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ちょっ……未来からやってきてるんですよ。わかってますか?

「でっ?それで?」


 その松本を横目に、「それがどうした?」的に問うのは、安富である。


 くそっ!まったく動じていないじゃないか。


 かれならきっと、競馬で三冠を成し遂げた名馬「シ〇ザン」とか「ディープ〇ンパクト」とかを現代から連れてこないかぎり、驚いてはくれないだろう。


 ちなみに、三冠とは競馬で三歳馬のクラシックレース「皐月賞」、「日本ダービー」、「菊花賞」のすべてを制することをいう。


「『でっ?それで?』って……」


 さすがの副長も、こんなリアクションになるとは思ってもいなかったらしい。鳩が豆鉄砲を喰らったみたいになっている。


「どこから参ろうが、主計は主計です」


 って、安富よ。いまのはいい意味でいっているのか?


「たしかに。主計がなんであろうと、たかだか主計です」


 ってか、中島よ。それはいい意味でいっているんだよな?


「さよう。主計であるからな……」


 いや、尾形よ。いい意味、なんだよな?


「いやいや。たかが主計、されど主計。なんであろうが気にもならぬ」


 まってくれ、尾関。それもいい意味にちがいない、よな?


「いまさら?主計でしょう?まったくもってくだらぬ。どうでもいいことだ」


 ちょっ……。


 蟻通よ。いい意味って信じていいんだよ、な?なっ?


「ジーザス・クライス!」


 そのとき、現代っ子バイリンガル野村がいまのおれのすべてを代弁してくれた。


「オー・マイガッ!」


 さらに、好奇心旺盛な永遠の少年島田まで、おれの本音を全力で表現してくれた。


「主計、よかったではないか。これでさらにおまえという男が認められ、いじられることになる」


 さらにさらに、天然KYな斎藤が、謎解釈をおしつけてきた。


「よしっ!主計の話題はしまいだ。ときがもったいない」


 さらにさらにさらに、副長がさっさとシメてしまった。


「ちょっ……。非現実、非論理、非常識、SFでファンタジーチックなおれのことを、こんなに自然で安易に受け入れていいっていうんですか?理解に苦しみます」

「はははっ!エイリアンとかUMAとかいわれるより、よほどいいではないか」

「はぁ?利三郎、なんでそんな言葉をしってるんだよ。ってか、そこじゃないよな?しいて表現するなら、おれはタイムトラベラー、つまり『時の旅人』だ。地球外生命体とか未確認動物じゃない。ってか、そこでもないぞ。ったく」


『時の旅人』……。


 旅人であるかぎり、またもとの時代にもどったり、あるいはほかの時代に旅したりってことはありえるんだろうか。


「やかましいっ!主計、みなはいまいるおまえしかみていない。過去がどうであろうが、どこからこようが、興味はないんだよ。さらには、そんなことで左右されもしないってわけだ」


 副長に怒鳴られてしまった。


 たしかに『過去は問わぬ』は、新撰組のモットーの一つではある。


 とはいえ、おれの場合は過去の次元がちがう気がする。


「兎に角、主計についてはだれも気にしないし、気にするつもりもない、ということだ。それで、お・し・ま・い、だ。いいな?この調子なら、隊士たちも同様の反応だろうな」


 そ、そんなぁ……。


 副長の推測というよりかは断言に、その場にくずおれてしまった。


『主計ってすごいやつだったんだ』


 神か仏のあつかいになるはずだったのに……。


「主計のことはどうでもいい。ぽちたま、つぎはおまえらの番だ。いまのうちに、サクッと(・・・・)告げてしまえ」


 ショック大のおれの頭上で、副長がそんなことをいっている。


 すると、俊冬と俊春の気配がちかづいてきた。


 相棒も、とうぜんのごとく俊春とともにやってくる。


「きいてもらいたいことがあるのだ」


 俊冬のそのマジな声に、傷心の双眸をあげた。三人・・がみおろしている。かろうじてこくりとうなずいた。


 こんな展開は、あまりにも想像の斜め上をいきすぎている。


 三千歩譲ってタイムスリップがどういうことかを理解できていないとしても、もうすこし驚いてほしかった。相馬主計という男のことを、もうすこし見直してほしかった。


 それなのに、それなのに……。


 なぜだ?なぜなんだ?なぜ、映画やドラマや小説や漫画みたいな反応がないのだ?

 やはり、そういったものはしょせん創作のなかのもの。

 ここでは現実味がなさすぎて、いまのような塩対応にならざるをえないのか?


 それとも、これはおれだからなのか?


 相馬主計だから、こんなそっけなくってどーでもいい対応なのか?


 もしも、現代からおれではないイケメンや美女がタイムスリップしてきたのなら、ちやほやされたりまともな対応になったのであろうか?


 いったいおれのなにがいけなかったのか……?


「はやくしやがれ、ぽちたま。主計の妄想がまたはじまったぞ。面倒だ。とっとといってしまえ。このままでは、マジ(・・)で陽が暮れてしまうぞ」


 いらちの副長が、俊冬と俊春の尻を蹴っ飛ばしつつ急かす声がきこえてきた。


 ちなみに、『いらち』とは、せっかちという意味の関西弁である。




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