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EX2

○作業棟

 機甲開発中隊に割り当てられたビルは全部で5棟あり、現在はそのうちの2棟がそれぞれ1班ずつに使用されている。ビルの容量的には1棟でも問題ないが、競争相手が近すぎるのもストレスになるという要望から、別のビルを割り当てているのだという。

 隣接して独身寮が建てられた作業棟は10階建てで、メインハンガーを中心に、その他の部署がフロアごとに分かれている。出入りにはIDカードが必須で、扉ごとに通過できる権限が限定されている。

 地下には耐圧実験用施設などが埋め込まれ、簡単な試用試験が行える。


 メインハンガーは、作業棟の真ん中にある。主に改良する機体の組立を行う場所で、ビル正面の人間用の入り口と、裏側の資材搬入口、ふたつの入り口がある。どちらも二重扉で、外側の扉はIDカードによる認証があり、さらに内側の防音扉はとても重くてひとりであけるのは難しい。特に資材搬入口はID認証も複数人数が必要である。

 中は3階分をぶちぬいた高さのある空間で、この時は2体のバトルアームが骨格をむき出しにして鎮座していた。広さはサッカーコートくらいはあるだろうか。それぞれの機体に5、6人がとりついて作業している。その脇に据えられた作業台でも数人が何かをしていて、奥では火花を散らして溶接が行われ、様々なものがぶちまけられた床を資材を満載したフォークリフトが神業的なコース取りで走っていた。


 現在、機甲開発中隊には小隊扱いの開発班がふたつあり、機体やオプションパーツの開発・改良を行っている。数年前までは5つの班があったとかで、それぞれ得意とする分野を分担していたそうだが、今はふたつの班どちらもが独自にすべてを行う方式になったそうだ。そのため、余計に作業場が混沌としていくのは仕方のないこと・・・らしい。



○耳栓

 メインハンガーを案内される時、中に入る前に新人全員に耳栓が渡された。着用を確認した引率の隊員が二重になった扉を開くと、圧力となった音が全身を叩いた。他の建造班や整備班でも作業音が凄まじかったが、ここはさらに群を抜いている。なぜかというと、音が出るような作業のすべてが、同じフロア内で行われているためのようだ。耳栓をしていても漏れ聞こえる金属音と、腹を揺さぶる物理的な振動で、フロアを出てもしばらく体がふらふらする気がした。

 以前は作業中の会話のために備品としてインカムがあったそうだ。だがそれも通信系の改良などのために分解されて部品として使われていき、気づけばひとつも残っていなかったらしい。それで大丈夫なのか尋ねたところ、こんな騒音の中でも慣れると必要な言葉が聞き分けられるようになるのだとか。人間の順応力とはすごいものだ。本当なら、だけど。でも実際に、見学している間に会話が成立しているらしい様子を見かけたのだから、きっと本当なのだろう。



○ミーティング

 班内の全体ミーティングは原則的に週に一度行われる。そこでは各部所の作業の進捗報告や本部からの通達等があり、班内のもめ事の調停なども含まれている。意見交換、アイデアの披露や予算配分の泣き落としなども多く、予定を越えて話し合いが続くことも珍しくない。

 また、月に一度は班内のものとは別に中隊ミーティングがあり、班長を含めたチームリーダーは出席を義務づけられている。最近は第2開発班の班長の嫌みを聞くのがいやだと、出席を渋る班員が増えているのが悩みだという。



○A班とB班

 第1開発班は、その班長のイニシャルがA・Aであることから日常的にはA班と呼ばれることが多い。それにともなって、第2開発班をB班と呼ぶことも習慣化したそうだ。

 それを受け入れないのが、昨年着任したばかりの現第2開発班班長のロイド・マクベイン少尉だ。主席で士官養成学校を卒業したエリートとして、誰かの下であると言われているような呼称が気に入らないのだろうと言われている。

 実際に、第2開発班が演習中の演習場へぼくらが見学を申し出た際、引率が第1開発班の班員であることを理由に、マクベイン少尉は士官養成学校の入学パンフレットの表紙を飾ったこともあるという整った顔立ちに侮蔑の色を浮かべ、

「他の班の演習へ連れてくるなど非常識だと思わないのか。まったく、開発という機密を扱う自覚が足りていない。しょせん下士官風情が班長を務めているような班では仕方ないのだろうがな」

 と冷ややかに言い放った。その後ろでは、第2班の班員らしい人がこちらに向かって顔の前で手を合わせている。

 第1の班員たちが少尉に出会わないように気をつけている理由が、よくわかる一幕だった。


 第1開発班と第2開発班共に、開発しているのはバトルアーム本体と、それに付属するあらゆるものであり、そこに差はない。

 ただ、A班は二腕二足のオーソドックスな人型以外は作っていない。これは班長の意向で、徹底されているそうだ。B班には機体の構造にこだわりはなく、実際に過去には瓦礫搬送用の荷台付き四足型を開発した実績もあるとか。

 オプションパーツは、機体に組み込むものから武器、作業用工具、運搬用トレーラーに至るまで多岐にわたる。開発のための機材を開発することもあるというのだから、範囲が広い。電脳調律士の人たちも機体の制御以外のプログラムを頼まれるほうが多く、対応力の限界を試されている気がする、と笑った人もいた。


 バトルアーム用の武器は、実は民間企業でも開発がなされている。正式採用になったものもあり、軍内部での開発では、機体よりは優先度が低い。

 それでも開発が進められている理由は、すべてを外部に頼るのは、いざという時に問題が生じる可能性があることと、機体は外部発注をしていないため、特殊な規格の機体の場合に最適化した武器を作れる技術を確保しておきたいという思惑かららしい。A班の人たちは、とにかく思いついたものをいろいろ作れるのが楽しい、という感じで、あまりそういった事情は考えているようには見えなかった。現場っていうのはそんなもんだ、と言われて、ちょっと納得した。




 班長の気質が反映されているのか、第1開発班内の空気はずいぶんとフランクだった。階級の上下も、それほどかたくなに守られているわけではなく、下官と一般兵が気軽に談笑する姿がよく見かけられた。

 配属先の人気は機動科が高いけれど、こういうところで自分のアイデアを形にしていくのも楽しそうだなと、そう思った。


(FIN)

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