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つ、ついに暴露しちゃったよ

 安富なら、愛用の「竹根鞭」で存分に虐待してくれるだろう。

 それでなくとも、乗馬中に乗馬スタイルが悪すぎると鞭でぶたれまくったのである。


 かれならきっと、馬の朝餉がちょっとおくれたというささやかな理由でおれをぶちのめす。


 ちなみに「竹根鞭」というのは、竹の根の部分をつかっている鞭である。滋賀県の草津市の工芸品で、鞭だけでなくナイフやフォーク、傘の柄やハンドバックの持ち手等いろんなものにつかわれていたりする。


「竹根鞭細工」は、世界的にも有名なのである。


 かの喜劇王「チャールズ・チ〇ップリン」のトレードマークであるステッキは、その「竹根鞭細工」であるから驚きである。


 かといって、おれがそんな由緒正しき鞭でぶちのめされていいものではない。


「主計。いじられるのは、みながおめぇを好きだからだ」


 松本がごつい相貌かおにたのしそうな笑みを浮かべ、そう慰めてくれた。


「おめぇも、いちいち反応するからみなが面白がるんだ」


 かれは、さらにいう。


 たしかに、いちいちリアクションをとってしまう。面白がらせているっていうのは、たしかにそのとおりかもしれない。


 だがしかし……。


 いじられてスルーなんてできるわけがない。そこに返してこそ、しかも最高の返しをしてこそ、立派な関西人である。


 いや、ちがう。ちがうぞ、おれ。


 いいなおそう。


 いじられてスルーできるほど、おれは大人ではない。


 うん。きっと、これがフツーの反応だよな。


「もっとも、おめぇもいじられてうれしいんだろう?それはそれでいいんじゃねぇのか?才助に死ぬほどぶたれたって、いまはおれがいる。痛みのとれるおまじないくらい、いくらでもやってやるよ」

「って、法眼までいじらないでください」


 おれがここまでいじられキャラだったとは、自分でも気がつかなかった。


 またしても、大笑いされてしまった。


 安富も笑っている。でも、なんとなく双眸が怖い気がする。

 若松城にいる馬たちが腹をすかせているであろうことが、気にかかりすぎているのだ。


 安富よ。馬だけではない。若松城にいる人間ひとだって、まともに朝餉にありつけないのだ。


 飼葉のストックがあるだけ、まだマシなのではなかろうか。


「すまねぇ。つい、な」


 松本がテヘペロっているのをみながら、いじられキャラもありかな、なんて前向きな気持ちになってしまった。


「はやいとこいわせてくれ」


 副長がしびれをきらしている。そう急かしてきた。


 前フリをしてから、ずいぶんと経っているかもしれない。そろそろ告げてもらわないと、それこそ前フリだおれにおわってしまう。


「主計だがな、じつはいまの人間ひとではない」


 おおおおおっ!ついに、相馬主計の秘密が明かされたぞ。


 そのとき、頭の上を二羽のからすが飛んでいった。どちらも、漫画にでてくるからすまんまに、「アホーッ、アホーッ」って鳴いているようにきこえる。ってみょうに感心していると、今度は大量のからすが頭上を飛んでいった。


 なにこれ?「アルフレッド・ヒ〇チコック」監督の映画か?


「……」

「……」

「……」

「……」


 おれのことをもとからしっている島田と野村は兎も角、はじめてきかされた蟻通も安富も中島も尾形も尾関も、一様にきょとんとしている。

 ってか、無反応である。


 そうか。いまの副長の話の意味がわかっていないってわけだ。


 現代人なら、あらゆる創作の世界でタイムスリップという事象をしっている。だからこそ、リアルの世界で「こいつは過去からやってきた織田信長おだのぶながだ」とか「未来からやってきたきみの子孫だ」と告げられたら、「まさか」や「嘘つけ」というふうに、たいていは否定したり疑ったりする。


 が、いまはちがう。そもそもタイムスリップとかの概念がまったくないといっていい。

 そこに『未来からやってきた』っていわれても、ぴんとくるわけがないだろう。


 そうかんがえれば、副長や永倉たちの反応が薄かったというよりかはすんなりうけとめられたのも、そういう概念がなかったからなのかもしれない。


 おれが遠い異国から船でやってきた金髪碧眼のイケメン異国人だと告げられた方が、現実味があって驚かれたにちがいない。


「そういつぁ驚きだ」


 ってかんがえていると、一人だけ反応してくれた人がいる。


 松本である。さすがは江戸っ子。って、それは関係ないな。兎に角、ちょっとかわったあたらし物好きなだけはある。

 ちゃんと理解した上で、驚いている。医者という職業柄、現実重視かと思いこんでいた。


 しかし、かれはおれがかんがえている以上にあらゆる意味で柔軟なようだ。


「なるほどなぁ。そういわれてみりゃぁ、ほかのもんとなんかちがってる気がするな」


 かれは指を二重顎にあて、おれのことを上から下までガン見しつつうなずいている。


 なんかビミョーである。真実をしってなお、『気がする』程度なんだ。


 まぁたしかに、おれはこの時代にガチに馴染んでしまっている。


 そんな風に思われても仕方がないのかもしれない。



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