すげぇ!おれ、転生したんやないか?
しかし、それは近藤局長と井上が死んだということにたいしてである。かれらを責めるつもりは毛頭ない。
そもそも、そんな思いをもってもらいたくない。
かれらはベストどころか、フルパワー以上で尽くしてくれた。
非情なまでの運命と史実をどうにか回避するか、覆そうと必死に戦ってくれたのである。
そこではっとした。
このあと、最終局面でも最低最悪な運命がまちかまえている。
もしかして副長がいまこの話題をふってきたのは、それについて示唆したかったからであろうか。
それとも、かんがえすぎなのであろうか?
おれ自身、まだ混乱している。だから、いまはまだそれについてはふれたくない、というのが正直なところである。
「副長。そういえば、あのとき『気をつけろ主計っ、そいつは人斬りだっ!』って注意してくださいましたよね?みずしらずのおれにです。なにゆえ、その名を?まるで、その名を呼び慣れていて、自然に注意されたかのようでしたが」
ゆえに、不自然なことは承知で話題をそらしてしまった。
それが、いまのおれにできる最善の策だ。
もっとも、ずっと気にかかっていたことではある。
「なんだと?おれが?わからぬ。わからぬよ」
「わからぬって……。副長、ボケるにはまだ年齢が若すぎます。ってか、若年性アルツハイマーですか?兎に角、はっきりそうおっしゃったんです。その注意がなかったら、おれはいまごろここにいません。あの雨の夜、半次郎ちゃんに斬られて死んだでしょう。そもそも、あのとき襲っているのが史実でも名高い「幕末四大人斬り」の筆頭である「人斬り半次郎」で、斬られようとしているのが幕末の剣客集団新撰組の「鬼の副長」土方歳三だなんて、想像すらしていませんでした。極道の抗争だとばかり思っていましたから」
とぼける副長に、いっきにまくし立てていた。
「それに、あなたが主計と呼んだから、肇という名から主計にかえたんです」
「おいおい、かように責めてくれるな。おれは、ちゃんと事実をこたえただけだ。あのとき、なにゆえそう呼んだのか、どれだけ思いだそうとしてもわからぬのだ。だから、わからぬといったんだ」
副長がたちどまって体ごとこちらに向いた。
「奇妙な話だがな……。あのとき、その名が頭のなかに浮かんだ。なにゆえか、おまえの名がそう思えたんだ……」
副長は、マジな表情でいった。
おれも脚をとめ、副長にむきなおった。
「覚えているか?おれがおまえに、『もといた場所にもどってきたのではないのか?』というようなことをいったことを」
覚えている。屯所で、二人で話をしているときだった。
「あれもそうだ。おまえは、ずっといっしょにいて、しばしどこかにいっていてもどってきた。かような錯覚を抱いてしまった」
マジなイケメンをみつめていると、おれをいじったりしているのではないということがうかがえる。
「相馬主計は、史実にいるんだろう?」
「え、ええ、います。以前、お伝えしたとおり、この戦には生き残ります。が、新しい世になってから、敵に裁かれます。あぁその容疑は、おねぇを暗殺したというものです。敵にしてみれば、相馬主計は一応新撰組の最後の局長ですし、こじつけるなりなすりつけるなりしてでも裁きたいんでしょう。兎に角、相馬主計は島流しにされます。その島で妻を娶ります。そこはツッコまないでください。あくまでも史実なんで。それから赦され、しばらくは役人として働きますが罷免されます。そのあと、妻が外出中に自害するんです。妻には、自分の死は隠しとおすようにいいおいて、です」
以前、永倉たちに説明したときもそうであったが、いまもまるで赤の他人の未来を予言するかのように淡々と言葉をつむぎだしている。
「おまえ、相馬主計のうまれかわりかもな」
副長は、さらに衝撃的な一言をぶん投げてきた。いいや。その一言でぶん殴ってきたといったほうが適切かもしれない。
おれがうまれかわり?
転生ってやつ?
創作の世界のように?
タイムトラベルがありなんだ。転生だってありえる話だろう。
いやいや。実際、都市伝説的なそういう話をきいたことがある。web上にだって、検索すればあがってくる。
前世の記憶をもっているという転生者もいるくらいだ。
おれの場合は、それをもっていないだけなのかも。
いやマジ、そっちの筋書きがどんぴしゃなんじゃないのか?
おれってば、転生したんだ。仏教的にも輪廻転生ってあるくらいだし、相馬主計の転生したのがおれってあるあるかも……。
「主計、主計。この野郎、おれをおいてゆくな」
「あぁすみません、副長。つい、興奮してしまいました」
副長が、おれの腕をつかんでゆすっていた。それがなかったら、おれの妄想はどこまでいっていただろう。
兎に角、おれは転生して、もとの居場所にもどってきた。しかも、人類の叡智ともいえる最強の男たちを連れて。
だとすれば、おれたちはぜひとも史実をかえなければならない。
おれたちは、そういう使命を背負っているわけだ。




