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いや、やっぱあつかいが全然違いますよね?

「ぼくらがタイムスリップしている事実にくらべれば、ぼくらの存在のほうがよほどまともだよ。人間ひとは、頭がいい。こんなものをつくりだせるんだから」


 くすくす笑いながらいう俊春をみていると、これまでのかれよりずいぶんと年齢としが下のように思える。


 いや。実際は下なのだから、当たり前か。


 かれは自虐めいた笑みを浮かべ、俊冬にバトンタッチした。


「まだ信じられないかい?ああ、そうだ。異世界転生でなくって悪かったね。でも、おれたちがやってきたこと、これからやろうとしていることは、それとあまりかわらないかもしれないね。おれたちにはいろんなスキルがあるし。ただそれが、ドラゴンやゴブリンを退治したりやっつけたり、ダンジョンを攻略したりってことじゃないだけだ。国やVIPや悪党が相手で、基地をぶっつぶしたり空母や戦闘機を奪ったり破壊したり、暗殺したり血祭りにあげたり、だったってところかな」

「信じていないわけじゃありません。ただ、混乱しているだけです」


 フツー、だれだって混乱するだろう。


「ど、どういうことなんだ?」


 震えまくっている声が後頭部にあたったのでうしろをふりかえると、斎藤が両拳を握りしめ、わなわな震えている。


 いいや。斎藤だけではない。島田も蟻通も中島も安富も尾形も尾関もおたがいの相貌かおを見合わせながら、うろたえまくっている。


「ああ。こいつらも、主計と同様にずっとさきからやってきたってわけだ」


 副長が、厳かに告げた。


「ええええええっ!」

「そ、そんな」

「まさか」

「ありえぬ」

「よ、よくわからぬ」

「そ、それは……。馬たちの朝餉どころの騒ぎではないぞ」


 島田ら六人が同時に叫んだ。


 安富も、ようやく馬以外の話題に喰いついてきた。


 ってか、そこじゃない。そこじゃないぞ。


「ちょっとまって!まってください」


 混乱は、ダメだしせねばという意欲に瞬時にしてとってかわった。


「な、なにゆえ?なにゆえ、おれのときには反応薄っ、ていうか無反応だったのに、この二人のときにはそんなに反応するんです?」


 俊冬と俊春のいうことが本当なら、相棒もふくめておれたち四人・・はおなじ条件のはずである。


 なんで?なんでこんなにもあつかいがちがうんだ?


 いまのこの反応こそが、おれの期待していた、もとい本来の反応なはずではないか。

 

「ってか副長っ、『主計と同様にずっとさきからやってきたってわけだ』っておっしゃいましたよね?ということは、副長はこの三人・・のことを最初はなっからご存知だったってわけですか?」

「ああ、当然だ」


 あまりにもフツーに答えが返ってきたので、一瞬、なにがなにやらわけがわからなくなった。

 あっ、もとからわけがわからないので、超絶わけがわからなくなったというわけである。


「あの雨の夜、ぶっ倒れたおまえをおれが屯所まで運んだと思ったのか?「兼定こいつ」より重いもんをもったことのないおれが、おまえを抱き抱えるか背負うかして屯所まで運んだと?はんっ、かようなわけがなかろう」


 い、いや、副長。そんなこと、ドヤ顔でいいきるところじゃないですよね?


 あの雨の夜、勘違いとはいえ中村半次郎こと「人斬り半次郎」らに襲われている副長を助けに飛びだしていったっていうのに。


 もっとも、あのときはまさか襲撃者が「人斬り半次郎」で、襲われている側が土方歳三とは想像もしなかった。


 てっきり、極道やくざの抗争だと思いこんでいたのだ。


 あのときは、職業柄自分がすべきことをしたにすぎない。


 それでもやはり、助けにはいったことにかわりはない。


 それを『おれが運ぶと思うか』、だなんて……。


 ひ、ひどすぎる。


 悲劇のヒロインみたいに、泣きながら丘を駆け下りてってやりたくなった。

 

 いや、やめておこう。どうせスルーされるだけなんだから。


「あの雨の夜、おれたちはきみのあとをつけていたんだ。そして、迷い込んだ」


 俊冬に視線を戻してかれと視線それが合うと、かれは肩をすくめた。


 迷い込んだ……。


 この時代に、という意味である。


「きみが倒れたあと、きみのことを副長に託したわけだ。おれたちのことは伏せたまま、なにもしらぬままのフリをしてきみを受け入れて欲しい、と。そして、おれたちがきみを屯所まで運んだんだ。こいつがきみを「お姫様抱っこ」をしてね」

「ええっ?お、お姫様抱っこ?」


 俊冬の最後の部分に反応し、思わず俊春をみてしまった。


 その光景を想像すると、めっちゃ恥ずいなんてレベルじゃない。


 ぜったいにだれにもみられたくないし、しられたくない黒歴史の一つとなってしまった。


「そんなこと、するわけないじゃないか。背負ったんだ。きみを背負ったんだよ」


 俊春が気色ばんだ。


 よかった。お姫様抱っこされるくらいなら、背負ってもらったほうがいい。


「屯所までおまえを運んでもらい、そこで利三郎が二人からおまえを引き継いでなかまで運んだってわけだ」

「はあああああ?ならば、利三郎も二人のことを?」


 ぶったまげた。


 あの(・・)野村まで俊冬と俊春のことをしっていた、と?


「ザッツ・ライト。ゼイ・アー・マイ・イングリッシュ・ティーチャー」


 副長もそうであるが現代っ子バイリンガル野村も、アカデミー賞もたいしたことがないって思えるほどの演技力である。


 かれの英語力が抜群なわけも、これで納得がいった。


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