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新撰組で一番ちっちゃい認定された男

「うっ……」


 俊冬がうめいた。かれのうめき声は、おれだけでなくほかのみんなにもきこえたはずである。


 いまのうめき声は、市村に抱きつかれて感極まってでたものではないはずだ。


 背丈問題に気がつき、思わずうめき声をあげてしまったにちがいない。


『背丈を抜かされたかも』、という非情なまでの現実に、いやでも気がつされたからであろう。


 ぶっちゃけ、市村のほうが俊冬よりもほんのちょっぴり高くなっているようにみえる。


 昨夜、再会したときには気がつかなかったのだろうか。ああ、そうか。気がつかないように努力したのかもしれないな。


 しかし、いまはがっつりハグしている。


 気がつかないようにするほうが、至難の業ってやつだ。


 い、いいや、ちょっとまって……。


 ってことは、背の高さにおいて俊冬と五十歩百歩のおれも抜かされて……。


 いやいや。おれも剣や竹刀や木刀を握っていないときには、猫背になっているかもしれない。背筋をしゃんとのばせば、市村や田村とおなじくらいになるだろう。


「すこし会わぬ間に、ずいぶんと背丈がのびたようだな?」


 そのとき、俊春がそんなことをいいだした。


「えっ、いまごろそんなこときくの?何度も接触してるよね?気がついていないなんて、ありえないよね?」


 そんなふうにツッコみたくなってしまったのは、いうまでもない。


 しかも、かれのいまの声はビミョーに震えていたような気がする。


 俊春は、これで新撰組のメンバーのなかで『もっとも背が低い男』として認定された。


 新撰組が、学校の朝の全校集会や体育の授業などのように整列したとする。  

たいてい「前へならえ」をするだろう。俊春は、腰に掌をあてる人という栄誉をになうことになるわけである。


 いや、ちょっとまてよ。まさか遺伝子の関係で、じつはまだ成長段階なんて可能性はあるのか?これからさき、二メートルくらいまで背が伸びるっていうまさかの展開になるなんてことはあるのか?


 うわっ……。


 俊春にめっちゃにらまれた。かれのかっこかわいい相貌かおが、真っ赤になっている。


 おれへの怒りによるものなのか、あるいは一番背が低いという現実をまのあたりにしたからか。


 ってかやはり、俊春は背丈にかんしては成長しきっているんだ。


 どんな優秀な遺伝子でも、かれの背を二メートルにすることはできなかったらしい。


 だがしかし、でかけりゃいいってもんじゃない。二メートルの物体が、あれだけ飛んだり跳ねたりするのはむずかしいのではないのか?


 そういう点においては、小柄な方がいいにきまっている。


「そうですか?そういえば、おおきくなっている気がしますね。ぽち先生をみおろしていますし」


 そんな無自覚で非情な田村の答えに、だれかがふきだした。


 人類の叡智を集めた最高傑作である男も、子どもらにとってはただの男でしかないのかもしれない。


「鉄、銀。二人きりで行動するのはいただけないな」


 ハグをおえてから、俊冬がいった。


「申し訳ございません。どうしても、ぽちたま先生の側にいたかったのです」


 田村と肩を並べ、市村が拳を握りしめて弁解する。


 副長がおなじことをいえば、二人はぜったいにこう答えるであろう。


「えーっ!だって、いいじゃないですか。町にはだーれもいないんですし。それに、わたしたちは剣術がそこそこできます。それから、駆けっこもはやいです。なにかあっても、びゅんと駆けてどーんと逃げることができますよ」


『大阪のおばちゃん』みたいに、擬音を駆使して屁理屈をいってのけそうだ。


「たま先生がいなくなってしまうのではないか、と案じてならないのです」


 田村が泣きそうな相貌かおでそんなことを付け足した。


 その言葉に、いわれた当人だけではなくこの場にいる何人がキュンときたであろうか。


 これがもし確信的犯行だとすれば、あざとさは最強レベルだ。


「どこにもいかない。だから、安心しろ」


 俊冬も、それ以上叱れるわけもない。


「ったく、案ずる必要はない。任務でどこかにいってもらうようなことはあっても、このまえのようなことはおれがぜったいにさせない」


 副長がちかづいてきて、市村と田村の頭をなでた。


「仕方がない。おまえらにも話しておく。いま、大切な話をしていたところだ。おっとおまえら、法眼に挨拶をしないか」


 副長は、松本の存在を失念していたようだ。


 まぁ、松本も新撰組おれたちにすっかりなじんでしまっている。その存在を忘れてしまっていても仕方がない。


 副長にうながされた子どもらは、松本に体ごと向き直った。


「はげ先生、おひさっ!」

「はげ先生、おひさっ!」


 二人の挨拶が、まるで双子のごとくぴったりそろった。


 ってかいまの挨拶、草すぎるぞ。


 おれだけでなく、みんながふきだしそうになっている。だれもがそれを、必死にこらえている。


「なっ、なにを無礼なことをいいだすんだ。いいなおせっ!」


 副長は、さすがにふきだすわけにはいかない。あわてて怒鳴った。


 すると子どもらは、きょとんとした表情かおでおたがいの相貌それを見合わせた。


()はげ先生、お久しぶりです」

()はげ先生、お久しぶりです」


 そして、いいなおした。


 こらえきれず、だれかが盛大にふきだした。いつものように、それはすぐに伝染する。


 尾関や尾形などは、腰をおって腹を抱えて大爆笑している。

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