入軍式
俺が騎士団長様に連れられ王国騎士になるための訓練を開始してから早半年。今日からようやく正式に王国騎士としての活動を開始するのだ。俺は騎士団長様の計らいで本来の訓練予定地だった南部ではなくエリートぞろいの王都で訓練を受けることができた。剣を一つふり銃の引き金を一度引くたびに少しづつ自分か強くなっていく喜びを実感でき大変有意義な訓練になった。
「只今より王国歴346年度第97回ロイヤル・ダブリン王国軍入軍式を開始いたします。開会に先立てましてさきのアルバ市爆破事件の被害者2名と王国南部ローズズにおいて行われた戦闘において戦死した31名の勇敢なる王国騎士を謹んで哀悼の意を表し黙祷をささげたいと思います。」
アルバ市というのが俺のこっちの世界の家族が住んでいた町だ。ローズズでの戦闘は俺の家族が爆殺されてから約一週間後、宣戦布告が行われてからの初めての戦闘だった。革命軍を退ける事には成功したが我が軍のローズズ駐屯部隊45人中31人が戦死し壊滅状態になった。しかも人員不足の観点からローズズからの撤退を王国議会は決定し革命軍の侵攻を許してしまう結果になった。また、もともと第一身分が多く住む土地であったローゼやローリアなども革命軍の拠点と化しており現在はロイヤル・ダブリン王国の4割が占領されている状態だ。
「それでは、皆さまご起立ください。黙祷。」
俺は目をつぶり黙祷する。思い出すのは家族が死んだときのことだった。たった一つの魔力手榴弾で俺の母親と妹は殺された。元居た世界に一人残してきた母のことを忘れたわけではないがこちらの世界の家族も俺にとっては大切な人たちだった。だからもちろん革命軍の奴らに復讐したいという気持ちはいまだある。
「ご着席ください。」
でも俺は復讐のために王国騎士になったのではない。あくまで銃後の国民を守るために敵を撃滅するのである。俺はその覚悟を再確認し着席する。
「開会の挨拶をダロン・ジェームズ王国騎士団長様より承ります。騎士団長様お願いいたします。」
入軍式は進んでいく。
「これにて王国歴346年度第97回入軍式を終了いたします。」
2時間を超える式はようやく終わった。俺は竹馬の友であるジョニー・ドイルを見つけた。
「久しぶりだなジョニー。南部での訓練はきつかったか?」
「ったりめえだ、ナガト。お前んとこよりきつかったと思うぜ。……ほんとに久しぶりだなぁ!」
俺たちはハイタッチを交わす。俺たちが幼少期からやってる癖のようなものだ。
「おふくろさんと妹さんのことは……なんというか……」
「気にしないでくれ、俺なりに整理はつけたから。それより、ジョニーのご家族はご無事か?」
「俺んとこはとりあえず無事だ。ただな、この間のローズズ防衛線でオレアリー先輩が戦死した。」
俺は言葉も出なかった。学校の先輩であったオレアリー先輩は俺の母校史上最高の剣士と呼ばれた男で俺とジョニーはよく教えを乞うたものだ。彼が死ぬなど信じられないことだ。ただ、今言えることは
「俺の戦う理由はまた増えたな。」
「ああ、俺もだ。」
オレアリー先輩の分も俺たちは戦い、王国を守り続けなければいけない。覚悟を胸に俺とジョニーは会場を後にした。
2日後俺たちは王国南部奪還部隊第三小隊に着任した。
残酷な運命の歯車はもう止まらない。