新撰組のみんなにもカミングアウトしました
「カッコいい男のことです」
ホストの意味について、とりあえずそういってみた。事実である。まぁもしかすると、カッコいいとはいえないホストもいるかもしれない。だが、みんなカッコいいイメージが、おれのなかにある。
「ほう。恰好いい、ね」
ほうらみろ。
自意識過剰、超絶ナルシストの副長までくわわってきた。
「ええ、ええ。カッコよくって女性に大人気の男性のことです」
平静を装い、さらにいってみた。
いまのも事実である。まぁ、なかには人気のないホストもいるかもしれない。だが、ホストとして喰っていけているんだったら、そこそこ人気があるだろうっていうイメージが、おれのなかにある。
「きみ、ずいぶんとはしょった説明だね」
「うるさいな。おれは、事実を話している。きみらは、まさかホストの経験もあるっていわないよな?」
ツッコんできた俊冬に、思わずきいてしまった。
「本来の意味であるホストだったら何度かあるけどね。さすがにホストクラブでホストの経験はないね。でも、おれもこいつもそこに潜入すれば、そこそこいけると思うよ」
ホストの本来の意味は、主人や主催者、接待する人、司会者などである。
それは兎も角、「ホストクラブ人気ナンバーワンになること間違いなし」を、しれっと宣言する俊冬。
かれが副長の遺伝子を濃く受け継いでいることを、つくづく実感してしまった。
「わたしがなんだって?」
相棒を抱きしめていた桑名少将が、いつの間にか立ち上がってこちらをみていた。
「桑名少将は、ホストらしいですよ」
「ちょっ、やめてください。桑名少将はホストじゃありませんから」
勝手に決めつけて、てか、本人に告げた蟻通にぶちぎれてしまった。
桑名少将こと松平定敬がホストだなんて噂が後世に伝わりでもすれば、とんでもないことになってしまう。
web上でかれの線の細い、ちょっと頼りなげな写真をみた現代人は、人はみかけによらぬもの認定してしまうだろう。
ってか、この時代には当然ホストはいない。それにちかいっていうと蔭間であろうか。つまり、男娼のことである。いや、これはまったくちがうか。
老若の女性を虜にする「女たらし」ってやつだな、うん。
スキャンダルものの事案に発展してしまう。
っておれが妄想するからいけないのか。
おれもすこしは学べよ、ってついつい自分で自分にツッコんでしまう。
「少将、会津侯からうかがっております。新撰組はだれかさんを筆頭に馬鹿ばかりですが、退屈だけはいたしません。どうか気をらくになさってください」
「だれかさんって、いったいだれのことなのです?」
副長が桑名少将を慰めているのに、思わず割って入ってしまった。
声を大にしていいたいが、おれは馬鹿じゃない。お笑いを提供しているんだ。
そこんところ、桑名少将に誤解を与えるような発言は控えていただきたい。
こういうことは、最初のうちにはっきりしておかねば。
「主計、やかましいっ! おまえは、全身全霊をもって少将を笑わせてりゃいいんだ」
副長に怒鳴られてしまった。
「かならずやぽちたま、もとい俊冬と俊春が、御身は護り抜きます」
副長が言葉をつづけたと同時に、俊冬と俊春がさっと片膝を地について礼をとった。
「ぽちたま、全身全霊をもって少将を護り抜け」
「承知」
「承知」
そして、二人はその命に同時に了承した。
ってか、ちがいすぎやしないか?
全身全霊でやることの差がちがいすぎて草すぎる。
おれにたいするひどすぎるあつかいは兎も角、会津を去る準備をすることになった。
同時に、隊士たちにおれたちのことを告げた。
のはずであったのであるが、みんなの反応が薄すぎた。ってか、「ふーん。それで?」とか「だから、なに?」ってどうでもいいって感じであった。
ふむ。みんな、よく理解できていないにちがいない。あまりにも突拍子がなさすぎるから、いたしかたがなかったのかもしれない。
しかしながら、俊冬と俊春と相棒のことを告げられると、「やはりすごいのだな」とか「三人に任せていれば安心だな」とか、大騒ぎになった。
結局、三人のもともとの高評価にさらに「いいね」が増えただけである。さらには、尊敬や憧憬の念が強くなったようだ。
おれがひそかに画策していた「相馬主計ってすごかったんだ」作戦は、いとも簡単に潰えてしまった。それどころか、「相馬主計ってやっぱりおかしなやつだったんだ」ってレッテルをはりなおされただけであった。
もうあきらめよう。人間には器というものがある。おれは、おれの器を磨けばいい。
それが、お笑いってところがビミョーすぎるのだが。
正体をばらして、へこんでいる場合ではない。おつぎは、松本に仙台行きを了承させるというミッションに挑んだ。




