再会、そして「兼定」の正体
そのちいさな公園には、先客がいた。
おれとタメくらいの子どもが、たった二人でいたのである。なぜか声をかけたくなったので挨拶をすると、挨拶し返してくれた。
すると、二人がちかづいてきたではないか。
ちかづいてきて気がついた。
おおきい子はおれとタメくらいであるが、ちいさい子は年下らしい。
そのちいさいほうの子が、おれの剣道の防具と竹刀に気がついたようだ。
『それ、剣道でつかうもの?』
たしか、そうきかれたと思う。
それから、なりゆきで勝負をしたんだった。
「あのとき、こいつはおおよろこびした」
俊冬のささやき声とともに、おれを支えているかれの掌に力がこもった。
軍服とその下のシャツをとおしてもなお、かれの掌の冷たさが感じられる。
かれは、超冷え性なのである。
「だましてすまない。おれとこいつは、人間を殺すために人間につくられた兵器なんだ」
『人間を殺すために人間につくられた兵器』
言葉はでず、頭もまだボーっとしているが、無意識のうちに両掌をあげてかれの相貌をさわっていた。
「肇君。それは、ネタかい?おれたちは、そっち系じゃない。溶鉱炉のなかに沈んでいきながら、「I'll b〇 back 」なんていわないよ。生身の身体だ。だいいち、きみはおれたちの子どものころの姿をみているだろう?超合金と人工皮膚では、いくらなんでも成長はしないさ」
「じゃあ、ゴキブリ?」
「あぁ、火星の人型ゴキブリのコミックのこと?あれもちがう。おれたちは遺伝子操作によってつくられたんだ。創作的に表現すれば、非人道的行為によってつくりだされたというやつだね」
いやちょっとまて。そんなの、創作の世界まんまじゃないか。
現代人であるおれでも、いまかれがいっていることがよくわからない。
「アメリカが中心になり、イギリスや日本やほか数か国の研究チームが何年ものときと金を費やし、できあがった最初で最後の人型の武器が、おれとこいつというわけ。ほら、映画や小説でよくあるだろう?人間のいい遺伝子をかけあわせてつくりだした『生物』ってやつ。ハイブリッドとかキメラっていうのかな?おれたちは、狼と人間との遺伝子でできている。その人間の遺伝子のメインっていうのが……」
かれはおれから視線をはずすと、それをそのまま副長へと向けた。
「ま、まさか、副長?」
なんてことだ。ってか、『なんてことだ』どころのレベルじゃない。
兎に角、兎に角、頭がパニックすぎてなにもかんがえられない。
落ち着け、おれ。とりあえずは落ち着こう。
浅く深呼吸をしながら、俊冬と俊春をあらためてみてみた。
いま、はっきり思いだした。
たしかに、二人ともあのときの面影が残っている。
たしか、親父がいっていたっけ。
『おおくの人を救っていて、これからもおおくの人を救うだろう』
そんなようなことを。しかも、表沙汰にはできないダークヒーローっぽいような存在であるようにもいっていたっけ。
さらに思いだした。
おれが親父の持ち物からみつけた写真のことである。
病院のようなところで、検査のときに着るような服を着せられた二人の子どもだった。まだ四歳とか五歳とかそのくらいの年齢の子どもたちの写真を、たまたまみつけたのである。
それが、その子たちだった。
点がじょじょに線になってゆく。
たしかに、副長の遺伝子をっていうのなら似ていて当然だ。
「おれは副長のが、こいつは狼のがより強いようだ」
おれをよんだ俊冬がいう。
「あぁそれと、世界中に優秀な人間の遺伝子がおおく残っているなかで、どうして『土方歳三』のが?っていう疑問はなしにしてくれ。おれたちにもそれはわからない。おれたちをつくった研究者どもは、そういうことはいっさい明かさなかったし、かれらに尋ねることも許されなかったんだから。それと、人道的な観点から、おれたち以降は人型の実験はいっさいなくなってしまった。その実験は、現代でいまでもつづいている。ただ、アメリカや日本は、おれたち以降は人型から犬型にかえたんだ。中国もアメリカや日本のをパクって、クローン犬の研究をはじめたんだ。おれたちがこっちにくるまでに仕上がったようだから、もう公にしているんじゃないかな」
その最後のかれの言葉に、ドキリとした。
下をみおろすと、相棒が立ち上がっておれをじっとみている。
そのつぶらな瞳に、犬ではない、しいていうなら人間の知性がはっきりと宿っているのが、なにゆえかみてとれた。
「肇君、きみの妄想は完璧だね。そうだよ。きみのかんがえどおりさ。かれは、おれたちとまったくおなじ遺伝子をもつ、犬バージョンってわけだ。きみを護ってもらうために、きみがミスター・ソウマの墓参りをしたタイミングで、おれたちがひきあわせたんだ。ほら、墓守の住職のところにシェパード犬の親子がいただろう?あれには驚いたよ。あんな偶然もあるのかってね。それは兎も角、おれたちはその偶然を利用した。ちなみに、兼定はある研究所から盗みだしたんだ」
俊冬の説明は、おれをまたもや混乱に突き落としてくれた。
「ちょちょちょっ、そんな話、信じろっていわれても……」
「肇君、いやだな」
俊春がクスクスと笑いだした。
話し方もがらっとかわってしまっている。




