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この父にしてこの子?

「ミスター・ソウマが、はじめて日本刀を握らせてくれたんだ。「之定」をはじめて握らせてもらったときの感動は、いまでもはっきりっと覚えている。こいつなんか超絶マックスに感動して、握りながら号泣したくらいだ。そのときにミスター・ソウマが剣技、つまり警視流をみせてくれた。以前、こいつが副長やきみにみせたのを覚えているだろう?ミスター・ソウマにみせてもらったのを、依頼の合間に時間をつくっては二人で練習したんだ。「YouTube」で公開されている警視流をはじめとした、さまざまな流派の動画を何度もみながらね。だから、じゃっかんちがっているかもしれない」

「ミスター・ソウマは、なにもなかったぼくらに精神こころと名と剣をあたえてくれた。ぼくらにとってそれらはなによりかけがえのないものだし、生きる気力になっている。だからこそ、ぼくらはミスター・ソウマが大切にしていたものを護りたいんだ」


 俊冬が口をとじると、俊春が言葉をついだ。かれは、鼻をすすり上げつつ指先で幾度も涙をぬぐっている。


「その護りたいものというのが肇君、きみのことだ。ミスター・ソウマはいつもきみのことを気にかけていた。きみのことを、よく話してくれたよ。『自慢の息子』だって、何度きかされたことか」


 泣き声でつづけられた俊春の言葉に、不覚にも涙がでそうになった。


 親父……。


 親父は、おれが餓鬼の時分ころから過剰に褒めたり、逆に怒り狂ったりということがほとんどなかった。どちらかといえば、いろんな意味で放置されていた。


 おれ自身、刑事でかである親父に心配かけたり世話をかけたりしたくないと餓鬼なりにかんがえていた。刑事でかという仕事は、超絶忙しいものだと理解していたからだ。ゆえに自分のことはある程度自分でやったし、勉強も人並み程度にはやったつもりだ。


 それだからなのかもしれない。親父もそこまで褒めたり叱ったりする必要がなかったにちがいない。


 それでもやはり、同級生が父親や母親にほめられたり叱られたりするのをみるとうらやましいときがあった。そういうときは、剣道や勉強をいつも以上にがんばった。そして、どちらもいい成績を残したりした。


 だが、たいていその報告は、いい成績をとったずっと後になってから伝えることになる。親父とゆっくり会話をかわすことができなかったからだ。たとえ伝えられたとして、「がんばったな」でおわってしまうことがほとんどだった。


 ひどいときには、それを伝えることすらできなかった。


 きっとおれの我慢がたりなかったんだろう。表情にでたり態度にでたりしていたのかもしれない。


 それこそ、だだもれだったにちがいない。

 

 親父は、おれのそんな気持ちに気がついていたんだろう。


 いずれにせよ、親父は愛情表現が苦手だったということもある。

 もしかすると、面と向かって伝えることができなかったのかもしれない。


 餓鬼なりにそうとわかってはいても、褒めてもらいたかった。頭をなでながら「よくがんばったな」と、がんばったときにはそういってほしかった。


 心の奥底で、そう願っていた。


 くそっ!いろんなことが悔やんでも悔やみきれない。


「肇君、すまない。おれたちがもっとはやく察知できていたら、ミスター・ソウマもきみも……」


 おれの心のなかをおしはかっているんだろう。俊冬が、そのように謝罪してきた。


 謝罪する必要なんてない。なぜなら、親父のこともおれのことも、かれらのせいではないからだ。それに、たとえかれらが親父の危機を察知し、来日して親父を護ろとしたところで、親父はぜったいにそんなことをかれらにさせるはずはない。


 かれらが、親父を狙う連中や黒幕を始末することも同様である。


 それよりも、親父はきっとかれらをそんな過酷で危険な世界から足を洗わせ、子どもらしい生き方をさせようとしたはずだ。


 それは、親父なら絶対にするはずのことである。


 二人に会った際、親父がかれらの頭をなでているのをみてしまった。親父に頭をなでられたことがなかったおれは、それをみて「隠し子なのか」と馬鹿な妄想をしてしまった。


 親父は、それほど二人のことが気になっていたのだ。


 もしかすると、親父ならかれらを養子にするなんてこともかんがえそうである。


 だとすれば、かれらとおれは兄弟になっていたかも……。


「二人のせいじゃない。それどころか、仇を討ってくれたんだ」


 兄弟になったかもという妄想は兎も角、二人を交互にみつつ言葉すくなめに応えていた。


「ミスター・ソウマから受けた恩はかならず返す。肇君。おれたちは、きみ自身ときみが護りたいものすべてを護り抜く」


 俊冬の言葉に、だれかの泣き声がかぶった。


 厳密には、島田である。どうしようもないくらい、号泣している。


 どうやらかれは、泣きのツボにはまってしまったようである。




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