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桑名少将がホストだって?

 桑名藩は、藩主が不在の間にさっさと恭順にかたむいてしまった。

 反対派は、ことごとく粛清されてしまったのである。


 つまり、桑名少将はなす術もなく自分が治める藩を追われてしまったわけである。


 かれは京都所司代として守護職である兄を助け、それなりの成果をあげた。


 その末路がこれである。かえるべき場所をうしない、そのほとんどを奪われてしまった。



「兼定」


 副長やおれたちとの挨拶がすむと、桑名少将は相棒に抱きついた。


 その行動は、兄である会津侯とまったくおなじである。


 兄同様、かれもまた動物が大好きなのである。


 それにしても、気の毒すぎる。


 かれはまだ二十一歳とかそのあたりである。それこそ、現代なら大学生活を謳歌しつつ、就活にいそしむ年齢としであろうか。

 

 もしも桑名少将が現代に生きているのであれば、家柄をかんがえると学習院大学あたりに在学しているのであろうか。頭のよさからいけば、東京大学や一橋大学あたりかもしれない。


 バイトとサークル活動で大忙しというよりかは、自分の興味のあることをとことんきわめるために大学院にすすむか、その専門の職種の企業や機関に就職したりしそうなタイプにみえなくもない。

 そして、彼女もおなじようなタイプで、デートは趣味や興味のあることオンリーで、食事などもろくにせずに二人でそれに没頭しそうな感じがする。


 桑名少将は、両膝を折ってお座りしている相棒をぎゅっと抱きしめている。


 そのかれの哀愁漂う背をみつめつつ、妄想はさらにつづく。


 人間ひとはみかけによらずで、意外とチャラ男なのかもしれない。


 テニスサークルに所属し、バイトは居酒屋や飲み屋関係の呼び込み。駅や繁華街で、「お姉さんたち、どこにいくの?いまだったら、ハッピーアワーだよ」とか、「お兄さん方、いまでしたら空いてますよ」とか、素敵なスマイルと話術で大勢のお客さんを呼びこんだりするのだ。


 いやいや。それもちがうかも。


 そうだ。ホスト、ホストだ。売れっ子ホスト。キャピキャピの女子大生から熟年のおば様まで、幅広い年齢としの女性たちを虜にする超売れっ子ホストである。

 年収何千万と稼ぐ、驚くべきカリスマホストってわけだ。


 気がついたら留年に留年が重なり、大学は中退してしまう。

 結局はそのままその世界で生きていく、みたいな……。


「うーん、ホストとはいったいなにかな?」


 その問いではっとした。


 好奇心旺盛な永遠の少年である島田が、おれの相貌かおをのぞきこんでいる。


「きみ、マジでヤバいよ。よくもそこまで妄想できるよね。そのうち、現実と妄想の世界の区別がつかなくなるんじゃない?」


 俊春が、かっこかわいい相貌かおに控えめな笑みを浮かべつついった。


 どうやらかれは、おれのことを創造性豊かな作家だと勘違いしているみたいである。


「いや、わんこ。すでにいっちゃっているみたいだ。ミスター・ソウマに申しわけが立たないけど、こればかりはおれたちでもどうしようもないもんな」


 つぎは俊冬が、副長に激似の相貌かおにあたたかみのある笑みをたたえていった。


 かれもまた、おれのことを夢想に耽る少年だと勘違いしているみたいである。


「それで、ホストとは?桑名少将は、そのホストとやらなのか」

「わわわわわわーっ!ちがいます、ちがいますよ」


 好奇心旺盛な永遠の少年島田が大声でいいだすものだから、でかい声で叫んでしまった。


 全員の視線が、こちらへ向くのは当然のことである。

 そのどれもが、イタイやつをみるような冷めた視線ものであることはいうまでもない。


「主計っ!いったい、なんだというのだ?桑名少将の御前で、みっともない叫び声をあげるのではない」


 当然のことながら、副長が眉間に皺を刻みまくって怒鳴り散らした。


「ほんと、主計さんって子どもだよね」

「ああいうのを、マザー・ファッカーっていうんだよね」


 市村と田村のおれをみる双眸は、控えめに表現しても下種野郎をみるときの双眸である。


「ちょっ……。マザー・ファッカーって、どういう料簡でそんなサイテーなスラングを教えるんだ?」


 そのようにクレームをつけた相手は、俊冬と俊春にきまっている。


「おれたちじゃない」

「ぼくらじゃない」


 二人は、同時に答えた。


「イッツ・ミー。ビコーズ・アイ・アム・ゼア・ティーチャー・オブ・イングリッシュ」


 そのとき、現代っ子バイリンガル野村が、腰に拳をあて、ドヤ顔で宣言してきた。


「利三郎っ、おまえかっ」

「だめだよな、そういうスラングは」

「そうだよね。子どもに教えちゃいけないよね」


 激おこ状態のおれの横で、俊冬と俊春がしれっと野村を非難している。


 ってか、その野村に教えたのは、あんたらだろうが。


 野村、俊冬、俊春のせいで、全身脱力状態になってしまった。


「それで、ホストとはいったいなんなのだ?」


 絶賛脱力中のおれにとどめをさすかのように、島田がしつこくきいてきた。


「わたしもしりたいな。桑名少将がホスト?いったいそれは、いかなる存在なのであろうか」


 しかも、天然KYの斎藤までからんできた。


 どうでもいいことを、いったいぜんたいどうしてしりたがるんだ?


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