存在しないあたりまえ
誰だって気を一番落ち着けられるのは家族の前だと思います。しんどいとき、疲れたとき、一番素を出せるのは家族の前のはず。いつだっていてくれる、だから気を抜いて反応がぞんざいになる。そんな感じじゃないでしょうか?
やってくれるのが当たり前、いてくれて当たり前。そう思ってませんか?
家族からしたら心配をしてるから、こうしたら喜ぶと思うから、久しぶりにあったからと色々考えてるものなのです。
それを当たり前のように感じていると思いますが、この世に当たり前なんてものは存在しません。
当たり前とはいつだって突然壊れる物なのです。
[お米また送っておいて]
それは母に対しての連絡であった。
母に対しては毎回これくらいでしか連絡を送らずにいた。
[了解]
[ちゃんとご飯食べてる?]
[仕事しんどくない?]
[続きそう?]
画面越しにそんな返信が多く返ってくる。
[大丈夫]
ただそれだけを私は返した。
[よかった。時々連絡してきてよ。心配してるんやから。]
その返信に対して私は既読だけをつけて返事はしなかった。
これが当たり前だと思ってた。
自分勝手に連絡してもこの人からは絶対に返信が返ってくるといつからかそう思い込んでいた。仕送りをしてくれるのも、側にいなくても一言送れば返ってくるし、迎えにだって来てくれる。変わらない存在だとずっと思い込んでいた。
そりゃそうだよ。人生で一番長くいてくれていつでも頼れる人だって思ってたんだから。
だからこの日だって1人になるまで後悔なんてしなかった。
[5日の夜、仕事終わりに帰る]
その日もまた用事だけの連絡。それに対して母は、
[何時に帰ってくるの?この駅まで迎えに行くからね。また詳しく時間教えてね。]
と、文字越しにも喜んでるのがわかった。
その日帰るのは実に3〜4ヶ月ぶりだった。
しかし、私自身は正直帰りたくなかった。
時間もかかるし、帰ってもやる事がないし、移動する手段も無いし、これだったら友人といて一緒に遊んでた方がマシだ、と。
まぁでも帰るって言っちゃったし帰るしかないか…
そんな気持ちで仕事終わりに実家への帰路に着いた。
実家はかなりの田舎で住んでる所から約一時間半はかかる所だった。
仕事終わりでしんどいし、お腹も空いたし、眠たいし、やれやれと思いながら電車に揺られる。
母が迎えに来てくれた駅に到着したのは夜の9時過ぎのことだった。
『ただいま』
『おかえり、お腹すいた?帰ったらすぐ作るからね。仕事どうだった?何時に出勤してるの?』
あって早々の質問責め。
ただでさえ眠たいのに静かにしてほしい。そう思い返事は適当なものばかりだった。
返事だけでいいものは、『うん』だとか『そう』とかばかりだった。
家に着いて用意されたご飯を食べて、お風呂に入り特に喋る事もなくその日は寝てしまった。
次の日、祖父のいる病院に行くことになっていた。そこまで車で一時間くらいかかる場所だったがその車の中でも会話はあんまりなかった。
私は友人との連絡や、早く帰ることしか考えていなかったのだ。
『髪の毛、ちょっと鬱陶しいから散髪してから帰りなさい。連れて行ってあげるから。』
『やだよ。最近切ったばっかなのに。』
(それに時間もかかるし…)
『散髪代出すから行ってきて。どうせ向こうじゃ切らないんだから。』
そうして無理やり連れてこられ終始私は機嫌が悪かった。愛想なんてものは無くて時間ばかり気にして、『この電車に乗らないと間に合わない。』なんて言って。
そんな事しなくても正直間に合っただろうし、もっとゆっくりも出来たはずだった。
散髪が終わりそのまま帰りの駅にすぐ向かう事になったその車の中、
『全然帰ってきてくれないのに、久しぶりに帰ってきて話くらいしてよ。すぐに帰っちゃうのに帰る時間ばっかり気にして。』
それは母の素直な気持ちだった。
私はこれに対してどう返事をすればいいのか分からず、結局何の会話もなく駅に着いてしまった。
車を出るとき、『ありがとう』とだけ言って外に出た。
母は何も言わずに車を出して行った。
帰りの電車の中で流石に悪かったなとなと反省して来月もう一度帰るかと心の中で決めていた。
しかし、母と次に会うときそこには以前の母は居なかった。
事故だと聞かされた。交差点で信号無視をして突っ込んできたなとぶつかったらしい。
呆然とした。何かの嘘なんだろうと、きっとなかなか帰ってこないからこうして帰ってこさす用に仕組んでるんだと自分に言い聞かせた。
しかし、現実は残酷だった。葬儀は行われその時の記憶はあまり無かった。現実を受け止められず涙も出なかった。
実家から一人暮らしをしているところに戻ってきたのは葬式から3日後の事だった。
頭が真っ白の中ぼーっと家に帰ってきてポストを開ける。
そこには不在通知が入っていた。
その相手は母だった。
私はすぐに電話をし、当日受け取りの最短時間で予約をした。
待っている時間は長く、ずっと落ち着かなかった。
ピンポンっと音がなった瞬間、玄関に走って行きすぐサインをし荷物を受け取った。
中を開けると、お米やインスタント食品やビールなんかが入ってる中手紙が入っていた。
[ちゃんと食べてまた帰ってきて。心配してるんやから色々話し聞かせてよ。]
短い手紙だった。
その瞬間涙がこみ上げてきた。そして後悔した。
何でもっと話をしなかったんだ。何でもっと安心させてあげれなかったんだ。何でもっと帰ってあげようとしなかったんだ。なんでなんでなんでなんでなんで、
何でもっとありがとうを言ってあげなかったんだ。
あたりまえだと思っていた存在は儚く、この最後の仕送りはとても温かく、そして辛いものだった。
この物語はフィクションです。
拙い文や無茶苦茶な話でしたが、半分は本当に感じた事でした。
もしご両親がいる方が読まれてましたら今一度会ったり話したりお礼を言ったらしてあげてください。
私も来月また実家の方に帰ろうかなと考えてます。
今度はゆっくりと時間の許す限り母の相手をして良い気持ちで帰れるように。