第2話 この世界、僕の家族。
僕は仕立て屋【アルフ】に生まれた一人息子。
名前はフォード・アルフタレイン。
お父さんは怒ると怖いけれど、優しい人で、仕事に誇りを持っている。お父さんが作る服はどれも一等品で、お客様の中には貴族がいるほどだ。
余り喋らない人だけれど、雰囲気っていうのかな、優しく包み込んでくれそうな感じがして、お父さんの周りにはいっぱい人がいる。
僕は将来お父さんみたいな人になりたいんだけどなれるかなぁ。
お母さんは穏やかで優しい人。仕立て屋【アルフ】の看板娘なんて言われている。本人はもう娘じゃないわよっていつもいってる。
お父さんの仕事の傍ら、趣味でアクセサリーを売っているんだけれど、そのアクセサリーは毎回完売してしまう。なんでもセンスがずば抜けているんだって。もっと作ってって色んな人から頼まれているけれど空いた時間に作ってるだけだからって毎回言ってる。
貴族でもない僕の家は街の人達にも気に入られていて繁盛している。
でもそれは多分ほかの家より少しだけ裕福なのかなって思うくらいだ。
僕が住んでいる場所は、ホリューメムリド王国の中の、リックスというそこそこ大きな町である。
王都からは少し離れているけれど発展した街で商人も冒険者もよく訪れる街だ。
多分僕は恵まれている。
近所の人は皆優しいし、お父さんもお母さんもいい人で幸せって誰にでも自慢したくなるほどだ。
ただ、このリックスを治める貴族。
さっきも少し話したけれど、仕立て屋【アルフ】の1番のお得意様。貴族、
アルド・リックス・スタード。
その人だけ僕は唯一好きになれない。
街の人だって横暴だってコソコソ言ってる。
今日だってそうだ。
今日は僕の誕生日で、お仕事お休みにするってお父さんもお母さんも約束してくれたのにその貴族のせいでお父さんは仕事に行かなくちゃいけなくなったんだ。
「ごめんな、フォード。夕方までには帰ってくるから少し待っててくれ」
「ううん、だいじょーぶ。僕5歳になったんだもん、全然待てるよ。お仕事頑張ってね!」
そういって朝からお父さんはアルドさんが住んでいる館へ出掛けていった。
この国には王族、貴族、庶民と3つに分かれている。
昔は公爵とか男爵とか伯爵って色々貴族の中でも別れていたみたいだけど、土地を収めたりする政治的権力を持つ人を纏めて貴族っていう制度になったのは僕が生まれる3年前かららしい。
王族はその名の通りこの国の王様と血縁関係がある人達のこと。
貴族は町等の領地を収める人のこと。
庶民はその街を栄えさせる人のこと。
そうお父さんに教えてもらった。
ちょっと難しくて言ってる事の半分くらいしか理解できなかったけれど。
本当はアルドさんにお父さん取らないでって言いたいけど、お父さんは、この街を治めてくれる大事な人だから力になれることが嬉しいって言ってた。だから心の中で抑えておくんだ。なんてったって僕は5歳になったんだもん。
日中はお母さんと一緒にケーキを作ってた。
すごく美味しそうにケーキは焼けたし、デコレーションも頑張った僕の自慢のケーキ。
お部屋も飾り付けて、あとはお父さんを待つのみ。
でも、お父さんは夕方をすぎても帰ってこない。
「仕事が長引いちゃっているのかしら...」
そういってお母さんは僕の頭を撫でてくれた。
「もうすぐきっと帰ってくるよ、だから待ってよう」
僕はそう言ってお母さんのアクセサリー作りを見て時間を潰すことにする。
ブレスレットが欲しいってお願いしたんだ。
青と緑の綺麗なブレスレットが出来上がってくる様を見るのはとても美しく見えた。
もう夜なのにお父さんは帰ってこない。
「はい出来た、フォード、お誕生日おめでとう。
このブレスレットにはね、あなたが幸せになるようにおまじないをかけておいたから大切にするんだよ?」
そういって僕の腕にブレスレットをつけてくれた。
腕にしてみるととても光り輝いて見えて僕はこれを絶対大切にするって決めたんだ。
もう夜も遅い頃、バタバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
お父さんが急いで戻ってきてくれたんだって嬉しくなって玄関まで迎えに行くとそこにはボロボロで、血もかなり出ているお父さんが駆け込んできた。
「逃げろッ!!!!!」
そう言われて、直ぐになんて動けなかった。
何事かとお母さんも出てきてこんな姿のお父さんに駆け寄るけれど、お父さんはそんなこと気にしてられないと叫んでいる。
「アイツはこの街を全て支配しようとしているんだ、富を全て自分の元へ行かせるために、!
早く逃げるんだ、母さんもフォードも!すぐに追っ手が来る。裏口から逃げろ!早く!」
そんなこと、いわれたって
お母さんも驚いた様子でもっと話しを聞こうとしたけれど、後ろからザッザッと剣を持った憲兵団たちが今にも切りかかろうとしてくるのが見えた。
お父さんは、僕達を守るように両手を広げて、
斬られた。
うぉおおおという男の声
きゃあああというお母さんの悲鳴。
何もかも、嘘に見えて仕方なかった。
「はや、く...にげ、ろ、」
お父さんが、息を吐くようにその言葉を口にする。決して大きい声じゃなかったのに僕の耳にはすごく鮮明に聞こえた。
どうしてこうなったと回らない頭でぐるぐるぐるぐる。
ぐい、と強く手を引かれてお母さんと共に走り出す。
ねえ、どうして。お父さんはあそこにいるよ、まだ助かるよ、なんで逃げるの、ねぇ、お母さん。
きっと声になんてならなかった。
頭が理解を拒んでいる。
思いっきり裏口のドアを蹴るようにして開け、お母さんに引っ張られるまま裏山へとかけ出す。
その後ろを数人もの憲兵団がおってくる。
お母さんは風の魔法が使えるけれど、強風を起こせるくらいの力しかないから、立ち向かうことなんてできない。
僕はまだ、魔法は使えない。
だから、ひたすらに走る。
「いい、フォード、この道を真っ直ぐいくの!
お母さんは憲兵団の人と、お話するから、フォードは先に行って!!決して振り返ってはダメ!!!」
そういってお母さんは、
手を離して
僕を風の魔法で遠く前方で飛ばし、後ろへおなじ魔法を使って憲兵団を怯ませ、
「行って!!!フォード!!!!!」
叫ぶ。
僕は、自分で考えることなんてとうに出来なくて。
言われたままに走り出す。
愛してる
そう言われた気がした。
直後に、悲鳴。
思わず振り返るとお母さんは斬り掛かられていて。
がくん、と
力を失っていた所だった。