは、お母さんが最後にくれたものだから、売って、お金にすることも、できないっ...何も返せないッ...それでも、おれを、家族にしてくれますか...っ...」
必死に言葉を連ねる。
だって、希望はもう持ちたくないと思っていたから
「何もいらない、可哀想な君が幸せになってくれればそれだけで私たちは幸せになれる」
そういってアレクは俺を抱きしめた。
メリッサは俺の頭を撫でた。
冷えた体がじんわりとアレクの熱で温まってくる。
俺は、ずっと、泣いていた。